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全銀協「事業再生ガイドライン」を公表、迅速かつ円滑な私的整理へ

 3月4日、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」が公表され、「中小企業の事業再生等に関する研究会」の事務局(全国銀行協会)による記者説明会が開催された。
説明会には、座長の小林信明弁護士(長島・大野・常松法律事務所)らが出席した。
ガイドラインは「中小企業の事業再生等に関する基本的な考え方」と、「中小企業の事業再生等のための私的整理手続」から構成され、中小企業者と金融機関、双方が果たすべき役割を明確にしている。


ガイドラインは、中小企業者の置かれた状況を「平時」と経営状況の悪化による「有事」に分け、「中小企業の事業再生等に関する基本的な考え方」として、以下が提示された。

◇平時における対応
中小企業と金融機関での信頼関係の重要性が強調された。
中小企業には、(1)収益力の向上と財務基盤の強化、(2)適時適切な情報開示による経営の透明性確保、(3)法人と経営者の資産等の分別管理、(4)環境の変化への対応に努め、有事の兆候を速やかに報告する予防的対応に努めることを求めた。
金融機関には、(1)中小企業の経営課題の把握・分析、(2)最適なソリューションの提案、(3)開示された事実だけでなく、経緯なども踏まえたうえでの誠実な対応、(4)有事の兆候を把握し、実効性のある課題解決の方向性を提案するなどの予兆管理を求めた。

◇有事における対応
中小企業と金融機関は、一体となって事業再生等に向けて取り組むことを明記した。
中小企業には、(1)平時以上の適時適切な情報開示、(2)自律的・持続的成長に向けた本源的な収益力の回復、(3)実行可能性・経済合理性などの確保された事業再生計画策定に取り組むことを求めた。
金融機関には、(1)合理性や実現可能性を踏まえた事業再生計画策定の支援、(2)実務専門家や外部機関を活用した支援を求めた。

◇私的整理検討時の留意点
「経営者保証に関するガイドライン」のさらなる周知と活用を進め、保証人の保証債務は、主債務と保証債務の一体整理に努めるとした。中小企業者が法的整理を実施する場合も、保証人は「経営者保証に関するガイドライン」を活用することを掲げている。

◇事業再生計画成立後のフォローアップ
中小企業は、(1)事業再生計画の実行に向けた誠実な取り組み、(2)金融機関への適時適切な報告、金融機関は、(1)実務専門家等と協力した事業再生計画の継続的なモニタリング、(2)必要に応じた計画の見直しおよび法的整理や廃業への移行、に取り組むことを明記した。

また、「中小企業の事業再生等のための私的整理手続」として、「再生型私的整理手続」と「廃業型私的整理手続」の概要が定められた。
◇再生型私的整理手続
中小企業は、主要債権者の同意に基づいて第三者支援専門家を選定し、5年以内の実質的債務超過の解消や経営者退任を必須としない、中小企業の実態に即した事業再生計画案を作成すると明記した。
具体的には、第三者支援専門家から事業再生計画案に対する調査報告書の作成を受け、すべての対象債権者と債権者会議を開催。債権者が事業再生計画案に反対する場合は、反対理由の説明を必要とする。保証債務については、「経営者保証に関するガイドライン」を活用し、一体整理に努める。
また、成立した事業再生計画をもとに達成状況のモニタリングを行う。この結果、計画と実績の乖離が大きければ計画の変更、法的整理や廃業を検討することを明記した。

◇廃業型私的整理手続
中小企業が作成した経済合理性のある弁済計画案について、第三者支援専門家による調査報告書の作成を受け、債権者会議により弁済計画を成立させる。なお、保証債務は「再生型」と同様に取り扱う。

ガイドラインの概要が解説された後、質疑応答に移った。主な内容は以下の通り。
Q. 従来の私的整理ガイドラインとの違いは
A. (1)第三者支援専門家の関与、(2)中小企業の実態に即した基準への変更(債務超過解消を3年以内から5年以内へ変更、経営者退任を必須としないなど)、(3)計画案に反対する債権者に対して誠実な説明を求めることの明記、が主に挙げられる。中小企業と金融機関、どちらか一方でなく、双方に負担をしてもらうことでバランスの取れたガイドラインになったと考えている。

Q. 「平時」と「有事」を分けた理由は
A. 「平時」と「有事」を区別することで、有事になる前に、中小企業が金融機関と協力して経営改善ができる。有事に至らないための予防効果や、万が一有事に至った場合でも早期の事業再生を目指すことが狙いだ。

Q. 法的整理との違いは
A. 法的整理に入る前に私的整理で対応できれば、事業価値の毀損も少なく、取引先への影響も小さく済むという利点がある。

Q. 中小企業再生支援協議会とのすみ分けは
A. (ガイドライン適用開始前の)最初の段階から分ける必要はないと考えている。今後、実際に使われていくなかで、それぞれの利点をもって判断されていくものだろう。

Q. 「廃業型私的整理手続」を策定した理由は
A. 廃業すべき企業を、放置や破産などに向かわせるのではなく、透明性のある手段で私的整理する目的があった。すべての企業が事業再生できるわけではなく、なおかつすべての事業者が事業再生を目指しているわけではないという前提で、中小企業の実態を踏まえたものにするため策定した。

Q. リスケ対応先の私的整理を進めるのか
A. リスケ先を私的整理に移行するということは考えていない。ただし、リスケを継続したまま放置されている事業者のなかには早期の対応をしたほうがよいケースもあり、ガイドラインは対応の一助になると考えられる。

説明会では、「新型コロナウイルス」関連支援としても利用されている「セーフティネット保証4号」について言及があった。現在の100%保証から、金融機関に伴走支援を促すような制度への見直しの必要性も示唆された。
また、事業再生のなかで法的整理や廃業の検討を明記したことは特筆される。
ガイドラインは、「中小企業活性化パッケージ」の「中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジの総合的支援」の一部として位置付けられ、2022年4月15日からの適用を予定している。
コロナ禍で傷んだ中小企業の経営改善に「事業再生ガイドライン」がどう活用され、求められる効果を発揮できるのか注目される。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年3月8日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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