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上場メーカー「国内の工場・製造拠点」閉鎖・縮小調査 2021年はコロナ前比2倍の40社

 製造業で国内の工場・製造拠点の閉鎖や縮小が相次いでいる。上場する製造業約1500社のうち、2021年に国内の工場や製造拠点の閉鎖や縮小を開示したのは40社だった。コロナ前の2019年(17社)の2倍以上(135.2%増)で、大幅に増加した。
 人口減少に加え、産業構造や消費者動向などの需給変化や、事業再編を目的とした拠点集約が進んでいる。特に、化学メーカーやガラスメーカーなど、素材関連の生産拠点の見直しが件数を押し上げた。
 2022年はこの流れが一段と加速しており、2月25日までに5社(8拠点)の閉鎖・縮小が判明している。主な企業では、石油製品のENEOSホールディングス(東証1部)が和歌山製油所(和歌山県和歌山市)の操業を停止、ストッキング・タイツ等下着製造のアツギ(東証1部)が子会社のアツギ東北(青森県)の製造拠点2カ所(青森県むつ市、岩手県盛岡市)の2022年中の閉鎖を発表。雇用の受け皿であり、地域経済の有力拠点である工場・製造拠点の閉鎖が相次ぐ。
 長引くコロナ禍によるライフスタイルの変化が定着しており、食品関連や繊維などの業種でも製造拠点の閉鎖・縮小がアナウンスされている。引き続き、エンドユーザー(消費者)に近い業種でも製造拠点の閉鎖や集約が増える可能性も高まっている。

    本調査は製造業の上場企業を対象に、工場、製造・研究拠点(子会社含む)の閉鎖、操業停止、撤退・縮小を集計した。
    対象年月は、原則として開示日を基準とした。
    当該企業のリリース、『会社情報に関する適時開示資料』(2022年2月25日公表分まで)などに基づく。

業種別 2021年は素材関連が急増

 製造拠点の閉鎖・縮小を開示した製造業を業種別でみると、2019年、2020年の2年連続で電気機器が最多だった。また、機械、金属関連、精密機器などが上位を占めた。
 一方で、2021年は化学、ガラス・土石と素材関連が上位を占めた。また、航空機や造船などの輸送用機器でも需要低迷から4社が拠点の閉鎖・縮小を開示した。
 消費者に近い食料品も4社が拠点集約を目的に閉鎖・縮小を発表した。このうち、日本たばこ産業は、子会社のテーブルマークで香川県内の3工場の閉鎖を決めた。2022年も飲料大手のアサヒグループホールディングス(東証1部)を含む2社がすでに拠点閉鎖を開示している。今後も、食料品関連では拠点集約、事業再編が続きそうだ。

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所在地別 関東・東北・近畿が中心、地方の雇用への影響懸念

 閉鎖・縮小した製造拠点を所在地別でみると、2019年から2021年の過去3年間で最も多かったのは埼玉県、大阪府の各9拠点だった。次いで、栃木7カ所、愛知、兵庫各6拠点と続いた。こうしたエリアは、1社で複数の製造拠点を開設している企業も多く、生産コストの見直しや物流の効率化、施設老朽化などの要因も重なり、生産拠点の集約が進んでいる。
 一方、上位に入っていないが、和歌山県では日本製鉄が2020年に和歌山製鉄所の高炉1基の恒久休止を発表した。さらに、2022年にはENEOSホールディングスが和歌山製油所の閉鎖を発表した。両社とも需要減など構造的問題を背景にした撤退表明となった。だが、地元の重要な雇用の受け皿でもある重厚長大産業の拠点撤退は、代替の確保が難しい地域では経済活動の停滞につながる。人口の急減を招く可能性も現実味を帯びるだけにその影響は大きい。

工場撤退3


 製造拠点の閉鎖・縮小は、コロナ禍による国内外の需給転換も背景に増加が鮮明になっている。2021年に入ると、業績が堅調な業界トップサプライヤーでも拠点の見直しや事業の再編に動き出している。
 2022年も2月25日までに、すでに5社・8拠点の閉鎖・縮小が開示されている。特に、岡山県や香川県、愛媛県など中・四国や青森県、秋田県などの地方では雇用への影響が懸念される。
 コロナ禍で顕在化する需給転換に加え、人手不足や資源高、原油高など、先行きは不透明感が増している。さらに、ロシアのウクライナ侵攻や物流コスト高などの要素も重なり、製造業の拠点閉鎖・縮小は今後も、高水準で推移する可能性が高まっている。

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