宿泊業の倒産は2年ぶりに減少、100件割れ【2021年】
2021年(1-12月)の宿泊業倒産(負債1,000万円以上)は86件(前年比27.1%減)で、2年ぶりに前年を下回った。100件を割り込んだのは2019年(75件)以来、2年ぶり。件数は減少したものの、新型コロナウイルス関連倒産は47件(構成比54.6%)と過半数を占め、コロナ禍の情勢を色濃く反映した。
東京商工リサーチ(TSR)が昨年12月に実施したアンケート調査では、宿泊業の81.8%が 「債務の過剰感がある」または「債務過剰となった」と回答し、全業種の中で回答比率が最も高かった。宿泊施設を保有する企業も多く、宿泊業は債務が膨らみやすい傾向にあるなかで、実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)やコロナ特例リスケなどの資金繰り支援策で、なんとか踏みとどまっている企業が多いことを伺わせる。
また、宿泊業の倒産を形態別でみると、「特別清算」が1割超(構成比13.9%)を占め、2021年の企業倒産全体(同4.8%)より9.1ポイント高い。債務以外の事業を他社に切り離して会社を清算するスキームを選択するケースで、コロナ収束後のインバウンドなど旅行需要の回復に期待を寄せている。
だが、新型コロナの変異株「オミクロン株」の感染急拡大により、収束時期の見通しは不透明となった。コロナ禍の長期化は人流の抑制を招く可能性もあり、宿泊業の息切れ倒産を増加させる恐れがある。
新型コロナ関連倒産が過半数を占める
2021年(1-12月)の宿泊業倒産(負債1,000万円以上)は86件(前年比27.1%減)で、2年ぶりに前年を下回った。前年(118件)は2013年以来、7年ぶりに100件を超えたが、2年ぶりに2桁台に抑えられた。
一方、負債総額は1,396億円(前年比140.6%増)で前年比2.4倍増と、2年ぶりに前年を上回った。負債が1,000億円を超えたのも2年ぶりで、直近10年間では2019年(1,261億2,700万円)を上回り最大となった。4月に特別清算の開始決定を受けた(株)東京商事(東京、負債1,004億8,300万円、5月集計)が、宿泊業では14年ぶりに負債1,000億円超の大型倒産となり、負債総額を押し上げた。
宿泊業倒産のうち、コロナ禍が起因した倒産は47件にのぼり、全体の5割超(構成比54.6%、前年55件)を占めた。構成比は前年(46.6%)より8.0ポイント上昇し、長引くコロナ禍の影響が現れた。
原因別 販売不振が約8割
原因別の最多は、「販売不振」の67件(前年比15.1%減)で、全体の約8割(構成比77.9%)を占めた。構成比は前年(66.9%)より11.0ポイント上昇し、コロナ禍でジリ貧に陥り行き詰まった様相をみせる。
このほか、「既往のシワ寄せ(赤字累積)」が8件(前年比63.6%減)、「他社倒産の余波」、「設備投資過大」、代表者死亡などを含む「その他」が各3件など。
形態別 破産が8割
形態別では、「破産」が69件(前年比25.0%減、前年92件)で最も多かった。構成比は80.2%で、全体の8割を占めた。
一方、再建型の「民事再生法」は4件(前年2件)にとどまった。
長引くコロナ禍で業績悪化に歯止めがかからなかったり、設備投資が重荷になった宿泊業が先行きの見通しが立たず、事業継続を断念し破産を選択しているケースが多い。
負債額別 1億円未満は1件減にとどまる
負債額別は、1億円以上5億円未満が37件(前年比27.4%減)で、全体の4割(構成比43.0%)を占めた。
このほか、1千万円以上5千万円未満が21件(前年比4.5%減)、10億円以上が11件(同35.2%減)、5千万円以上1億円未満が10件(前年同数)など。1億円未満の倒産は1件減(32→31件)にとどまり、小規模規模の割合が高まった。
従業員数別 5人未満が半数
従業員数別では、5人未満が54件(前年比8.4%減、前年59件)で、全体の6割(構成比62.7%)を占めた。構成比は前年(50.0%)より12.7ポイント上昇した。
次いで、5人以上10人未満が11件(前年19件)、10人以上20人未満が9件(同20件)で続く。
また、50人以上300人未満は前年同数の6件だった。倒産規模の両極化が進んだことを伺わせる。
地区別 九州と北海道で増加
地区別では、関東23件(前年比4.1%減、前年24件)が最多。そのうち、栃木県が6件(前年2件)で東京都(5件)より多い。
次いで、中部17件(前年31件)、九州15件(同11件)、近畿10件(同21件)、東北8件(同15件)、中国7件(前年同数)、北海道4件(前年3件)、北陸(同5件)と四国(前年同数)が各1件の順。