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補助金活用の比率、居酒屋業態で高い傾向に【外食運営上場主要22社の補助金受給調査】

 9月末で緊急事態宣言などが全面解除され、まもなく3カ月が経過する。国内で新たな変異株「オミクロン株」の市中感染が確認されるが、新型コロナ新規感染者数はピークの100分の1以下で小康状態を維持し、外食業界にはコロナ前の活況が戻りつつある。
 緊急事態宣言の発令で、外食業界は休業や時短営業、酒類の提供自粛を要請され、来店客が大幅に減少した。政府は業種を問わず、雇用維持のため雇用調整助成金(雇調金)の特例措置で対応し、さらに自治体も時短営業協力金(以下、時短協力金)などの補助金で外食業界の苦境を支えた。だが、2022年春以降の雇調金の規模が縮小され、外食業界が雇用と経営を維持するためにはコロナ前と同水準の売上回復が必要になる。
 東京商工リサーチ(TSR)は、主な上場居酒屋チェーン、レストランチェーンの直近四半期までの売上高と各種補助金額を調査した(連結決算ベース)。上場外食企業22社では、16社(構成比72.7%)が直近四半期までの売上高が前年同期を下回った。さらに、4分の1超の6社(構成比27.2%)では、直近四半期までと前年同期の売上の差額を補助金の合計が上回っていたことがわかった。コロナ禍の中でも外食業界の業績は次第に回復しつつあるが、感染再拡大との板挟みでまだ厳しい経営が続きそうだ。

  • 本調査は外食店が主力の上場22社の決算資料から各種補助金額(雇用調整助成金、休業協力金・時短協力金等)を抽出した。
    売上高、補助金ともに決算期首から直近四半期までの合計額を集計した(連結決算ベース)。

直近四半期までで売上高が前年同期を下回ったのは7割

 外食22社のうち、直近四半期までの売上高が前年同期を下回ったのは16社(構成比72.7%)で、7割を占めた。このうち、10社は居酒屋・バーを主力に展開する企業だった。
 長引いたアルコール飲料(酒類)の提供制限、店舗の時短営業が大きく影響した格好だ。前年同期から30%以上の減収企業は7社(構成比31.8%)で、全体の3割以上を占めた。
 売上高の落ち込み額が目立つのは、繁華街やオフィス街を中心に店舗展開する企業が多く、長引く外出自粛やテレワークの浸透で都心部の人出減少が痛手となった。一方、ファミリーレストランや牛丼チェーンのほか、居酒屋が主力でもレストランや専門料理店など幅広く運営する企業の減収幅は比較的小さかった。
 一方、今期に入り外食各社の収益は改善傾向にあり、直近四半期までの減収率ワースト10社のうち、7社は最終利益で黒字を計上した。前年同期は9社が赤字だったが、各社のコスト見直しと各種助成金給付が黒字に押し上げた格好だ。

外食補助金1

4社で補助金受給額が売上を上回る 居酒屋業態で販売が苦戦

 外食22社のうち、4社が受給した補助金額の合計が売上高を上回った。補助金額が売上を上回った4社は、いずれも居酒屋・バー業態が主力の企業だった。また、補助金の受給比率が高い上位8社は、いずれも居酒屋・バーを主力に展開している企業が占め、酒類の提供制限や時短営業による販売機会の喪失で、業績への影響は長引いている。
 一方、ファミリーレストランや牛丼チェーン、多業態で飲食チェーンを展開する企業や、店舗運営コストの削減などを背景に、午後10時以降の夜間営業を取りやめた「サイゼリヤ」など、店舗展開の多角化や、夜間・宴席でのアルコール需要に売上が左右されない店舗運営を行う企業で補助金の受給割合が低い傾向となった。
 業績の回復に時間を要する企業を中心に、テナント賃料や人件費等のコストにおける補助金への依存度も高い傾向にあり、今後のコストコントロールへの懸念も残る。
 一方、居酒屋・バーを展開する各社は10月の緊急事態宣言の解除以降、月次ベースで客単価・客足ともに前年を上回る企業も散見され、外出制限の緩和に伴い、各社の業績は回復基調にある。今後、補助金の規模縮小までいかに飲酒を伴う会食や小規模な宴席需要の回復を見込めるかがカギとなりそうだ。

外食補助金2

「補助金カバー率」 上位2社はレストラン業態

 外食22社のうち、直近までの四半期と前年同期の売上高の差額を、補助金額がどの程度カバーしているかを示す「補助金カバー率」は、梅の花が1459.7%でトップだった。次いで、サイゼリヤ(1445.6%)、チムニー(181.3%)と続いた。前期からの売上の落ち込み幅が少なかった2社が突出した。
 一方で、売上の落ち込みが大きい居酒屋業態も多額の補助金受給により、減収をカバーした。

外食補助金3


 2021年は、年明けから緊急事態宣言が発令され、アルコール飲料の提供が原則禁止となった。2年目を迎え、長引くコロナ禍と各種制限で百貨店などの小売や観光、外食業界は疲弊感を強めていた。今回の調査対象の22社のうち、直近通期決算で最終黒字は3社にとどまり、19社は最終利益が赤字だった。上場企業も、時短協力金や雇用調整助成金で落ち込んだ売上高をカバーし、人件費やテナント賃料などの固定費を賄い、未曽有の危機を凌いできた。
 居酒屋業態を中心に、外食各社は書き入れ時の5月の大型連休や夏場もアルコール飲料の提供制限や時短営業が重なり、緊急事態宣言が全面解除された9月末まで我慢の経営を強いられた。
 22社の直近四半期決算では、売上高が前年同期を下回ったのは16社(構成比72.7%)と7割を超えた。緊急事態宣言が解除された10月以降、次第に客足が回復し、11月は居酒屋業態の運営各社の客数、客単価はともに前年同月比100%以上で推移している。
 ただ、2022年は時短協力金の申請が終了し、雇用調整助成金の特例措置上限額は減額になる。外食各社は売上の先行きの不透明さを払拭できないなか、補助金の大幅減少を避けられない状況だ。年の瀬も押し迫り、オミクロン株の感染拡大が懸念されるが、補助金額の減少や終了で外食業界の雇用への影響も懸念される。


集計の対象企業・事業は以下の22社

(株)コロワイド(TSR企業コード:360172105、東証1部)
チムニー(株)(TSR企業コード:298064804、東証1部)
(株)JFLAホールディングス(TSR企業コード:296910520、JASDAQ)
(株)大庄(TSR企業コード:292458312、東証1部)
ワタミ(株)(TSR企業コード:350488649、東証1部)
(株)ヴィア・ホールディングス(TSR企業コード:290001692、東証1部)
(株)DDホールディングス(TSR企業コード:296331996、東証1部)
(株)串カツ田中ホールディグス(TSR企業コード:571824587、東証1部)
SFPホールディングス(株)(TSR企業コード:298545780、東証1部)
テンアライド(株)(TSR企業コード:290859840、東証1部)
(株)ハブ(TSR企業コード:294236058、東証1部)
(株)SANKO MARKETING FOODS(TSR企業コード:295043857、東証2部)
(株)クリエイト・レストランツ・ホールディングス(TSR企業コード:294239456、東証1部)
(株)ゼンショーホールディングス(TSR企業コード:350389764、東証1部)
(株)サイゼリヤ(TSR企業コード:320254631、東証1部)
(株)すかいらーくホールディングス(TSR企業コード:298648857、東証1部)
ロイヤルホールディングス(株)(TSR企業コード:870061011、東証1部)
(株)ジョイフル(TSR企業コード:890073660、福証)
(株)グルメ杵屋(TSR企業コード:570375207、東証1部)
(株)梅の花(TSR企業コード:870324896、東証2部)
(株)吉野家ホールディングス(TSR企業コード:290624100)
(株)松屋フーズホールディングス(TSR企業コード:291777406)

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