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「日産自動車グループ国内取引状況」調査

 7月28日、日産自動車(株)(TSR企業コード:350103569、法人番号:9020001031109、横浜市西区、東証1部)は、2022年3月期第1四半期(4-6月期、連結)の決算発表を行った。
 売上高は2兆82億円(前年同期1兆1,741億円)、営業利益756億円(同▲1,539億円)、経常利益902億円(同▲2,322億円)、四半期純利益1,145億円(同▲2,855億円)だった。第1四半期では、2019年以来、2年ぶりに黒字となった。
 また、同日、2022年3月期(連結)の通期業績を上方修正した。2020年3月期から2期連続で大幅な最終赤字を計上していた。だが、2022年3月期は国内・海外市場の新車販売の回復などもあり、売上高は9兆7,500億円(前回予想9兆1,000億円)、営業利益は1,500億円(同ゼロ)、最終利益は当初予想の600億円の赤字から600億円の黒字見通しに修正した。
 東京商工リサーチ(TSR)は、日産自動車および同社グループ(以下、日産自動車グループ)と直接取引のある1次、間接取引の2次のそれぞれ取引先数を調べた。取引先総数は仕入先が1万1,427社(重複除く)、販売先は3,844社(重複除く)だった。前回(2020年4月)調査時と比べ、1次取引先は52社減少し、製造業(1,283→1,248社)で減少が大きかった。
 日産自動車グループの1次仕入先(2,919社)のうち、製造業が1,248社で全体の約4割(構成比42.7%)を占めた。一方、1次販売先(1,520社)の最多は、小売業の420社(構成比27.6%)。
 自動車業界は新型コロナウイルス感染拡大や半導体不足、原材料価格の大幅高騰などで、先行きが不透明な状況が続く。そうしたなか、日産自動車は下半期に発売予定の新車効果で販売台数の回復を見込み、通期業績の見通しを上方修正した。国内の生産台数も前年同期を上回っており、こうした回復が取引企業の業績にもトリクルダウンとして波及することが期待される。

  • 本調査は企業情報サービス(tsr-van2)の企業相関図から、日産自動車および同社グループの仕入先、 販売先を1次(直接取引)、2次(間接取引)に分け、業種、地区、規模などを抽出、分析した。
     1次取引先は直接取引のある取引先、2次取引先は1次取引先と直接取引がある間接取引企業を示す。
     日産自動車のほか、2021年3月期の有価証券報告書に記載されている国内連結子会社15社、持分法適用会社2社の合計18社を対象とした。

日産自動車グループの取引先 1次販売先の最多業種は自動車(新車)小売業

 日産自動車グループと直接取引の1次仕入先は2,919社だった。産業別では、製造業が1,248社(構成比42.7%)で最も多かった。以下、卸売業が590社(同20.2%)、機械設計業や労働者派遣業などを含むサービス業他が525社(同17.9%)と続く。
 製造業(1,248社)を業種別でみると、最多は自動車部分品・附属品製造業が250社(構成比20.0%)。次いで、金属用金型・部分品・附属品製造業が65社(同5.2%)、金属プレス製品製造業が41社(同3.2%)、アルミ・同合金プレス製品製造業が37社、機械工具製造業が33社の順。 2次仕入先は、1次仕入先の3.1倍の9,244社だった。産業別は、製造業が4,474社(同48.3%)で最多。次いで、卸売業2,728社(同29.5%)で、この2産業で約8割(77.9%)を占めた。
 販売先は、1次販売先が1,520社、2次販売先は2,601社だった。産業別は、1次販売先が自動車一般整備業を含むサービス業他の434社(同28.5%)、2次販売先は製造業が716社(同27.5%)で最も多かった。
 販売先の業種別では、1次が自動車(新車)小売業334社(同21.9%)、自動車一般整備業193社、一般乗用旅客自動車運送業150社の順。2次は自動車(新車)小売業197社(同7.5%)、自動車部分品・附属品製造業131社、一般貨物自動車運送業123社。

日産

日産自動車グループ取引先の本社地 1次仕入先は関東が半数以上を占める

 日産自動車グループの取引先の所在地は、1次仕入先(2,919社)の最多は関東の1,606社(構成比55.0%)。以下、中部632社(同21.6%)、近畿336社(同11.5%)と続く。
 一方、1次販売先(1,520社)は、最多が関東の981社(構成比64.5%)。次いで、近畿155社(同10.2%)、中部130社(同8.5%)の順。 都道府県別では、1次仕入先の最多は東京都の787社(同26.9%)。次いで、神奈川県が560社(同19.1%)、愛知県が376社(同12.8%)、大阪府177社、静岡県171社の順。
 1次販売先では、神奈川県が382社(構成比25.1%)で最も多い。以下、東京都が381社(同25.0%)、大阪府が80社(同5.2%)、愛知県が70社、山梨県の67社と続く。
 本社や横浜工場、追浜工場のほか、多くのグループが存在する神奈川県は、1次仕入先で2番目、2次仕入先で4番目、1次販売先で1番目、2次販売先で2番目に取引先数が多い。
 なお、九州には連結子会社で、基幹工場の日産自動車九州(福岡県苅田町)があるが、間接的な取引企業が多く、複層的なサプライチェーンが形成され1次仕入先は少なかった。

日産


 日産自動車は7月28日、5月に発表した業績予想を上方修正した。それによると、2019年3月期以来、3年ぶりに最終利益は黒字に転換する見通しとなった。2018年11月にカルロス・ゴーン代表取締役(当時)が金融商品取引法違反で起訴され、企業のガバナンス問題が注目された。 世界的に脱炭素の流れが加速し、各自動車メーカーは電気自動車(EV化)への取り組みを急いでいる。自動車業界は裾野が広く、EV化でサプライチェーンも大きな変革の時期を迎えている。
 今回の日産自動車の業績回復は、取引企業の業績回復をけん引することが期待される。だが、電気自動車(EV化)の流れは、取引先に変化や再編を促す可能性もあり、長年にわたり築き上げられたサプライチェーンへの影響を見守ることも必要だろう。

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