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【倒産今昔】果敢さと諦めの温度差、倒産の「40年前」と「いま」

 今から40年前の1981(昭和56)年6月。バブル前の全国の企業倒産は1,423件だった。今年6月の倒産は541件で約3分の1にとどまる。倒産は抑制されたが、1つ1つの倒産が重く、苦しい決断の結果であることに変わりはない。だが、40年前の頻発した倒産と、コロナ禍での倒産には「違い」がある。


 40年前の日本は、第二次オイル・ショックの爪痕を引きずりながらも経済成長をたどっていた。そんな日本に欧米諸国は貿易不均衡の是正を求め、1985年にプラザ合意で円高誘導が決定、日本は深刻な円高不況に見舞われることになった。そこで政府は金融緩和策に転じると、過剰流動性が株と不動産に流入し空前のバブル景気を産み出した。
 企業倒産は、景気の拡大局面と下降局面に増加する。金融機関からの資金調達が大きく影響するからだ。景気循環論では、倒産は景気の遅行指数となる。景気拡大局面だった1981年の企業倒産は、事業拡大(売上増)に資金が追い付かない倒産が急増していた。
 プラザ合意前の1984年の年間倒産は2万841件に達し、唯一の年間2万件超えを記録した。倒産が多発したこの時期は、人間の本質が垣間見える倒産も多かった。

事件性の高い倒産も多発

 1952年に創刊された東京商工リサーチ(TSR)の日刊誌「興信特報(現:TSR情報)」の1981年6月1日号を捲る(めくる)と、今では珍しい倒産の顛末が並ぶ。
 「市中金融業者から多額を借り入れ、整理屋が事務所を占有」、「高利金融で雪だるま式に負債が増え、代表者は不渡りと同時に連絡を絶った」等々。コンプライアンス順守を求められる現在では考えられない、映画の一場面のような倒産のオンパレードだ。
 ある皮革会社は、「業績不振から融通操作で対処してきたが、融手先が倒産して連鎖した」と記事にある。「融通手形」は、最近は「架空取引」や「循環取引」に押され、めっきり耳にすることが減った。
 「融通手形」とは、商取引に基づかず、資金が必要な企業同士が振り出す実体のない手形をいう。手形交換高がピーク時の99%減まで落ち込んだ状況では、そもそも手形を見たことのない人も少なくないだろう。
 支払いを約束する手形や小切手は、半年以内に2回決済できず不渡りを出すと銀行取引停止処分を受ける。そうなると信用が失墜し、事業継続が難しくなる。

今昔

‌興信特報(現:TSR情報)1981年6月1日号

 40年前。資金繰りに行き詰まった経営者は皆、金策に奔走した。そして、万策尽きれば、事業継続を願って不渡りを出す前に取引先を集めて事情を説明し、不渡りの回避に躍起になった。
 その中には、債権者の支援で営業続行できた会社もあれば、信頼を失い倒産に追い込まれた会社もある。とにかく経営者のやる気、取引先との信頼が前面に出ていた時代だった。

「蹉跌(さてつ)」「動揺」とは

 「興信特報(現:TSR情報)」には聞き慣れない言葉もいくつも出てくる。「蹉跌」や「動揺」は、その代表例だ。
 「蹉跌」は、石川達三の中編小説でベストセラーになった『青春の蹉跌』で有名になった言葉である。「つまづく」という意味で、「しくじる、挫折」ということから不渡りなど決済が不調に終わったことを意味する。
 「動揺」も大口焦付や決済が懸念されるような状態で使われた。
 参考までにその昔に遡ると、「倒産」という用語は東京商工リサーチ(TSR)が定義付けし、1952年から始めた倒産集計に由来する。その後、「倒産」という用語が国会質疑やマスコミで頻繁に使われ、日本で「倒産」という言葉が定着した。

今昔

‌「蹉跌を表面化させた」記事

今は破産が全体の約9割

 新型コロナ感染拡大で、政府は様々なコロナ関連支援を実施している。この効果もあって企業倒産は、30年ぶりの低水準に抑制されている。だが、コロナ収束は見通せず、事業継続が難しい企業は多い。
 今年6月の企業倒産を形態別でみると、破産が全体の89.0%を占める。銀行取引停止処分はわずか2.7%に過ぎない。
 これは手形の振出が減少していることもあるが、業績悪化に陥った経営者が再建への道を断念し、法的手続きで事業を清算する道を選ぶことを意味する。
 40年前に比べ、破産をはじめとした倒産関連法はより利用し易いように改変・整備された。その甲斐もあって法的整理のハードルが下がった。例えば、不渡りを出す前に突然事業をストップし、破産を弁護士に委任するケースが増えている。民事再生法は、債務超過になる可能性があれば申請できる。倒産形態の変化にも時代の波が映し出されている。


 事業再建に何より大切なことは、経営不振に陥った最大の要因を取り除くと、将来が見通せる“希望”があるかどうかだ。
 市場拡大をたどる中での競争による脱落は、体制を再構築すれば“捲土重来(けんどちょうらい)”で再起できる可能性を秘めている。だが、コロナ禍では、営業時間の制限、外出自粛、移動の制限、途絶えた客足、過剰債務など、ビジネスの根本が崩れ、“心が折れた”経営者が増えている。
 法制度が整い、より早期に、より効率的に破産を選択しやすい時代になった。これ自体は個人債務の軽減のために歓迎すべきことである。だが、事業に対する果敢さや諦めの温度差は40年前と比べてどうだろうか。
 失敗は、再起すれば埋めることができる。40年前は一度や二度の失敗でもへこたれない、野心的な経営者が多かった。また、失敗を許す環境もあった気がする。
 再建への協力のためには取引先(債権者)に事情を説明し、1社1社に釈明と謝罪、具体的な道筋を示すことが求められる。債権者会議で、取引先の前で頭を垂れる心境はいかほどか。経験者しか語ることができない苦渋の思いだろう。
 40年前、倒産の危機に瀕した経営者をつき動かしたのは、もう一度成功してやると心に誓った事業再建への情熱だったに違いない。
 事業へのあきらめは、余りにも切ない・・・。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年7月21日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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