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三陽商会・大江社長 独占インタビュー(後編) 昨年の大幅値下げ「あんなこと毎年やっていたら会社がもたない」

―今期中にヤング向けの「LOVELESS(ラブレス)」と「CAST:(キャストコロン)」の事業進退を決断する

 ラブレス、キャストコロンは2019年度に2つ合わせて15億円ぐらいの赤字だったが、今期にはキャストコロンがブレークイーブン、ラブレスが3億円ぐらいまで赤字を圧縮できそうだ。この事業はもともと「撤退すべきだ」という意見があった。
ただ、ラブレスは、これまで当社のやってこなかったような事業だ。少し若い世代に向け、トレンド性の高いエッヂの効いた商品で構成している。これまでの当社のベーシックなラインとは違い、将来的に新事業領域になる可能性もある。
今期中に今後の収益事業化の道筋が見えてくると、これらの事業継続を決断しようと考えている。

―ラブレスは長年不採算だった。なぜ撤退を決めないのか

 撤退はいつでもできる。だが、チャレンジしたからには、どこまでそれが将来の成長エンジンになり得るか、やることをやって判断すべきだ。その検証をしている。なので、定量計画ぐらいまで持っていければ(ラブレス、キャストコロンの2事業を)、改めて成長エンジンの1つに位置付けても良いのではないか。こうしたチャレンジは必要だ。

三陽商会大江社長2

インタビューに応じる大江社長

―過去に「若い世代に寄せた事業は、三陽商会の社風とは合わない」と発言している

 若い人に迎合し、“軸を曲げて”までやるようなことはいけないが、最初から若い人をターゲットに、かつ、当社の持ち味も発揮できるのであれば、チャレンジするべきではないか。既存ブランドのMD軸を若い人向けにズラし、もともとのブランドキャラクターを歪めてしまうようなことはやるべきではない。

―若年層向けでも一部のブランドは順調だ

 「マッキントッシュ フィロソフィー」の新ラインが今春から始まった。新宿ルミネのポップアップでスタートしたが、大変順調で、良い月で月坪70(万円)売れた。先方からテナントの常設化の話もいただいている状況。あれは、大変うまくローンチできたのではないか。

―前期は商品を安く売りさばいた

 前期はコロナに対するダメージコントロールが大きく、春夏商品は膨大な在庫が残った。ああいう(大胆な値下げの)売り方は前期まで。3月からは、EC、自社ストアで、基本的にはセール販売は大幅に縮小してプロパーのベースに切り替えている。もうあのようなタイムセールはやらない。あんなことを毎年やっていたら、この会社はもたない。

―EC大手は「クーポン」、「タイムセール」を多用している。三陽商会のEC施策は?

 今後のECについては、プロパーサイト化する方針だ。昨年1年間はある種の緊急避難であのようなやり方をした。他社さんがどうであったとしても、今後、我々はアウトレットを除く店舗とECサイトはプロパー販売に徹していく。プロパー店舗でも(シーズン終わりの)30%オフはやる予定だが、それ以上のオフについてはプロパー店舗ではやらない。
プロパーのリアル店舗とECサイトは完全連動させる方針。セールの開始時期と割引率も揃える。その代わり、プロパー店舗やECでさばけない商品はアウトレットに速やかに移管する。前期までにアウトレットの店舗数を増やしたが、これはプロパー店舗とアウトレットの役割を明確化することが目的。プロパー店舗なのに50%オフやワゴン(セール)までやって、ごちゃまぜ状態だったが、今期からは販路統制も厳格にする。

―なぜ、この段階までここまでの構造改革ができなかったのか

 率直に言って、これまで在庫流動というか、発注の仕組みが相当甘かった。甘いというより、「アブノーマル」だった。今回の改革は特別なことではなく、「常道に戻した」ということだ。この会社は百貨店が主戦場で、彼らの御用聞きだった。百貨店の理屈で言えば、商材は多い方がいいし、欠品は絶対だめという百貨店の理屈があった。
会社を擁護するならば、昔はバーバリーがあった。バーバリーがあった時代はブランドの力が圧倒的に強かった。
だから、過剰に商品を用意しても消化できた。その当時のルーティーンがまだ残っていた。多少多めに仕込んでもなんとか消化できるだろう、と。しかし、2019年度は正規販売が40%台しかなかった。これはありえない。総消化にしても70%。ということは3割の在庫は必ず残る。そういう仕組みならば、在庫は溜まるのは当然だ。

―外部から大江社長が来なければここまでできなかった?

 それはどうかわからない(笑)。社内にずっといた人間が、「仕入を6割減らす」と言ったら、誰だって驚く。そんなこと言ったら「お前、気でも狂ったのか」と。だから、ある意味、外から来て問答無用でやった。そういうパワーゲームの面はある。これは私の能力云々ではない。コロナがレバレッジになった部分もある。それとゴールドウインでの成功体験があることも大きい。
ウェブ(販売)の方も、これまで組織が5つの事業本部に分かれていた。ウェブも店舗も“たこつぼ”状態で、なかなかトップダウンの指示が行き渡らなかった。例えば、ウェブ事業部が独自でECの価格を変動できていたこともあり、店舗とECの価格が違うことがあった。今は一本部になって束ねられ、そういうこともなくなった。

―コストカットして、在庫を絞り込むと調達面で取引先も絞るのでは

 いまは相当、集約化が進んでいる。25%ぐらいが自家調達。残りの75%が商社筋。その辺も集約され、品番スケールもだいぶ減らした。一品番当たりの量はそこまで減らしていないが、品番は減った。相当MD集約をかけた。

―もともと必要のない商品もあった?

 例えば1つのブランドで100品番あっても、そのうち50品番で90%の売上を作っている状態だった。あとの50品番で残りの10%しか稼げていない。この10%ははっきり言って完全な採算割れだ。それが赤字の要因だった。採算割れの50%を全部やめるかといえば、そういうわけにはいかないが、広く浅くの「数打ちゃあたる」では、だめだ。(商品)編集という努力をしていない。いかにMDを集約化し、編集するか、これがプロのプロたる所以。それが我々の仕事だ。
これもやる、あれもやるというのでは、「大きい網でないと魚が取れない」みたいな思い込み。それはプロの仕事ではない。大量の無駄を出しているわけだから。

―三陽商会のような伝統ブランドがある会社の場合、長年の経験から売れ筋はなんとなくわかるのでは?

 それは、ふつうの考えで、そういう考えでやってくれと言っている。広く浅くのMDでは儲かりっこない。要は、単品で大きく数字が取れる基幹商材やヒット商品をいくつ作れるかが勝負。そういう意味ではブランドの顔になるコア商材が当社には意外とないし、育っていない。
私は社内では「一点突破型のMD」という言葉をよく使うが、ようやく浸透してきた。どのブランドでも基幹商材的なものが、だいぶ見えてきた。

―ゴールドウイン時代の一点突破商材は?

ノースフェイスのバルトロジャケットというダウンがある。あれは年間何万着も売れる。上代がおよそ6万8000円だから、1品番で数十億円を稼ぐ。シーズンの末になると絶えず欠品状態。取り合いになる。だから100%プロパー消化。それがある意味ブランドビジネスだ。

―ライセンス終了から6年経つが、三陽商会はまだ“バーバリー”の印象で語られる

 外の人からは、(バーバリー後)残骸しか残っていない、と言われるが、そんなことは絶対にない。言われる分には否定しないが、少なくとも内部の人間はそんなことはまったく考えていない。良いブランドが揃っていると思っている。例えば、「ポール・スチュアート」は青山のショップをぜひ見ていただきたい。ポテンシャルが高く、期待も高い。ただ、あまりにバーバリーの栄光が大きく、その当時、相当儲かったのは事実だから、外からそう見えるのは仕方ない。

―三陽商会の属する“ミドルアッパー市場”について「淘汰が進む」と述べていた

レナウンのように退場されたプレーヤーもいるし、低価格型などに転換されたプレーヤーもいる。当社の場合は、器用さはあまりないが、こだわりはかなりあって、品質だけではなく品位ある商品をクリエイトできる。これが最大の持ち味であると思っている。そういう領域で、愚直に今のポジションを維持していく。
若い人にもオーソドックスで高品質な商品への需要は一定数あるし、TPOによって、ファストファッションで済ませる時もあるが、きっちりした洋服にも関心が高い。価値あるもの、美しいものに対するデマンドは必ずある。

 度重なる緊急事態宣言の発令で疲弊が深まるアパレル業界。百貨店を主戦場とする三陽商会は、その影響が直撃した1年となった。
コロナ禍での損失補填、銀座の一等地の基幹ビル「GINZA TIMELESS8」を売却、そして希望退職者の募集も実施した。
コロナで販売機会を失った大量の在庫は、セールの乱発や買取業者への販売でなんとか乗り切り急場をしのいだ。
大江社長はコロナ前の企業体質について、「アブノーマルだった」とバッサリ。昨年5月の社長就任以降、百貨店の“言いなり”だった取引や過剰在庫に大ナタを振るい、関係の見直しにかかる。コロナ収束はまだ見通せないが、今期末の黒字化に向けて百貨店業界を巻き込んだ構造改革をさらに推進していく。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年5月26日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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