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「コロナ禍における不動産業のアンケート」調査

 新型コロナウイルスの国内感染の初確認から1年が経過した。東京商工リサーチ(TSR)が実施してきた「新型コロナウイルスに関するアンケート調査」から、不動産業にもコロナ禍の悪影響がジワリと波及している実態が見えてきた。
 2020年2月から2021年4月(全15回)まで実施したアンケートで、2020年2月はコロナの「影響が出ている」は15.1%(297社中、45社)だった。だが、3月には不動産売買業者から建築資材の入荷遅れによる物件引き渡しへの影響の声が上がり始めた。その後、賃貸業者がテナントの退去や家賃の減額、猶予要請を受けるなど、影響は徐々に広がり始めた。
 2021年4月のアンケートでは、コロナの影響を受けたのは73.6%(220社中、162社)に達した。そのうち、「影響が出たがすでに収束」は9.5%(21社)にとどまり、64.0%(141社)は依然としてコロナの脅威にさらされている。
 コロナの影響を受けた不動産業のうち、前年同月と比べて減収は2020年5月の緊急事態宣言下で89.2%(242社中、216社)と約9割に達した。不動産契約のキャンセルや営業活動の自粛なども業況悪化に拍車をかけた。感染拡大から1年を経た2021年3月でも、71.0%(107社中、76社)と7割がコロナ禍以前と比べて減収を強いられる厳しい状況が続く。
 2021年4月時点で、コロナ関連の支援策の利用は56.8%(220社中、125社)と約6割に及ぶ。同月の「廃業検討率」は7.6%(197社中、15社)で全産業平均(6.8%)を上回り、コロナ支援による過剰債務を抱え、先行きの見通しが立たない状況で廃業を検討する不動産業が目立ち始めた。
 4月25日、東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に3回目の緊急事態宣言が発令された。コロナ禍で経済活動が停滞し、生活や事業の拠点を提供する不動産業の回復遅れは避けられず、今後は廃業や倒産が増勢に進む可能性が高まっている。

  • 本調査は2020年2月~2021年4月まで毎月実施してきたインターネットによるアンケート調査の全15回分を分析した。

Q1.新型コロナウイルスの発生は、企業活動に影響を及ぼしていますか?(択一回答)

2021年4月時点で「影響を受けた」は73.6%
 2020年2月の第1回調査では、不動産業で「現時点ですでに影響が出ている」と回答したのは15.1%(45社)だった。「現時点で影響は出ていないが、今後影響が出る可能性がある」としたのは36.0%(107社)で、「影響はない」が48.8%(145社)と半数を占めた。
 不動産業を含む全産業の第1回調査で、「現時点ですでに影響が出ている」との回答は22.7%(12,348社中、2,806社)だったことから、比較的、不動産業界への影響は大きくなかった。
 だが、2021年4月の調査では、最多は「影響が継続している」で64.0%(141社)、「影響が出たがすでに収束した」は9.5%(21社)で、全体の約4分の1の企業が影響を受けていた。現時点で影響を受けていないと回答した企業のうち、「現時点で影響は出ていないが、今後影響が出る可能性がある」は20.4%(45社)に達し、依然として警戒感を滲ませている。「影響はない」はわずか5.9%(13社)にとどまり、不動産業にも新型コロナの影響が広がっていることがわかる。

Q2.貴社の前月の売上高は、前年同月を「100」とすると、どの程度でしたか?(第2回~)

2020年5月は9割が減収、2021年3月は昨年より一層悪化
 コロナの影響を受けた企業の売上高を分析した。2020年2月は約7割(68.3%、98社中、67社)が減収で、コロナの影響が早々に売上に反映している。緊急事態宣言が発令された4月は減収企業が84.0%(294社中、247社)まで上昇。うち、売上高が半減した企業は35.7%(105社)と3割を超えた。さらに、5月の減収企業率は約9割(89.2%、242社中、216社)にまで達した。
 緊急事態宣言が解除された6月以降、減収企業の比率は徐々に落ち着き、10月以降は7割前後で推移した。だが、2回目の緊急事態宣言が発令された2021年1月からは、再び増加。
 2021年3月は前年同月と比べ、減収企業は57.4%(108社中、62社)だったが、コロナ禍前の2019年3月と比較すると減収企業は71.0%(107社中、76社)で、業績回復が遅れている。

不動産

業種別 賃料減額やテナント退去など不動産賃貸・管理業の影響が重い

 不動産業を細分化し、不動産売買や代理、仲介業者の「不動産取引業」と不動産のオーナー、または管理を手がける「不動産賃貸業・管理業」を比較、分析した。
 「不動産取引業」の減収企業率は、建築資材の入荷遅れによる物件の完工遅延、取引先の業績悪化による契約解除や営業活動自粛などで、2020年3月に76.3%(72社中、55社)、5月は90.6%(107社中、97社)に達した。その後は徐々に回復したが、20年7月から2021年2月まで7割前後で推移した。
 「不動産賃貸業・管理業」は、飲食店を含むテナントの退去と新規入居の不調、賃料減額や猶予要請への対応などで2020年5月は88.1%(135社中、119社)と、高水準で推移した。宣言解除後もしばらく高止まりしていたが、10月には7割(69.4%)を下回った。だが、2回目の緊急事態宣言で再び上昇し、2021年1月は82.7%(81社中、67社)と8割を超えた。

Q3.「新型コロナウイルス感染症特別貸付」や「セーフティネット貸付・保証」、「民間金融機関の各種融資」、「国の各種給付金」などの支援策は利用しましたか?(第3回~)

不動産業 支援策利用は約6割に
 新型コロナ関連の支援策の利用率を分析した。
 支援策を「利用した」と回答したのは2020年4月はわずか4.0%(444社中、18社)だったが、5月には12.8%(567社中、73社)と1割を超えた。さらに、緊急事態宣言解除後は利用率が急激に伸長し、7月には44.2%(368社中、163社)にまで上昇した。
 その後も増加傾向が続き、11月には55.6%(284社中、158社)で半数を超えた。2021年4月は56.8%(220社中、125社)となり、6割に到達しようとしている。

Q4.コロナ禍の収束が長引いた場合、「廃業」(すべての事業を閉鎖)を検討する可能性はありますか?(第7回~)

不動産業 21年4月は7.6%が廃業検討
 2020年8月から廃業検討率をアンケートの設問に加えた。不動産業で8月に廃業を検討する可能性が「ある」と回答したのは7.6%(300社中、23社)で、全産業(7.3%)を上回った。その後、11月までは全産業を下回り、4~5%台で推移した。
 しかし、新型コロナの感染再拡大が始まった12月は6.4%(247社中、16社)で、前月から1.7ポイント悪化した。
 2021年4月も7.6%(197社中、15社)で全産業をやや上回った。コロナ収束が見通せない中、企業は廃業と継続の狭間で揺れ動いている。


 コロナ禍の収束が見えず、不動産業でも疲弊感を強める企業が増えている。21年2月以降、全業種のコロナ関連破たんは月間最多を更新し続け、不動産業も累計30件(2021年4月28日時点、負債1,000万円以上)に達し、うち半数の16件が2021年に発生している。
 売上高では、当初は「不動産取引業」の減収が目立ったが、賃貸業を含む「不動産賃貸業・管理業」の業績悪化が次第に深刻化。コロナ破たん件数トップの「飲食業」向けなど、テナント賃貸業の苦戦が続いている。賃料の減額を行った事業者や税金の納付が困難な事業者に対し、税制面での優遇策も取られているが、業況改善は見通せない。
 事業再構築補助金が新設され、21年4月のアンケート調査では、不動産業の事業再構築について「行っている」、もしくは「今後1、2年で行うことを考えている」は44.3%で、新規事業の開拓や将来を見据えた投資を思案する声も上がっている。不動産業は景気動向と密接な動きを示すだけに、ウィズコロナ、アフターコロナに適応しようとする事業者に対し、支援金だけでなく、広く長期的な視野に立った支援の枠組みが求められる。

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