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日本動産鑑定・久保田理事長 独占インタビュー(前編)

 金融機関で「事業性評価」の取り組みが進むなか、「動産鑑定」が重要性を増している。
これまで太陽光発電、養殖業など約3,000件の事業評価書を策定した(特定)日本動産鑑定(TSR企業コード:297425994、東京都中央区)の久保田清理事長に、事業性評価や動産担保融資の現状を聞いた。

-事業性評価の現状は

 我々の事業性評価は、「動産」、「売掛金」、「知的財産」を対象としている。年間の実施件数は約500件で、作成した事業性評価書は累計約3,000件にのぼる。最近では大半が融資実行に繋がっている。当初は3分の1から4分の1しか融資に繋がらなかったが、(2007年の法人設立から)実質13年を経て、結果に繋がっている。知的財産の評価は、すぐに融資に結びつかないものもあるが、機械や化学、太陽光発電など、文系出身が多い銀行員が苦手な技術でも理解向上に繋がる。
事業性評価書があれば、銀行内で人事異動があっても、顧客(企業)の実態を引き継ぎやすい。銀行が企業に融資をするためには、企業の中身を6~7割弱は理解する必要があると思っているが、例えば養殖業では理解不足から、ほとんど融資ができていなかった。評価書を作成することで、事業や資金需要のタイミングがわかれば、融資ニーズに迅速に対応できるようになる。
銀行は合理化のなかで、AIを活用する動きもあるが、実態把握のためには実物を見なくてはならない。動産評価は、実際に見て写真を撮り、手で触れて、裏側も確認することが重要だ。洋服だったら匂いを嗅いだりする。当社の鑑定士は、匂いを嗅ぐだけで洋服が店に吊るされて何カ月経っているのか見抜く。AIは、タグを読み取ることはできても、タグが本物か見抜けない。それをするのが「目利き力」で、事業性評価の本質だ。
「目利き力」を理解しない人は、AIで点数をつければ、事業性評価も融資も簡単にできると言う。それは無理だ。かつてのスコアリング融資も成功しなかった。

久保田理事長

久保田清・日本動産鑑定理事長

-事業性評価の効果は

 財務分析は「過去」の数値分析、動産や売掛金の評価は「現在」の企業分析、知財評価は「将来」のキャッシュフロー分析。これが揃った事業性評価ができると、不動産担保や連帯保証人は不要になるケースもある。
また、動産担保融資(ABL)に固執する必要もなくなる。評価をして実績や事業がしっかりとわかれば、この会社は手堅い仕入や販売ルートを持っており、今は業績が悪くても無担保融資という判断もできる。本当に必要なら担保設定をしてABLにしてもいい。

-ABLの本質は

 メガバンクなどは、どちらかというとファイナンスの意識で行っているので、融資実行額よりも、手数料をいくら稼いだかという考え方になってしまう。本来、ABLはファイナンスではなく、ソリューションだ。いかに不要な借入金を減らして支払利息を抑え、営業キャッシュフローの改善に繋げるかが重要だ。
日本の金融機関で、法人融資を手掛けているのは約400行。このうち、当社が事業性評価に携わった実績のあるのは約18%の73行だ。こうした金融機関では、事業性評価を理解し、アドバイザーの勉強をする人も増えてきた。ただ、人事異動の問題などもあるので、これらの金融機関でも事業性評価(の取り組み)が万全であると安心してはいない。

-これから事業性評価に力を入れたい業界は

 事業性評価の対象となる業種は、約2万業種ある。前回携わった養殖業(※)は、2万分の1だ。当社は飛行機以外の事業性評価を手掛ける。太陽光発電所では、特許も取得した。養殖業も特許を申請している。
これから力を入れたいのは農業だ。なかでも、果物の事業性評価を考えている。
農家や農業をやる人は少なくなっているが、最近はコロナの影響で、早期にリタイアして田舎で農作物や果物を作ろうとしている人も多い。ところが、資金調達の仕組みがないから、一部の資金のある人以外は苦労する。そこで、事業性評価をすれば、養殖業と同様に国が補助金などで支援できると考えている。
農業は評価が難しい分野で、今までは農協だけ(が資金の担い手)だった。だが、コロナ禍で環境が変わるなか、今後のことを考えると、農業に参入しやすくなるほうがいい。

  • 日本動産鑑定が策定に携わった「養殖業事業性評価ガイドライン」が2020年4月に水産庁から公表された

-中小企業の事業性評価で必要なことは

 事業性評価をする上では、「在庫表」が重要だ。在庫表の数字を出すには、棚卸が必要になる。ところが、棚卸には手間とお金がかかる。私はかつて大手流通に出向していたが、中型店1店舗の棚卸にかかる費用は年間約3,000万円だった。だから、中小企業では棚卸をせずに在庫表を作っていることも多く、本当のことがわからない。
すべての商品にバーコードが入っていれば、AIでやることも可能かもしれない。ただ、これも中小企業では難しい場合が多い。我々は棚卸専門の会社に相談して、低価格での棚卸、名付けて『小口棚卸』を実現した。このことにより中小企業でも、より正しい評価書、より正しい事業性評価ができる。

-知財評価については

 「特許」、「商標」、「実用新案」、「意匠権」の4つすべてを手掛けている。知財評価は専門性の高い分野なので、得意とする企業や特許商標事務所にも協力していただいている。
実績としては、特許庁からの依頼が約170件、プロパー案件も含めて約200件。手掛けて気づいたのは、特許が権利化出来ただけで満足している企業が多いということだ。中小企業が自分の会社を守るためには、特許が取得出来ればいいということだけではなく、築き上げてきた技術力を他社使用時に立証可能な権利の活用性も必要である。
当社が知財評価した案件をもとに、特許を活かすための事例集も作っている。項目ごとにグループ分けをすることで、ビジネスマッチングや販路の開拓、M&Aにも利用できる。

(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年4月27日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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