• TSRデータインサイト

大手居酒屋チェーン 1年間で店舗数12.5%減少、コロナ影響が深刻

 チェーン展開する大手居酒屋の店舗数が大幅に減っている。居酒屋を運営する上場主要13社の1年間の飲食店舗数は、2020年12月末で前年同期から12.5%減ったことが、東京商工リサーチの調査でわかった。
 個人経営の飲食店などに比べ、大手が展開する店舗は面積が広く、スタッフ数も多い。都心部の店舗は、ランニングコストが大きな負担になっており、店舗営業を継続するより、見切りをつけて「スクラップ」を選択しているようだ。2021年1月の再度の緊急事態宣言など、取り巻く環境は厳しさを増しており、学生や主婦などのアルバイト、パートの雇用環境の悪化だけでなく、取引先への発注量の減少、都心部の空きテナントの増加など影響はさらに広がっている。

“串カツ田中”以外店舗が減少

 有価証券報告書や四半期報告書によると、上場する居酒屋チェーン13社(※)の店舗数は、2020年12月末(決算期により11月末を含む、以下同)で合計6136店だった。ただ、2019年同月時点では7009店(前年同期比12.5%減)で、1年間で873店減少した。
 13社では、唯一、串カツ田中だけが276店(2020年11月末)と前年同月の273店から3店舗増えた。ほかの12社は、いずれも前年同月から減少した。

都心部を中心に展開する企業で店舗減

 1年間の減少率が最も高かったのは「金の蔵」などを運営する三光マーケティングフーズの41.7%減(108店→63店)だった。
 以下、期中に焼肉チェーン「牛角」事業を譲渡したJFLAホールディングス(以下、HD)の33.1%減(843店→564店)、都心のターミナル駅に多数の飲食店を出店するダイヤモンドダイニングの親会社のDDホールディングス[飲食事業]の24.6%減(435店→328店)の順。
 13社のうち、東京、大阪、名古屋の三大都市圏の主要幹線に積極的に出店していた企業がコロナ禍で店舗を撤退するケースが目立つ。
 13社の店舗数は、コロナ前の2019年12月末に合計7009店だった。これを基準にすると、3四半期前(2020年3月末)は6964店(0.6%減)と、ほぼ同水準にとどまっていた。
 だが、コロナ禍で最初の緊急事態宣言が発令され、宣言が解除された直後の2四半期前(2020年6月末)は6448店(8.0%減)と一気に撤退が進んだ。その後、前四半期(2020年9月末)は6303店(10.1%減)、直近(2020年12月末)は6136店(12.5%減)と四半期ごとに店舗減少は加速している。

固定費負担など課題は山積

 2021年の正月明け、1都10県に再度の緊急事態宣言が発令された。13社の従来型の居酒屋の一部では店舗撤退の動きがさらに加速する一方、テイクアウト店やスイーツ店を新規出店する企業もみられる。
 JFLAHDは、子会社で展開する高級チョコレート店の新店舗を3月、名古屋の百貨店にオープンした。また、鳥貴族ホールディングスは、新規事業のチキンバーガー店「TORIKI BURGER(トリキバーガー)」を8月にオープンする。
 従来型の居酒屋業態の店舗は、多くの集客が望めるのと同時に、利益率の高いアルコール飲料の消費も期待できる。このため、雇用への寄与に加え、食品や飲料などを扱う卸業者やメーカーなどの取引先は多い。コロナ禍で、居酒屋チェーンなどは営業時間短縮の要請などで営業面は直撃を受けている。このため、雇用調整助成金の特例措置を積極的に活用しており、同措置の期間延長は一定の効果があるとみられる。
 一方、緊急事態宣言の再発令による外食控えにより、2021年1月の総務省の家計調査では、2人以上の世帯での外食への支出は前年同月比42.9%の減少と状況は依然として厳しい。長引く時短営業の影響の影響により同調査では2020年3月から11カ月連続で、前年同月を下回る水準で推移している。
 緊急事態宣言の終了後はGo Toトラベル・イートに期待がかかるが、都心部を中心に今春は歓送迎会などの宴席、会合は引き続き自粛傾向とみられ、コロナ以前の水準までの需要回復には時間を要する。さらに、都心部を中心にテナント賃料などの月々の固定費負担も重く、店舗撤退の動きは今春も避けられない。スクラップによる繁華街の空洞化の懸念も高まるなか、感染防止、需要喚起の“板挟み”状態は長引くものとみられ、各社は当面我慢の経営が続きそうだ。

 ※集計の対象企業・事業は以下の13社

 (株)コロワイド(TSR企業コード:360172105、東証1部)[子会社の(株)レインズインターナショナル(TSR企業コード: 296817856)のみ]
 チムニー(株)(TSR企業コード:298064804、東証1部)
 (株)鳥貴族ホールディグス(TSR企業コード:571700365、東証1部)
 (株)JFLAホールディングス(TSR企業コード:296910520、JASDAQ)
 (株)大庄(TSR企業コード:292458312、東証1部)[直営店のみ]
 ワタミ(株)(TSR企業コード:350488649、東証1部)[国内外食店]
 (株)ヴィア・ホールディングス(TSR企業コード:290001692、東証1部)
 (株)DDホールディングス(TSR企業コード:296331996、東証1部)[飲食事業]
 (株)串カツ田中ホールディグス(TSR企業コード:571824587、東証1部)
 SFPホールディングス(株)(TSR企業コード:298545780、東証1部)
 (株)ダイナックホールディングス(TSR企業コード:290331722、東証2部)
 (株)ハブ(TSR企業コード:294236058、東証1部)
 (株)三光マーケティングフーズ(TSR企業コード:295043857、東証2部)


居酒屋202003

‌            最新期は2020年12月期、2四半期前から閉店が加速(TSR作成)                  

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月の「人手不足」倒産が過去最多 「従業員退職」が前年の1.6倍増、初の年間300件超へ

2025年9月に「人手不足」が一因となった倒産は、調査を開始した2013年以降では月間最多の46件(前年同月比109.0%増)を記録した。また、2025年1-9月累計も、過去最多の285件(前年同期比31.3%増)に達し、人手不足はより深刻さを増していることがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

ケーキや和菓子は「高値の花」に、スイーツ店が苦境 倒産は過去20年で最多ペース、競合商品も台頭

街のスイーツ店が苦境に陥っている。材料コストの上昇、酷暑、人手不足が重なり、商品値上げによる高級化も購入機会の減少につながったようだ。2025年1-9月の菓子製造小売の倒産は、過去20年で最多の37件に達した。

3

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月「後継者難」倒産が過去2番目 332件 高齢化が加速、事業承継の支援が急務

代表の高齢化が進み、後継者が不在のため事業に行き詰まる企業が高止まりしている。2025年1-9月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は332件(前年同期比4.5%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。だが、2025年は過去最多だった前年同期の348件に次ぐ、過去2番目の高水準だった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

5

  • TSRデータインサイト

2025年度上半期の「円安」倒産30件 仕入コスト上昇が卸売業を直撃

2025年度上半期(4-9月)の「円安」関連倒産は、30件(前年同期比31.8%減)だった。上半期では、2022年度以降の円安では前年度の44件に次いで、2番目の高水準になった。

TOPへ