• TSRデータインサイト

Xアイコン
facebookアイコン

水産庁に聞く!養殖業の「事業性評価」(後編)

-事業性評価ガイドラインの運用方法は

 事業性評価ガイドラインでは、動産評価のみでなく、マーケットや経営方針なども重視し、リスク管理として国による共済や、収入安定対策の「積立ぷらす」といった制度に加入しているかも重要なチェック項目としている。これらをもとに経営状況を総合的に評価し、レーダーチャート化した。
 最終的には養殖業者と金融機関で事業性評価をやるのが理想だが、まずはガイドラインに従って第三者に見てもらうことを想定している。そのなかで養殖業の事業性評価を金融機関に学んでもらい、養殖業者と金融機関の双方に気づきがあればいい。

-事業性ガイドライン活用の上で重要な点は

 事業に透明性を持たせるというのは重要だ。金融機関からすれば、養殖の生け簀に何尾入っているかも明かさないような相手には融資できない。養殖業にとっての動産価値も、それになる。
 だから、金融をきちんと受けたいなら山師みたいなことをやっていてはダメだ。昔のように、相場を張って買い手との駆け引きをするようなことをやっていては、養殖業は伸びない。透明性を確保する。事業性評価ガイドラインに沿って事業性評価してもらうには、透明性を持たせる必要がある。

-事業性評価の養殖業者からの反応は

 概ね好評で、それなりに評価していただいている。いま、補助事業をやっている養殖業者は25社ある。資機材導入の補助金は要らないが、事業性評価を受けたいと応募してきた業者もある。補助事業に参加している業者からは、「事業性評価してもらったことで自分たちの経営の立ち位置をきちんと確認できたし、自分たちが事業のなかでどこをしっかり見なければいけないのかというのが再確認できた」という話も出た。

水産省

‌養殖業ビジネス評価書の例(水産庁資料より)

-事業性評価を使った25社の特徴は

 愛媛、鹿児島、大分、三重、徳島、高知、など西日本の業者が中心だ。魚種でいうとブリ、マグロ、マダイなどになる。北はトラウトサーモンの青森。この事業性評価には、福井サーモンも出てきている。

-事業性評価ガイドラインの活用は地銀や信金を想定しているのか

 補助事業に参加している25社のメインバンクは、だいたい地銀、信金になる。なかには地銀のほうから事業性評価をやりましょうと言ってきたものもあった。地方の企業として、養殖業が重要だと考えているようだ。特に愛媛や香川などはそういった傾向がある。政府が旗振りしている話なので、一度事業性評価などをやってもらうと、融資をする側としても安心なのではないか。

-地域金融機関による産業育成において、養殖業の立ち位置は

 地銀は資材などの養殖関連産業も顧客であることが多いので、地元の強みを活かしたい面もあるだろう。

-新しいブランドの魚が生まれてくると養殖業の将来展望も明るくなるのでは

 現在、「地域ごとのブランド養殖魚」は乱立している。たとえば、柑橘ブリ。カボス、レモン、スダチ、ミカン等々、主に関西の料亭などを対象とするハイエンド向けだが、餌の最終段階に柑橘類を混ぜることで、さっぱりした風味のブリになる。全体のなかの一部分でそういうことはやっている。ただ、海外展開を考えると、日本のブリを標準化したジャパンブランドを作る必要があると思う。
 また、生食用のサーモン養殖で今盛んにおこなわれているトラウトサーモンは、ニジマスを海で養殖したもの。ニジマスは外来種なので多様性がなく育種の可能性が少ない。一方で、ヤマメは海に降りればサクラマスになるのだが、サクラマスが美味であることは知る人ぞ知るところ。ヤマメは日本在来種で国内に十分な種の多様性がある。育種研究をきちんとやれば、ジャパンブランドのサーモンができる可能性がある。今は飼いやすいサクラマスの種苗を作る研究をしている。まだまだ日本の養殖には伸び代があると思っている。

-企業による養殖業への新規参入は

 新規参入で言うなら、サーモン養殖が一番多くなってくるかもしれない。サーモン養殖は多様化したご当地ブランド系と、企業的な大規模養殖に二極化している。
 また、岩手のような北の養殖適地では、天然の秋サケの回帰が悪いので、漁業者が新しくサーモン養殖を始めたり、企業が参入したりという動きもある。そういうときに事業性評価ガイドラインが役に立つ。魚類に関しては基本的に同じなので、養殖業の事業性評価ガイドラインはサーモン養殖にも応用できる。

-貝類の事業性評価ガイドラインも策定するのか

 貝類のほか、藻類・陸上養殖の事業性評価ガイドラインの策定を進めている。ただし、養殖業の中でも輸出戦略においては魚類養殖が最も期待されている。特に、ブリはアメリカ市場が大きい。グーグルも社食で日本のブリを使ってくれている。ただし、今のところ海外市場はハイエンドが中心。今後はミドルに出せる価格帯のものを作る必要がある。輸出先の食生活にあったものを出すというのも重要で、バーベキュー需要のあるブリカマなども海外では人気が高い。



 水産資源の減少で漁船漁業が頭打ちとなる一方、世界的に養殖業の生産量は伸長している。しかし、日本では近年、養殖生産量が減少傾向にあり、養殖業界が直面する問題は少なくない。
 今回のインタビューで、SDGs(持続可能な開発目標)への対応や成長産業化など、国、金融、水産業界が「ゴール」を目指し、試行錯誤しながら進んでいることがわかった。
 養殖業の活性化に向けた「事業性評価ガイドライン」は、農業など他の産業だけでなく、金融機関の新たな気付きの指針でもある。

Xアイコン
facebookアイコン

人気記事ランキング

ランキング1位
  • TSRデータインサイト

「鳶工事業」が苦境、倒産が過去最多ペース ~ 16年ぶり100件超、職人不足とコスト対応がネック ~

「建設現場の花形」と言われる鳶職人の世界に逆風が吹く。足場から鉄骨、支柱工事など建設現場で欠かせないが、倒産が過去最多ペースだ。有効求人倍率は7.94倍と深刻な人材難の鳶業界にあって採用難と高い技能、経験が若者の育成に足かせになっている。鳶工事業の倒産を分析した

2

  • TSRデータインサイト

「渋谷区」が倒産最多、2年連続も視野 ~ 倒産企業の半数が業歴10年超、新設法人は伸び鈍化 ~

街の主役は若者から大人へ。再開発で変貌を遂げる「シブヤ」に異変が生じている。 渋谷区に本社を構える企業倒産(1-8月)は、全国の市区郡別で最多の123件に達した。昨年(2025年1-12月)は161件で2007年以来、18年ぶり全国ワーストだった

3

  • TSRデータインサイト

2025年度の書店の利益、前年度の4.6倍に拡大 黒字企業が7割も、「増収増益」は13.4%

「本離れ」が言われて久しいが、書店経営が回復に転じた。全国の主な書店304社の2025年度の売上高合計は、6,121億4,000万円(前年度比1.6%増)、利益合計は40億2,600万円(同365.4%増)で、売上高は微増だったが、利益は前年度の4.6倍に急回復した。

4

  • TSRデータインサイト

翻訳業が苦境、利益は3年で7割減 ~ AIと競合で破産したケースも ~

AIが翻訳業界にドラスティックな変化を迫っている。日進月歩で精度が向上するなか、言語間の壁が低くなっている。この余波が翻訳業界に広がり、業績は3期連続で減収減益に追い込まれた。

5

  • TSRデータインサイト

「畳製造業」 伝統産業に忍び寄る市場変化と後継問題 売上は3年連続で低迷、業歴100年超の老舗が2割超

9月24日は「畳の日」。全国畳産業振興会が4月29日と9月24日の年2回定めている。日本の住文化の伝統を引き継ぐ畳のすばらしさをアピールすることが目的だが、畳製造業が長期低迷に陥っている。 全国の主な「畳製造業」256社の2025年度の売上高合計は402億7,700万円(前年度比1.3%減)だった

TOPへ