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五輪工事後のゼネコン大手4社、10年ぶり減収へ新型コロナでピークアウト鮮明

 東京五輪・パラリンピックや都市部の再開発で長年好調を維持したゼネコン大手だったが、風向きが変わりつつあるようだ。五輪関連の工事が終了し、新型コロナ感染拡大の影響などでゼネコン大手4社の2021年3月期の連結売上高は合計で前期比7,482億円減と2011年以来、10年ぶりに減収に転じる見通しだ。
 2月12日、ゼネコン大手4社の決算が出そろった。2020年4-12月は、4社そろって減収だった。ただ、官公庁工事に支えられ、12月末の繰越工事高は鹿島建設と清水建設が微減で、2社は前年同期を上回っており、下降線は緩やかだ。
 それでもコロナ禍の悪影響は、小・零細規模の建設業者の経営体力を奪いつつある。建設業の「新型コロナ関連破たん」は87件とジワリと増勢中だ。ゼネコン大手の決算が悪化すれば、倒産が増加へ転じる可能性も出てきた。


ゼネコン4社は、東日本大震災が発生した2011年3月期に4社合計の売上高が前期を割り込んだ。

ゼネコン

 その後、震災の復旧・復興工事に加え、民間需要も拡大。都市開発や東京五輪・パラリンピック向け工事がピークを迎えた2020年3月期まで9期連続の増収を維持してきた。
 ゼネコン4社の2011年3月期の純資産合計は1兆1,913億円。4社は9年間の好調期に純資産を積み上げ、2020年3月期は3兆1,367億円にまで拡充した。
 だが、2021年3月期は東京五輪関連の工事が終了し、新型コロナ感染拡大で見込んでいた民間工事が落ち込み、ゼネコン4社の売上高は10期ぶりに減収へ転じる見通しだ。

民間投資に落ち込みを官公庁工事が下支え

 2月10日に国土交通省が公表した「建設工事受注動態統計調査」の2020年1-12月によると、工事受注高は79兆6,578億円(前年比7.0%減)だった。元請受注では、発注者が公共機関は前年比5.7%増、民間等は同11.6%減と官公庁工事が支える構図が鮮明となった。
 鹿島建設(株)の2020年4-12月の連結業績は、売上高が1兆3,889億円(前年同期比3.4%減)、営業利益が1,004億円(同18.4%増)だった。土木事業や開発事業の売上総利益が増加し、唯一、増益を確保した。
 (株)大林組の同期(連結)の売上高は1兆2,769億円(同14.8%減)、営業利益は868億円(同26.7%減)。国内の建築工事の売上高(同18.9%減)の落ち込みが響いた。
 大成建設(株)の同期(連結)は、売上高が9,750億円(同17.0%減)、営業利益が822億円(同11.6%減)で、建築工事が前年同期から25.1%減少した。
 清水建設(株)の同期(連結)も、売上高が1兆3,057億円(同16.8%減)、営業利益が706億円(同27.2%減)と減収減益で、建築工事が前年同期から17.1%減少した。
 ゼネコン4社は、新型コロナの影響で民間投資が冷え込み、建築工事部門の落ち込みが大きかった。
 2021年3月期(連結)の業績見通しでは、4社とも減収減益を見込んでいる。

ゼネコン

 ただ、12月末時点の繰越工事高(次期繰越高)は、大林組、大成建設の2社は前年同期を上回り、マイナスの鹿島建設と清水建設も小幅減にとどめている。
 国土強靭化投資の増加による官公庁工事が支えとなり、建設市場の急激な縮小リスクは避けられている。


 1月の建設業倒産は過去30年間で最少の82件にとどまった。まだ、新型コロナ支援による支援効果が残り、表面的には苦境は顕在化していない。
 ただ、新型コロナの影響で民間投資が落ち込むなか、ゼネコン大手の官公庁頼りが長引くと、中堅・中小への影響が懸念される。
 建設業界の構造は、ゼネコントップを頂点にピラミッド型を形成し、全国に下請けの中小・零細企業が散らばっている。
 すでに建設業の新型コロナ破たんはジワリと広がり、民間工事の減少から激化する官庁工事の競合で行き詰まる事例も発生している。
 嵐の前の静けさなのか。コロナ禍を凌げるのか。これから建設業の真価と力量が問われてくる。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年2月15日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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