• TSRデータインサイト

Xアイコン
facebookアイコン

「包括的担保」、金融庁・尾﨑監督局総務課長に聞く(前編)

 11月4日、金融庁が「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会」を立ち上げた。国連のモデル法等も参考に、“包括的担保”の導入に向けて議論を本格化させる。
 アメリカをはじめとする諸外国では、包括的な担保権を活用した金融サービスが展開されているが、日本ではなじみが薄い。導入時には、登記面をはじめ、融資や審査実務への大きな影響が予想される。
 東京商工リサーチ(TSR)は、金融庁の尾﨑有・監督局総務課長に、包括的担保の検討に至る背景や論点を聞いた。


-このタイミングで包括的担保を検討する目的は。

 産業構造が転換し、有形資産よりものれんやノウハウなどの無形資産の重要性が高まっている。また、コロナ禍で事業転換や事業再生などのニーズが高まっている。
 こうしたなか、金融機関が事業者の事業性や将来的な事業価値を見極め、コンサルティング機能を発揮して資金や経営改善ニーズに対応していく必要がある。実際、事業者の生産性向上に資する取り組みを行っている金融機関も増えてきている。
 事業承継の面では、経営者保証が円滑な承継の制約になっているとの声もあり、それに頼らないで事業承継を行うニーズも高まっている。融資等を通じて価値ある事業を支えるために何ができるかが課題になっている。
 現行の金融実務は、民法など私法の体系のなかで実務関係者が工夫して作り上げてきた。そのうち担保法制は、明治から大枠は変わっておらず、現在、法務省で見直しに向けた動きが進められている(TSR注:2019年3月に「動産・債権を中心とした担保法制に関する研究会」が設置された)。
 我々もこの議論に参画しており、事業の価値を高めていくような金融実務へ改善するための制度設計はどういうものか、金融機関に対して事業者を支援するための動機付けを与えるのはどういう法制度なのか、こうした観点から包括的担保を提案している。包括的担保が導入されれば、事業の内容に対して関心が向かうと考えられる。これまでは、担保管理と事業の把握が乖離しがちだったが、これが一体になる。

-金融庁は、これまで“事業性評価”や“リレーションバンキング”など「事業をしっかり見よう」とメッセージを出して来たが、不十分だったのか。

 これまでもしっかり取り組んでいる金融機関はあるし、数も増えていると思う。制度が加われば、さらに取り組みが促進されると思っている。金融実務に与えている民法を中心とする私法、特に担保法制の影響は大きい。

-「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会」の立ち上げは11月。近日中にも論点整理等の取りまとめを予定している。

 来年以降の法制審でこのアジェンダを入れていただくことを目指している。このため、法務省のスケジュールに合わせる形で、近日中に何とか論点などをまとめたい。
 3月以降はコロナの問題が深刻化し、金融庁をあげてコロナ対応に注力したため、結果的に、研究会の立ち上げは11月になった。もっとも、今年1月に、法務省の研究会で我々はプレゼンもしており、準備は進めてきた。

-金融庁の研究会の中で、「再生局面での新規融資(DIPファイナンス)」に対して、既存担保権に優先するゼロ順位の担保権が検討されている。

 事業再生の実務家からもご提案いただいている。法的整理でのつなぎ融資は資金繰り維持の面で重要だ。事業価値を向上させるために必要なDIPファイナンスを出し、企業が再生すれば、利害関係者が利益を受ける。包括担保権者にとってもメリットのある話で、ゼロ順位を認めることに説明がつきやすい。
 とはいえ、既存の担保があるなかでどこまで優先させるのか、より優先される債権者に対して、どういった保護が与えられるべきなのかなど、しっかり議論しないといけない。

-今の法制度でも、DIPファイナンスがでている。

 もちろん今も既に取り組まれている金融機関もいらっしゃることは認識している。しかし、十分ではないため、再生実務家から要望が出ているのだと思う。
 また、現在の実務も、在庫とか売掛金があって、担保を付けた上でDIPファイナンスを出すケースについては、包括的担保があれば、DIPファイナンスの可能性が広がるように思う。

-金額が不十分ということか。

 DIPファイナンス自体が現在、限られたケースにしか出ていない。必要な局面において、金利水準なども含む様々な要因から出ていない。実務家からもかなり強く包括的担保を「入れてほしい」とのご意見がある。

-商取引債権者の取引協力も欠かせない。ゼロ順位が認められると、与信の厳格化、与信限度額の引き下げが想定される。

 商取引の継続は事業価値の維持・拡大に必要だ。商取引債権は保護する必要があると考えているが、どこまで保護するかは別途、議論しないといけない。
 特に、商取引債権のなかには、非常にサイトが長い期間のものもあり、実際は金融取引のようなものもある。それらをどの範囲まで保護するのかという問題もある。

-事業再生ADRは、ADRから法的手続きに移行した場合、商取引債権が優先的に弁済されるよう裁判所が考慮する規定がある。同様に、運用イメージは“考慮”なのか。

 弁済の優先順位のなかでどう制度として商取引債権を優先させる形を仕組んでいくかという実体法上の優先順位の話である。“考慮”だと商取引債権者は不安になりかねないので、「こういう要件であれば優先される」など、クリアになる制度設定が望ましいのではないか。

(続く)

三セク2

‌尾﨑有・金融庁監督局総務課長(TSR撮影)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年12月11日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

Xアイコン
facebookアイコン

人気記事ランキング

ランキング1位
  • TSRデータインサイト

「鳶工事業」が苦境、倒産が過去最多ペース ~ 16年ぶり100件超、職人不足とコスト対応がネック ~

「建設現場の花形」と言われる鳶職人の世界に逆風が吹く。足場から鉄骨、支柱工事など建設現場で欠かせないが、倒産が過去最多ペースだ。有効求人倍率は7.94倍と深刻な人材難の鳶業界にあって採用難と高い技能、経験が若者の育成に足かせになっている。鳶工事業の倒産を分析した

2

  • TSRデータインサイト

「渋谷区」が倒産最多、2年連続も視野 ~ 倒産企業の半数が業歴10年超、新設法人は伸び鈍化 ~

街の主役は若者から大人へ。再開発で変貌を遂げる「シブヤ」に異変が生じている。 渋谷区に本社を構える企業倒産(1-8月)は、全国の市区郡別で最多の123件に達した。昨年(2025年1-12月)は161件で2007年以来、18年ぶり全国ワーストだった

3

  • TSRデータインサイト

2025年度の書店の利益、前年度の4.6倍に拡大 黒字企業が7割も、「増収増益」は13.4%

「本離れ」が言われて久しいが、書店経営が回復に転じた。全国の主な書店304社の2025年度の売上高合計は、6,121億4,000万円(前年度比1.6%増)、利益合計は40億2,600万円(同365.4%増)で、売上高は微増だったが、利益は前年度の4.6倍に急回復した。

4

  • TSRデータインサイト

翻訳業が苦境、利益は3年で7割減 ~ AIと競合で破産したケースも ~

AIが翻訳業界にドラスティックな変化を迫っている。日進月歩で精度が向上するなか、言語間の壁が低くなっている。この余波が翻訳業界に広がり、業績は3期連続で減収減益に追い込まれた。

5

  • TSRデータインサイト

「畳製造業」 伝統産業に忍び寄る市場変化と後継問題 売上は3年連続で低迷、業歴100年超の老舗が2割超

9月24日は「畳の日」。全国畳産業振興会が4月29日と9月24日の年2回定めている。日本の住文化の伝統を引き継ぐ畳のすばらしさをアピールすることが目的だが、畳製造業が長期低迷に陥っている。 全国の主な「畳製造業」256社の2025年度の売上高合計は402億7,700万円(前年度比1.3%減)だった

TOPへ