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フリージアグループ・佐々木ベジ会長 独占インタビュー(後編)「最期には無一文になるのが私の夢」

-企業の再建を引き受ける基準や企業をみるポイントは?

 失敗してグループが傾くほどのリスクを背負うような会社の再建は引き受けない。たとえ失敗してもグループで対応できるリスクの範囲内で引き受ける。
 投資対象としての良い会社・悪い会社の判別は難しい。この会社は資産があり、儲かっているから良い会社。赤字で債務超過、生産性も低いし借金も多い。今にも潰れそうだから悪い会社かというとそうでもない。
 資産があり、良い会社というのはその時がピークでそれ以上良くならないことも多い。社員が自己肯定しているから、変わることができず、生産性が上がらないからだ。
 もともと生産性が高く、前に進んでいる会社が売りに出されることはない。そういう意味では多少澱(よど)み、過去の栄光を持ちながらも、はっきり翳りがみえていない会社が一番始末に負えない。おまけにそういうところは値段も高く、リスクばかり大きくなる。


-倒産後に再建を引き受けるケースも多かった

 債務超過でボロボロでも変わる可能性がある。いったん倒産すると逆に改革しやすい場合もある。値段は安いし、リスクは低い。
 その後に投じる金は大きくなっていくが、再建の度合いに応じて投資をすればいいわけで、それでも変わらなければやめればいい。その場合、損はするが、高い値段で買った良い会社が、業績がどんどん低迷していくことに比べれば、まだリスクは低い。
 会社はマイナスの部分が表に出ていても、見えないプラスの部分が必ずある。逆に、プラスの部分が表に出ていれば、見えないマイナスの部分がある。その両方を読みきるというのが大事じゃないかと思う。
 それから(案件が)自分の器量に合っているか。あまり手がかかりすぎたり、かかる期間が長すぎたり、業績の谷が深すぎたりしてもいけない。自分の器量や力量、会社の規模に応じて適当かということを判断しながら、優先順位をどうつけるかにも苦心している。
 あとは面白そうかどうか。また、限られた人的パワーでやっているため、それでやり切れるかどうかという判断もある。

-今後のグループの方向性は?コロナ禍で案件の依頼は増えたか

 現在は引き受けた会社の立て直しに注力している最中なので、これらに役立つ再生案件には興味がある。例えば、ラピーヌとの相乗効果を考えればアパレル関連になるだろう。
 このほか、当社のグループが抱える半導体関連、土木・建築、医療関連、電子デバイスなどの分野は魅力がある。コロナ禍で案件の依頼が増えたわけではないが、潜在的には会社を売りたい人が多くいると思う。
 先行きが見えず、買い意欲より売り意欲が強い。コロナ対応の資金繰り支援で倒産は減っているが、商売の中身がよくなっているわけではない。うまく会社の整理ができて、多少なりともお金が入れば御の字の人は多い。

-後継者不足の問題もある

会社は人間の体と違い、悪い臓器を取り換えてあげればずっと生き延びることができる。だから、1社であれば中途半端でも、10社引き受けて3社にして残すという考え方も可能。生き残った会社に商圏を残すことができる。

-企業の買収や再生に傾注した経緯は?

 もともとはM&Aなどに興味があったわけではない。ただ、東京へ出てきて、まずは飯を食わなくちゃならない。やる以上は自分で商売をやりたいというのがあった。
兄弟も東京に出てくるので稼ぐ必要もあった。現金を使わないような島で育ったから、現金に対する逆の意味の興味があった。(注:佐々木氏は伊豆諸島・青ヶ島村出身。フリージアハウス代表取締役社長の奥山治郎氏、フリージア・マクロス代表取締役社長の奥山一寸法師氏は実弟)。
世の中の人が、現金で動くのを見て面白くてね。商売自体は何でもよかった。たまたま秋葉原で電気屋を始めたが、モノを仕入れて売るのも事業を立て直すのも、要は同じこと。

-兄弟経営について

 弟とは諍いや対立は、今までない。タイプが違うから、お互いを補い合う存在だ。自分はコストには厳しいが、出来上がって得た金には頓着しないタイプ。
兄弟経営というのは、最後は金の争いになるからうまくいかない。ただ自分はそういうタイプでもないし、弟もそこはわかっていると思う。最期に無一文になって死ぬというのが私の夢だから(笑)。

-事業再生に必要なことは?

 複雑な金の流れは考えないようにしている。会社経営は複雑に考えず、モノを売るのと何も変わらない。左手で作って右手で売る。右手で売った金を左手に渡して、作った時にかかった費用を払っていくら残るか、ということがモノ売りの基本。
 会社も同じことでシンプルに考えればいい。出ていく金と入ってくる金を見て、いくらで作っていくらで売るか。それでどれだけ会社に残って、そこから費用や仕入代金を払うだけ。会社の経営にこれ以外のことはない。
 そう思えばどんな事業だってやれる。
 なかにはそもそも成り立たない商売というものもある。右手の金より左手でかかる金の方が大きくなる場合だ。であれば、人件費以外の会社の費用負担をどこまで下げられるかを考えればいい。
 再生のために最終手段として社員のクビを切ることもあるかもしれない。だが、まずは社員を大事にするべきと考えている。坂道を転がる会社の経営者がリストラする時は、まず身の回りを固め、先兵にして弱い者を切っていく。そうすると皆が疑心暗鬼になる。次は誰だ?と。また切る連中も、次は自分か?となる。
 給料を下げる必要があるなら皆で下げ、喧々諤々(けんけんがくがく)しながら議論すべきだ。こうした議論は会社の仕組み、進むべき道が給料と直結しているから、中身も責任感も方向性もより理解できる。会社の再建とは本来そうあるべきだ。

ベジ会長1

インタビューに応じる佐々木会長(TSR撮影)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年12月2日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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