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写真撮影や現像など「写真業界」動向調査

  プロカメラマンの写真撮影や現像などを手がける写真業界の地盤沈下が深刻だ。高画素のデジタルカメラの浸透やスマートフォンのカメラ性能が向上し、写真や動画撮影が手軽になった。また、デジタル化の進化でクラウドによる写真保存も簡単で、街の写真関連の店舗は売上減少から倒産が急増。新型コロナ関連倒産も3件判明している。

記念写真や証明写真の撮影や商業写真、現像など写真業界410社の2019年度(2019年4月期-2020年3月期)売上高は1,820億5,300万円(前年度比4.5%減)で、直近2年間で売上高は約1割落ち込んでいる。2020年度に入ると、新型コロナ感染拡大で卒業式や入学式、修学旅行などの学校行事、結婚式などの休止や延期、縮小も相次ぎ、2020年1-9月の写真業界の倒産は19件(前年同期比72.7%増、前年同期11件)と急増。過去5年間で最多ペースで推移している。生活様式の変化で写真需要が低迷するなか、新型コロナが追い打ちをかけて苦境が鮮明になっている。

写真業界は売上高1億円未満の小・零細事業者が約8割(構成比76.5%)を占め、生き残りには急激に変化する時代への対応と差別化(高付加価値)が求められる。スマホカメラの技術進化で、老若男女を問わず日常的にスマホでの写真撮影が浸透し、専門的な知識は不要になっている。

写真や動画が生活に溶け込むなか、写真の感性が問われるプロの撮影技術や現像技術を活かした新たな市場の掘り起こしが急がれる。

  • ※ 本調査はTSR企業データベース(約390万社)から、2017年4月期~2020年3月期までの決算期で売上高、当期純利益(以下、利益)が比較可能で、主力事業が「写真業」「商業写真業」「写真現像・焼付業」(以下、写真業界)410社を分析した。最新期(2019年度)は2019年4月~2020年3月の決算。

毎年5%の売上減が続く

  写真業界410社の売上高は、落ち込みが止まらない。2017年度は2,004億8,900万円だったが、2018年度は1,907億500万円(前年度比4.8%減)、2019年度は1,820億5,300万円(同4.5%減)と、毎年約5%ずつ減少。2020年度は新型コロナの深刻な影響もあり、大幅減が避けられない。
利益は2017年度の29億3,500万円から2018年度は20億3,700万円(前年度比30.5%減)と急減。2019年度は23億7,400万円(同16.5%増)と回復したが、売上減少に歯止めが掛からず、コスト削減などでカバーする状況が続く。

写真業業績

倒産は過去5年間で最多ペース

  写真業界の倒産は、2020年1-9月合計で19件(前年同期比72.7%増)と急増。新型コロナ感染拡大で営業自粛や需要急減も重なり、新型コロナ関連倒産も3件発生している。負債総額は、2020年1-9月で25億5,600万円(同667.5%増)と、前年同期比約8倍増と大幅に増加した。
デジタルカメラが急速に普及した2007年の倒産は過去20年間でピークの44件に達した。その後、小康状態が続いたが、スマホカメラ性能の向上で需要がさらに減少。体力が落ちていたところに新型コロナが追い打ちをかけ、5年間で件数、負債ともに最多ペースで推移している。

写真業倒産

売上高トップは「カメラのキタムラ」の(株)キタムラ

 写真業界の売上高ランキング(単体)は、1位が「カメラのキタムラ」を展開する写真現像やカメラ販売の(株)キタムラが881億9,500万円でトップ。次いで、「パレットプラザ」などDPE大手の(株)プラザクリエイト、3位が公営競技の写真判定などの日本写真判定(株)、4位は商品撮影や在庫システムなどの(株)アッカ・インターナショナル、5位にプロカラーラボ大手の(株)堀内カラーがランクインした。
なお、3期連続比較が対象のため、記念写真大手の(株)スタジオアリスは2018年2月期が決算期変更で14カ月決算で対象外。2020年2月期の売上高は370億300万円で、2位の水準となる。

売上高別 売上高1億円未満が約8割

  2019年度の410社の売上高の構成比は、1億円未満が314社(構成比76.5%)と約8割を占めた。
1億円以上5億円未満が68社(同16.5%)、5億円以上10億円未満が14社(同3.4%)、10億円以上50億円未満が10社(同2.4%)の順。50億円以上は4社(同0.9%)にとどまる。
損益は、2017年度の黒字341社、赤字69社から2018年度は黒字339社、赤字71社、2019年度は黒字327社、赤字83社と赤字企業が増加。2019年度は2割(構成比20.2%)の企業が赤字だった。

写真業売上

業歴別 業歴50年以上が約4割

  業歴別では、10年以上50年未満が166社(構成比40.4%)で最多。50年以上100年未満が149社(同36.3%)、100年以上10社(同2.4%)と続く。不明を除き、10年未満はわずか9社(同2.1%)にとどまり、老舗企業が大半を占め、新陳代謝が進んでいない実態も浮き彫りとなった。


 昔ながらの街の写真館やフォトスタジオ、写真現像店が街から消え始めている。
経済センサスによると、写真業界の事業所数は、2016年の1万7,555事業所から2018年には1万1,931事業所と32.0%(5,624事業所)も減少した。手軽にデジタルカメラで撮影でき、最近はスマートフォンによる撮影も一般化し、写真現像の必要も少なくなっている。また、高画素のミラーレスカメラの新製品が次々と市場に出回り、購入層も広がっている。高品質の写真を身近に撮影できる環境が、写真業界の衰退につながっている。
最近、写真店を利用した女性は、「プロに撮ってもらった写真はやはり全然違う」と感激したという。写真業界の多くは、小・零細規模で地域に密着した老舗だ。新型コロナでさらに需要が減少し、給付金などの支援策で事業を維持している企業も多いとみられる。だが、根本的な経営の見直しや需要掘り起こしが急務で、このまま何もしなければ業界の衰退は加速度的に進む可能性が高い。

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