りそな銀行・岩永社長 事業承継ファンド、姿勢は「ミドルリスク、ミドルリターン」独占インタビュー(後編)
2021年春に新たに事業承継ファンドを創設する
これはコロナとは関係なく、4月にスタートした中期経営計画の柱として、事業承継を中核ビジネスとして位置付けた。これまでも後継者不足が中堅、中小企業の大きな課題となっていた。ビジネスとして優れているにも関わらず、生産性などの面がなかなか改善されず、経営者が高齢化していく大変惜しい企業がある。こうした企業を元気なうちに再成長させる。事業承継は国内経済のためにも欠かせない。
近年の事業承継の流れは、第三者にストレートに売却したり、プライベートエクイティファンド(PE)に売る、などのケースが増えている。選択肢を増やすという意味で、銀行自体が株式を100%取得し、一旦経営を預かるという方法を取った。取引が非常に長い我々が、一時経営を預かることで、事業承継自体がスムーズに進むのではないかと考えている。
具体的には?
仕組みはPEと同じだが、我々はファンド事業で儲けようとは考えていない。事業承継を円滑にするための一つの手段としての取り組みだ。オーナーと長年の関係性がある我々が一時期会社をお預かりして、オーナーが描いている再成長のイメージに沿ってリスクをテイクすると思っていただきたい。なので、株式に関しては当初、オーナーと50/50でも良いと思っている。
我々の場合はエグジットが終わったからと言って、そこで関係が終わりではない。金融機関として事業承継後も長く関わる可能性もある。
株式の100%取得は金融機関として初の試みだ
最終的なエグジットを考慮すると100%という数字を想定しなければならなかった。これが大企業であれば51%という株式の保有も考えられるが、中堅中小の場合は、様々な株主が入っているケースもある。
企業を再成長ステージにのせるであるとか、手を入れ、しっかりと企業価値を高めていくためには、少数株主はいないほうが良い場合もある。最終的に過去の経営者の思いをしっかり伝えられる譲渡先がみつかって、その先から100%の株式譲渡を求められるケースを想定したものだ。
オーナー自身、いろいろな関係性がある中で、少数株主との交渉が困難な場合もある。そのような少数株主をどのように整理するのかは大変重要だ。スクイーズアウト(支配株主による株式取得)も可能だが、強制的に進めるのではなく、しっかりと話をまとめたほうが良い。丁寧に話をしないと理解されない方もいる。そこで、ひとつ、我々が登場する場面かな、とも思っている。
M&Aブティックなどライバルは多い
安い企業を買って高く売るとか、リストラをして企業価値を高めるということは想定していない。我々も単にリターンを求めるなら、レバレッジを効かせて、10億円投資し、50億円で売却して、と考えるだろう。だが、我々はミドルリスク、ミドルリターンで良いと思っている。それは、出資するお金自体は銀行のお金で、投資家によるものではない。投資家を気にして、ものすごく高いリターンを設定する必要がない。そこは、ハイブリッドな考え方ができる。
投資の対象となる企業も自ずと厳選されていく
投資の対象として企業価値にステイブルなものがあって、持続性があるなかで候補先を選定する。横ばいで推移している企業でも、生産性を改善し地道に取り組めば企業価値が高まる、ここに我々のビジネスチャンスがある。このファンドはただ、ドラスティックに買って、リストラする、などというものではない。
3~5年のスパンで次の譲渡先を選定する
我々の場合は10年20年と、お客さまと非常に長い取引がある。この中で、何が課題かということも知っているし、聞いている。
ただ、オーナーとしては、「ここで私がいなくなるのは従業員も取引先も困る」というケースもある。だから、一定期間オーナーが経営者・アドバイザーとして残るケースもあるだろう。我々は株主の立場で、決定権を持つ。この流れを理解して頂き、「これならいいね」というお客さまにアプローチする。会社側も選択肢があるのとないのとでは全然違う。
すでに対象となっている会社はある?
候補はある。今、この環境下なので、こういう事業に興味があるという方が手を挙げられている。準備期間はあるが、21年春に予定通りスタートできそうだ。
後継者難の企業を中心に、コロナ禍で廃業を決断するケースも
後継者がいない廃業はこれまでもあったが、今後増えるだろう。このコロナ禍は、経営者、企業にとっても一つの決断のしどころだと言える。小規模の親族経営など廃業の影響範囲が小さい企業で増えるとみている。取引先関係も大きく、ステークホルダーが多ければ多いほど(廃業の)決断は難しくなるからだ。
今回のコロナ禍は「自分の死」を意識する経営者も少なくなかっただろう。「自分が突然いなくなったら、会社はどうなる」と。想定もしていなかった “目に見えない恐れ”(ウイルス)が表面化した。企業ではなく、個人のお客さまの間でも遺言、相続が急に出てきたと現場レベルの話で聞くようになった。必然的にこういう話も今後、増えるとみている。
経営者の高齢化により、廃業を決断する企業が増えている。そこに新型コロナが襲い、多くの企業が従来通りの事業運営が困難となった。岩永社長は、このコロナ禍を「廃業を決断する機会となる」と危惧する。
金融機関にとって、良質な商品、ビジネスを生み出す取引先の廃業は、自行、地域にとって長期的にマイナスになるとみる。りそな銀では今夏、取引先のアフター・コロナのビジネスモデル構築を後押しする「成長戦略室」も新設した。“不要不急の廃業”を防ぐ、これらの取り組みが限られた時間の中でどのように花開くか、関係者の熱い注目を集めている。