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上場企業「新型コロナウイルス影響」調査 (6月24日時点)

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「緊急事態宣言」が全面解除され、まもなく1カ月を迎える。この間、感染者数は局所的なクラスターの発生で一進一退を繰り返しながらも、企業活動は「ウィズコロナ」に向けた新しい生活様式に対する取り組みが迫られている。
 6月24日までに、新型コロナの影響や対応などを情報開示した上場企業は3,427社に達した。
これは全上場企業3,789社の90.4%を占める。業績の下方修正を発表したのは898社と、全上場企業の約2割(23.7%)に達した。また、898社のうち248社が赤字だった。
 下方修正額のマイナス分は合計で、売上高が6兆2,566億円、利益は4兆682億円にのぼった。
 2020年3月期決算の2,406社のうち、2,376社(98.7%)が決算短信を発表した。減益が約6割を占め、新型コロナが利益の下振れに繋がった。一方、次期(2021年3月期)の業績予想では、「未定」とした企業が約6割(59.7%)に達し、流動的な環境下で先行きが見通せない企業が多いことを反映している。

  • 本調査は、2020年1月23日から新型コロナの影響や対応など全上場企業の適時開示、HP上の「お知らせ」等を集計した。
  • 「影響はない」、「影響は軽微」など、業績に影響のない企業は除外。また、「新型コロナウイルス」の字句記載はあっても、直接的な影響を受けていないことを開示したケースも除外した。前回発表は6月18日(6月17日時点)。

エイチ・アイ・エス 2度目の下方修正で通期業績予想を取り下げ「未定」に

 情報開示した3,427社のうち、決算短信や月次売上報告、業績予想の修正などで新型コロナによる業績の下振れ影響に言及したのは1,550社だった。一方、「影響の懸念がある」、「影響を精査中」、「影響確定は困難で織り込んでいない」などの開示は1,241社だった。
 下振れ影響を公表した1,550社のうち、898社が売上高や利益の減少などの業績予想、従来予想と実績との差異などで業績を下方修正した。業績の下方修正額のマイナスは合計で、売上高が6兆2,566億円、最終利益が4兆682億円に達した。

 旅行業大手のエイチ・アイ・エスは6月24日、2020年10月期第2四半期決算を発表。同時に通期決算の従来予想については一旦取り下げ「未定」とした。
 同社は3月2日、新型コロナによる旅行・ハウステンボス・ホテル事業への悪影響を要因として、同期決算の業績予想を、売上高で1,250億円、最終利益を121億円下方修正していた。しかし前回公表以降、各国で外出制限や渡航制限が実施されるなか、今後も影響が深刻化することが予想され、現時点で業績に与える影響が合理的に算出できないとした。

業績下方修正額の推移(累計)

2020年3月期決算、未公表は2,406社中30社

【2020年3月期決算】
 6月24日までに、2020年3月期決算の上場企業2,376社(3月期決算の上場企業の98.7%)が決算短信を公表した。決算作業や監査業務の遅延などを理由に、30社が未公表となっている。
 決算発表した2,376社のうち、最多は「減収減益」で894社(構成比37.6%)。次いで、「増収増益」が700社(同29.4%)だった。
 増収企業(1,202社、50.5%)と減収企業(1,174社、49.4%)は拮抗したが、利益面では減益企業(1,396社、58.7%)が増益企業(980社、41.2%)を17.5ポイント上回った。
 新型コロナによる減損や繰延税金資産の取り崩しでの損失が利益の下振れに繋がった。

【2021年3月期決算見通し】
 次期(2021年3月期)の業績予想は、2,376社のうち、約6割の1,420社(構成比59.7%)が、「未定」として開示していない。新型コロナによる経営環境の激変で、業績予想の見通しが立てられない企業が多い。一方、次期の業績予想を開示した956社のうち、最多は「減収減益」の404社と、約4割(42.2%)を占め、収益環境の悪化を予想している企業が多い。

上場企業の約2割が決算発表延期を公表

 新型コロナウイルスの影響・対応を分類すると、「業績への影響(下振れ、懸念・未定)」以外では、「決算発表の延期」が739社と上場企業の約2割(19.5%)に達した。3月期決算の発表はピークを過ぎたが、その後の決算期でも決算発表の延期を公表する企業が相次いでおり、コロナ禍での決算作業の遅れによる混乱は当面続きそうだ。
 「その他」(989社)のうち、新型コロナウイルスの影響がプラス効果になっていると公表した企業は178社だった。また、新型コロナによる業績ダウンを受けて役員報酬の減額や自主返納などを表明した企業(111社)なども目立った。

新型コロナ対応の「資金調達」は202社、総額は10兆163億円

 事態の長期化や、「ウィズコロナ」「アフターコロナ」に備えた対応策として、運転資金の確保や手元資金を厚くする動きが広がっている。金融機関などからの資金調達を公表した企業は202社で、調達額の総額は10兆163億円にのぼった。トヨタ自動車の1兆2,500億円を筆頭に、1,000億円以上の調達が大手中心に27社で、上位20社中6社が自動車メーカーだった。多額の調達額を開示した一部企業が全体を引き上げたため、1社あたりの平均額は503億3,300億円だが、調達金額レンジでは、10億円以上100億円未満が97社(構成比48.0%)と、約5割を占めた。
 業種別では製造業が最多の60社(同29.7%)だった。世界経済の悪化に備えたグローバル企業が多い。次いで、サービス業の51社(同25.2%)、小売業の48社(同23.7%)と、新型コロナの影響が直撃した消費関連の業種が続き、上位3業種で159社(同78.7%)と約8割を占めた。

「資金調達」開示企業 調達金額別

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