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コロナ禍で復活!? 経営者を狙う「M資金」詐欺

GHQに接収された資産が原資!?

 旧日本軍の秘密資金「M資金」をうたい巨額の資金提供を持ちかけ、会社役員から現金1億3,000万円をだまし取ったとして、神奈川県警は6月11日、詐欺の疑いで男3人を逮捕した。総額31億5,000万円を詐取した疑いがもたれている。
 戦後、闇世界を跋扈した「M資金」が、令和でも生きていた。東京商工リサーチ(TSR)情報部が、時代錯誤の花形ともいえる「M資金」を追った。



 M資金―――。終戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が占領下の日本から財宝や資産を接収し、その一部を今でも極秘に運用している秘密資金をいう。「M資金」のMは、GHQ経済科学局長のウイリアム・マーカット少将に由来する(諸説あり)。
 一般には知られていないが、国家的価値のある事業に携わる大企業の経営者や富裕層など、選ばれた人にのみ“特別”に斡旋される数千億円から数兆円にも及ぶ巨額融資の「原資」にあたる――。云々
 こんな甘い話を誰が信じるか。多くの人は、「都市伝説のような話は眉ツバ」と感じるだろう。「M資金」が真っ赤なウソというのは誰でも知っている“常識”・・・のはずだった。
 戦後から幾度となく繰り返された古典的詐欺の手口である。政府の代理人を名乗る人物が経営者のもとを訪れ、数千億円を融資する代わりに仲介手数料を詐取し、書類に個人情報の記入や署名、捺印を迫り、のちに金銭を脅し取る。
 被害者の多くは、都市の大企業の経営者や役員。こうした情景は2013年に製作された映画『人類資金』でも出てくる。
 だが、中堅企業や地方の企業経営者が標的にならないとも限らない。コロナ禍で資金繰りに窮している企業は多い。渡りに船とばかりに騙される可能性もある。甘い蜜とわかっていても、飛びつく魔力が「M資金」にはついて回る。

3,000億円の融資話

 「M資金」詐欺事件の例を挙げると、1970年代に航空会社の社長が3,000億円の融資話に乗って、念書を書いたことが公になり退任した。90年代にも旅行会社や薬品卸会社、建設会社の社長や役員、芸能人が、M資金詐欺の被害を受けたといわれる。
 また、一流企業の社長だから「騙されたこと」が恥ずかしく、被害届を出さないケースもある。「公になっている被害の数は氷山の一角にすぎない」(警察関係者)と言う。
 しかし、百戦錬磨の会社経営者が、何故かくも易々と騙されるのか。詐欺師がコンタクトをとる手口は大きく二つある。
 一つは、アポなしで直接訪問するケース。「米国務省のA(実在する人物)と日本銀行総裁から貴社の社長(もしくは役員)に会うように指示された。他の者には聞かせられないので直接話したい」などと語り、会社を訪問する。いきなりの訪問者に会うはずはないと誰もが思うが、政府や政治家の代理人と言われると、簡単に断ることが出来ないのが凡人のプライドである。
 二つ目は、事前にレターパックで書類を送りつけるケース。そこにM資金の説明や「長期保護管理権委譲渡契約方式基金」の説明、著名な企業家が関わっていることを匂わす文章などが記されている。さらに、官庁幹部職員の職歴などもつけ、信用させて接触してくる。
 先ほどの「長期保護管理・・・」。ひと目で胡散臭いと感じるはずだが、「疑問」という言葉がなぜか頭から消え失せるのだ。

その手口

 面談は一対一。秘密の資金のため、他言無用と念押しされる。すでに胡散臭い。だが、実際のケースでは、財務省や金融庁などと書かれた5,000億円の「還付金残高確認証」や預金通帳のコピーを見せる。これで特別に選ばれた人物で、融資することが国家のためになるなど、経営者の自尊心をくすぐる。脇が甘くなったところに、さらに返済義務がなく、親子三代まで免税・免責・免租され、国から証明書が発行される。こんな御託を言葉巧みに並べる。
 経営者はこの資金で、「赤字を補填できる」、「事業を拡大できる」と考える。役員は、「この資金を元手にライバルを出し抜いて経営のトップに立てる」など野心をみせる。こういう人ほどつけ込まれやすい。
 誰にも相談できないから、一種のマインドコントロール状態に陥り、騙されるのだ。
 契約金額は、資金管理者である金融庁のB氏(実在の人物)が面談のうえ、最終決定するとなれば疑う余地はない。また、名刺を2枚用意させ、1枚は裏に氏名と捺印(銀行印)、生年月日、携帯電話番号、そして「よろしくお願いします」と一筆書かせる。そこで、仲介手数料や諸経費を名目に、契約金額の数パーセントを要求する。
 5,000億円の融資であれば、1%でも50億円だから莫大な金額である。当然だが、その資金を手中にすると姿を消す。もちろん融資は実行されるはずがない。
 手数料を詐取されなくても、裏書きした名刺や個人情報を記入、捺印した書類が詐欺師の手に渡ると、悪用や買い戻すよう脅されることもある。「むしろこうしたケースの方が多い」(警察関係者)といわれる。

「Mではない」資金

 現代では、「M資金」の言葉自体が、詐欺と経営者に知れ渡っている。だから、あえて「これはM資金でない」と断りを入れ、別の秘密資金と騙すケースが増えている。
 「天皇家の資金を管理している」、「産業育成資金を提供する」、「フリーメイソンの資金から拠出し」など、言葉巧みにすり寄ってくる。
よく見かけるのは、「『財政法第44条』に基づく、国の資金を提供するプロジェクト」との文言だ。財政法第44条とは「国は、法律を以て定める場合に限り、特別の資金を保有することができる」というもの。
 「特別な資金」という文言から、あたかも政府が秘密裏に保有する資金があり、それを特別に融資するかのように思わせるのだ。財務省のホームページ上でも「詐欺の可能性がある」として注意を喚起している。


 経営者は孤独と言われる。事業の方針や意思決定を自らの判断で下し、責任を求められ、資金繰りに一人で頭を悩ませる。
 「M資金」はそんな経営者の弱みにつけ込む詐欺である。
 先の警察関係者は、「必要ない文書は、拒絶通知を送付するなど、毅然とした対応をとることが大事」と指摘する。その上で、「何よりも会わないことが最大の対策」と強調する。果たして、甘い悪魔の囁きに取り込まれる経営者はいなくなるのか。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年6月25日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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