• TSRデータインサイト

【特別寄稿】中小企業白書のポイント(第3回/全3回)~中小企業における経営課題への取組と支援機関の活用~

 公的機関を中心とした様々な中小企業支援機関は、中小企業・小規模事業者の経営改善や事業の発展を支える重要な役割を担っている。
 2020年版小規模企業白書(以下、「白書」)第3部第2章では、中小企業・小規模事業者における課題解決のプロセスや、経営課題とその相談相手、公的支援メニューや支援機関の利用実態、日常の相談相手の有用性についてアンケート調査等を基に分析を行っている。

◆経営課題の解決に向けた外部支援の有効活用

 経営課題の解決プロセスとしては、「現状把握」、「計画策定」、「計画運用」といった取組が挙げられる。第1図は、外部支援の有無と、企業の「現状把握」の状況との関係について示したものであるが、いずれの項目においても外部支援を受けている企業の方が、「十分」又は「おおむね十分」と回答する割合が高いことが分かる。

中小企業白書のポイント3_1

 同様に「計画策定」や「計画運用」に関しても、外部支援を受けている企業の方が、自己評価において「十分」又は「おおむね十分」と回答する割合が高く、経営課題の解決に向けて、外部支援を受けることの有効性が示唆される。
 また、白書では、単に経営計画を策定するだけでなく、計画の達成に向けた行動や計画の進捗管理、計画に対する実績の評価などといった経営計画の運用にしっかりと取り組む企業ほど、業績が良いことも示している。外部支援も有効に活用し、経営改善のPDCAサイクルを回していくことが重要と言えよう。

◆経営課題と相談相手

 白書では、中小企業が抱える経営課題の中心は、「人材」と「営業・販路開拓」であるものの、業種や企業規模、利益状況、業歴、事業方針などによっても、傾向が異なることを示している。また、適切な相談相手とのつながりがないことを理由に、支援を期待する相談相手へのアプローチができていない者が多く存在する実態を踏まえ、自社の経営課題解決に適した支援機関を探しやすい体制整備や、支援機関同士のネットワーク形成の重要性などを指摘している。

◆支援機関の利用実態

 白書では、各支援機関の利用実績や理解度・認知度、課題解決への貢献度等について分析している。直近3年間での利用実績を見ると、「商工会・商工会議所」で5割を超えており、「日本政策金融公庫」と「信用保証協会」については、約4割の者が利用実績を有している。また、課題解決に対する貢献度については、一部を除き、半数以上の事業者が「十分」又は「おおむね十分」と回答している。
 また、支援機関を利用している企業は利用していない企業と比べて、業績が良い割合が高く、事業拡大意向を有する割合も高いことも確認された。
 白書では、この他にも、公的支援メニューの利用実態や、支援策の活用を促進するための工夫や仕組み作りを行う自治体の事例などを紹介している。

◆日常の相談相手の活用

 ざっくばらんな企業経営や事業運営に関する話題を持ちかけることができる「日常の相談相手」の存在は、中小企業経営者にとって重要である。白書では、こうした「日常の相談相手」に着目し、その実態や有用性について分析している。
 第2図は、企業規模別に日常の相談相手の属性を確認したものであるが、これを見ると、規模を問わず、「税理士・公認会計士」が最も多く挙げられている。また、いわゆる中小企業支援機関以外にも、「経営陣・従業員」や「取引先」、「経営者仲間」といった様々な関係者が、経営者の相談相手となっていることが分かる。

中小企業白書のポイント3_2

 また、日常の相談相手を有している者の方が、現状把握や経営計画等の策定・運用を十分に実施できている割合が高く、業績が良い企業も多いことも確認された。  なお、白書では、公的支援メニューや支援機関を認知するルートとしても、こうした日常の相談相手が重要な役割を果たしていることを指摘している。

 以上、3回にわたって、2020年版中小企業白書・小規模企業白書の内容について紹介してきたが、本稿では紹介しきれなかった分析も多数行っているほか、企業の事例も豊富に取り上げている。詳細にご関心のある方はぜひ白書本文もご覧いただければ幸いである。

(著者:中小企業庁 事業環境部 調査室 花井泰輔氏、東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年6月24日号掲載予定)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

【TSRの眼】「トランプ関税」の影響を読む ~ 必要な支援と対応策 ~

4月2日、トランプ米国大統領は貿易赤字が大きい国・地域を対象にした「相互関税」を打ち出し、9日に発動した。だが、翌10日には一部について、90日間の一時停止を表明。先行きが読めない状況が続いている。

2

  • TSRデータインサイト

中小企業の賃上げ率「6%以上」は9.1% 2025年度の「賃上げ」 は企業の85%が予定

2025年度に賃上げを予定する企業は85.2%だった。東京商工リサーチが「賃上げ」に関する企業アンケート調査を開始した2016年度以降の最高を更新する見込みだ。全体で「5%以上」の賃上げを見込む企業は36.4%、中小企業で「6%以上」の賃上げを見込む企業は9.1%にとどまることがわかった。

3

  • TSRデータインサイト

ホテル業界 インバウンド需要と旅行客で絶好調 稼働率が高水準、客室単価は過去最高が続出

コロナ明けのインバウンド急回復と旅行需要の高まりで、ホテル需要が高水準を持続している。ホテル運営の上場13社(15ブランド)の2024年10-12月期の客室単価と稼働率は、インバウンド需要の高い都心や地方都市を中心に、前年同期を上回った。

4

  • TSRデータインサイト

2024年度の「後継者難」倒産 過去2番目の454件 代表者の健康リスクが鮮明、消滅型倒産が96.6%に 

2024年度の後継者不在が一因の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は、過去2番目の454件(前年度比0.8%減)と高止まりした。

5

  • TSRデータインサイト

2025年「ゾンビ企業って言うな!」 ~ 調達金利の上昇は致命的、企業支援の「真の受益者」の見極めを ~

ゾンビ企業は「倒産村」のホットイシューです、現状と今後をどうみていますか。 先月、事業再生や倒産を手掛ける弁護士、会計士、コンサルタントが集まる勉強会でこんな質問を受けた。

TOPへ