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「破産をリモートで進めるのか」、倒産件数56年ぶりの低水準の舞台裏

 2020年5月の企業倒産(負債1,000万円以上、私的整理含む)は314件(前年同月比54.8%減)で、1964年6月の295件に次ぐ、半世紀ぶりの低水準となった。
 「新型コロナウイルス」が感染拡大した2月以降、インバウンド消失や外出自粛などで観光関連や飲食店を中心に、大幅減収により資金繰りに窮する企業が続発している。こうした中での想定外の倒産「激減」に驚きの声があがっている。
 歴史的な倒産減少の裏に何があったのか。東京商工リサーチ(TSR)情報部が迫った。


緊急事態宣言のインパクト

 取材を進めていくといくつかの理由が浮かび上がる。
 一つは、4月7日の「緊急事態宣言」だ。法的倒産の約2割(2019年度実績)を占める東京都に所在する企業を主に管轄する東京地裁民事第20部(破産再生部)は、宣言後、期間中に破産など法的手続きの「不急の申立て」を控えるよう東京の3弁護士会に要請した。
 これがSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で「バズる」と、誤解を招くとして訂正したが、「コロナウイルス感染症の影響で緊急性のある事件を優先的に処理している」と、TSRの取材に東京地裁の担当者は背景を語る。

破産をリモートで進めるのか

 また、緊急事態宣言に伴い、破産などの法的手続きの準備にも支障が生じた。これも倒産件数の押し下げに影響した。
 倒産や事業再生に詳しい弁護士は、「大手(法律)事務所を中心にテレワークに移行した。破産という一大決心を、リモートで進めることはできない」と経営者の気持ちを代弁。その上で、「移動制限があったため、東京の弁護士が担当する地方の案件は進めにくかった」と、緊急事態宣言中の活動の制約を明かした。
 東京地裁によると、今年4月の破産申請は120件だったが、5月は80件と、33.4%減少した。法的手続きの準備には「急ぎの案件は数日でやる場合もあるが、数週間を要すこともある」(別の倒産法に詳しい弁護士)ため、緊急事態宣言以降、法的手続きに向けた作業が滞ったことも5月の倒産の下落につながった。

倒産件数の推移

資金繰り支援策の効果

 セーフティネット保証の適用拡大や持続化給付金など、政府の資金繰り支援策も倒産の抑え込みに一役買っている。2次補正を含めた総額230兆円の事業規模は、リーマン・ショック時を上回る。
 TSRが4月23日~5月12日に実施したアンケートでは、新型コロナウイルス感染症特別貸付やセーフティネット貸付・保証を「利用した」と回答した企業は10.7%(2万554社中、2,205社)に及ぶ。売上が激減し、月次のキャッシュフローが赤字に陥っている企業の資金繰りを下支えしている。
 また、金融庁は「財務制限条項(コベナンツ)に事業者が抵触している場合であっても、これを機械的・形式的に取り扱わないこと」など、資金繰り支援を金融機関に要請している。事業再生の現場では、この要請の周知徹底に奔走している再生実務家もいる。
 さらに、中小企業庁は「新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール」を策定し、中小企業再生支援協議会を通じて、資金繰りに悩む企業の支援に乗り出している。4月1日の開始以降、5月末までの2カ月で1次対応(窓口相談)は1,000件を超えた。これが「倒産の抑制に相当効いている」(倒産法に詳しい弁護士)との見方もある。
 大手企業の審査担当者は、「4月、5月に(取引先の)倒産はほとんどなかったが、リスケ要請は大幅に増えた。こうした状況では見守るしかない」と胸の内を明かす。
 別の審査関係者は、「下手に期限の利益喪失を振りかざして破産されるより、融資や助成の中から支払ってもらった方がいいと思っているところもあるはず」と本音を明かす。

「止血なき輸血」の行方

 5月25日に緊急事態宣言は解除されたが、「新しい生活様式」でコロナ前の売上・利益率をあげることは難しい。中小企業では財務余力が乏しく、環境変化に向けた多額の投資には動けない。ある中小企業の幹部は、「コロナ禍が過ぎるのをじっと待つしかない」(印刷業、九州地区)と漏らす。アフターコロナに対応できない企業への資金繰り支援は、究極の「止血なき輸血」で新たなゾンビ企業の再発にもなりかねない。
 緊急事態宣言の解除に伴い、法的手続きが正常化すると、倒産が再び増加に向かうことは必至だ。
 史上最大の資金繰り支援が、倒産を抑制している側面もあるが、支援とセットの「再建」計画をどう策定し、実行するのか。
 事業再生の現場からは、「この状況で計画を作っても蓋然性が担保できない」との声も漏れてくる。リスクを過大評価した場合、「過剰支援」になり、過小評価は「二次破たん」に繋がることも懸念される。
 コロナ禍は、リーマン・ショック後の「中小企業金融円滑化法」が残した課題を、再び突きつけるのだろうか。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年6月10日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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