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業歴320年を誇る山形の老舗百貨店、「大沼」が破産、地域支援も実らず

 元禄13(1700)年創業。業歴320年の山形の老舗百貨店、「大沼」が紆余曲折の末に破産を申請した。高度経済成長期は「大沼」の包装紙、紙バッグがステータスで、ピーク時の1993年2月期の売上高は196億6,219万円をあげる有力企業だった。
 地元で絶対的な地盤を築いた「大沼」だったが、人口減少や建物老朽化への対策に遅れをとった。また、インターネット通販の浸透に加え、交通アクセスの向上で地元顧客が東北の中心地・仙台に流出。さらに、郊外型大型店舗との競争で劣勢となり、業績は悪化をたどった。
 人員削減などのリストラに着手しても抜本的な改善策を打てず、2014年2月期の売上高はついに100億円を下回った。2015年2月期以降は赤字が常態化し、経営は危機的状況に陥った。

 地域一番店を守るため、地元財界は金融機関主導で「大沼」救済に動いた。金融債務カットを柱に、事業再生を手がける投資会社のマイルストーンターンアラウンドマネジメント(株)(TSR企業コード:296291099、東京都、以下MTM)が支援に名乗りを上げ、2018年4月に傘下入りした。
 だが、MTM主導の再生は計画通りに進まなかった。MTMと「大沼」との信頼関係が構築できず、相互に不信感が膨らんだ。そして、MTMが「大沼」救済に出資した資金のMTMへの還流が問題視され、経営は右往左往し再び危機に陥った。
 2019年3月、MTMに融資債権を保有していた金融会社が返済期限の到来で、担保に差し入れていた「大沼」の株式を取得。その株式を「大沼」の執行役員らが出資する大沼投資組合(株)(TSR企業コード:034250743、山形県)が譲渡を受けて大株主となった。こうして「大沼」は臨時株主総会を開催し、MTM代表で「大沼」の代表取締役を兼任していた早瀨恵三社長らを解任し、経営権は名実ともに大沼投資組合に移った。
 新たな経営陣は2019年8月の米沢店閉店など再建を進めたが、老朽化した「大沼」に顧客は戻らず、業績不振から現預金の流出が続いた。経営悪化が表面化した2019年2月、地元では(株)エム・エル・シー(TSR企業コード:294998926、山形県)の代表者などが「大沼」を支援し、山形市長らも「大沼で買い物しよう」と呼びかけたものの、魅力の乏しい百貨店への消費者の反応は厳しかった。
 経営危機が進む中、2019年10月に「大沼」本店の不動産の所有権がエム・エル・シーに移転し、次第に支援者と経営陣、従業員の信頼も崩れ始めた。

 1月20日頃から、大沼が重大局面入りするとの情報が東京商工リサーチ(TSR)情報部と山形支店にもたらされるようになる。
 1月26日。正月気分も抜け切らぬ日曜日。関係者への取材で、「(26日に)取締役会を開催し、破産申請を決めた。従業員は夕方に解雇を通知した」ことがわかった。
 午後7時。閉店後の「大沼」本店に噂を聞きつけた取引先が集まり始め、物々しい雰囲気が漂った。TSRの担当者が、店舗から出てくる従業員に取材を申し込むと、厳しい表情で口を開かない。本店内から出てきた取引先は、会社側から「破産(を申請し)で、従業員は全員解雇すると説明を受けた」と話し、納入した生鮮品は搬出を許可されたという。
 1月27日午前8時30分。「大沼」は山形地裁に破産を申請し、320年の歴史を閉じた。同時に(株)大沼友の会(TSR企業コード:014613190、同所)も破産を申請した。MTMの早瀨社長は、TSRの取材に応じ「大沼は破産したが、七日町全体が活性化するきっかけになれば」とコメントした。
 各地で百貨店の苦戦が聞かれ、大手百貨店の店舗閉鎖も続く。急激な環境変化に対応できない百貨店に、もう安住の商圏はない。「大沼」の破産で、山形県は全国初の百貨店協会会員がゼロになった。徳島県も今年8月、「そごう徳島店」が閉店を予定しており、百貨店がゼロになる。
 全国主要都市で地域一番店を誇った百貨店だが、生き残りすら難しい冬の時代に入ったことを象徴する倒産となった。

山形の大沼(1月26日、TSR撮影)

‌山形の大沼(1月26日、TSR撮影)


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2020年1月28日号掲載予定「SPOT情報」を再編集)

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