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会社の「終わり」を見た“はなし”

 かつて勤めていたスタートアップ企業の経営環境は日増しに悪化していた。私が退職する数カ月前には、実質的な休業状態となった。資金調達に失敗したからだ。かつての出資者による毎月の入金が停止してから休業に至るまでの半年間、社内の環境は大きく変わっていった。
 それまで事務所内で社員と一緒に働くことが多かった社長は、日中あまり姿を見せなくなった。かわりに、共有スケジュール(スケジューラー)の社長の欄にはさまざまな金融機関の名前が並ぶようになった。1日に2行以上の金融機関とのアポが入り、会社を留守にすることも増えた。夜は連日、「金策を兼ねた」同業者や投資家との飲み会が入る。飲み会終了後も深酒する社長の出社時間は、直行・立ち寄りなどアポのない日でもだんだん遅くなっていった。
 日頃、倒産や企業情報の取材で代表者と連絡が取り難いという話を聞くと、金策に駆けずり回って留守がちだった社長の姿をふと思い出す。

 ちなみに、前の会社は社長の努力の甲斐もなく、結局は追加資金を調達できなかった。営業活動で利益を生み出せず、資金供給のないまま営業を続け、手元の現金は日ごとに減少した。次第に柱にしていた事業にも影響が出るようになった。予算は削られ、取引先への発注量が減った。外部への発注量が減っても、業務量は変わらないので、足りない分は社内の人員の手で補うことになる。社員の就業時間はどんどん長くなった。会社の財務状況が苦しくなればなるほど、かえって社員は忙しくなる。そんな不思議な状態だった。
 今している業務すら無駄になるかもしれない。会社の存続が危うい状況では、モチベーションを保ったまま、仕事に向き合い続けるのは難しい。起業時からの社員も順に退社していった。人が減れば減るほど残る社員にかかる負担は増え、皮肉なことに会社の休業直前が入社以降で最も忙しかった。まさに「百貨店が一番儲かるのは閉店セール」というフレーズが頭をよぎる。

 その後、残務を片付けて会社が休業に入るのを見届け、退職を選んだ。
 倒産を取材すると、その会社の社員と話す機会もある。慌ただしく残務処理に奔走する姿をみていると、休業直前の頃の、会社の業績に繋がらない空虚さと忙しい日々が蘇る。同じ「忙しい」なら、意味のある忙しさが良い。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年12月13日号掲載予定「社長が事業をやめる時」を再編集)

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