• TSRデータインサイト

Xアイコン
facebookアイコン

会社の「終わり」を見た“はなし”

 かつて勤めていたスタートアップ企業の経営環境は日増しに悪化していた。私が退職する数カ月前には、実質的な休業状態となった。資金調達に失敗したからだ。かつての出資者による毎月の入金が停止してから休業に至るまでの半年間、社内の環境は大きく変わっていった。
 それまで事務所内で社員と一緒に働くことが多かった社長は、日中あまり姿を見せなくなった。かわりに、共有スケジュール(スケジューラー)の社長の欄にはさまざまな金融機関の名前が並ぶようになった。1日に2行以上の金融機関とのアポが入り、会社を留守にすることも増えた。夜は連日、「金策を兼ねた」同業者や投資家との飲み会が入る。飲み会終了後も深酒する社長の出社時間は、直行・立ち寄りなどアポのない日でもだんだん遅くなっていった。
 日頃、倒産や企業情報の取材で代表者と連絡が取り難いという話を聞くと、金策に駆けずり回って留守がちだった社長の姿をふと思い出す。

 ちなみに、前の会社は社長の努力の甲斐もなく、結局は追加資金を調達できなかった。営業活動で利益を生み出せず、資金供給のないまま営業を続け、手元の現金は日ごとに減少した。次第に柱にしていた事業にも影響が出るようになった。予算は削られ、取引先への発注量が減った。外部への発注量が減っても、業務量は変わらないので、足りない分は社内の人員の手で補うことになる。社員の就業時間はどんどん長くなった。会社の財務状況が苦しくなればなるほど、かえって社員は忙しくなる。そんな不思議な状態だった。
 今している業務すら無駄になるかもしれない。会社の存続が危うい状況では、モチベーションを保ったまま、仕事に向き合い続けるのは難しい。起業時からの社員も順に退社していった。人が減れば減るほど残る社員にかかる負担は増え、皮肉なことに会社の休業直前が入社以降で最も忙しかった。まさに「百貨店が一番儲かるのは閉店セール」というフレーズが頭をよぎる。

 その後、残務を片付けて会社が休業に入るのを見届け、退職を選んだ。
 倒産を取材すると、その会社の社員と話す機会もある。慌ただしく残務処理に奔走する姿をみていると、休業直前の頃の、会社の業績に繋がらない空虚さと忙しい日々が蘇る。同じ「忙しい」なら、意味のある忙しさが良い。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年12月13日号掲載予定「社長が事業をやめる時」を再編集)

Xアイコン
facebookアイコン

人気記事ランキング

ランキング1位
  • TSRデータインサイト

「鳶工事業」が苦境、倒産が過去最多ペース ~ 16年ぶり100件超、職人不足とコスト対応がネック ~

「建設現場の花形」と言われる鳶職人の世界に逆風が吹く。足場から鉄骨、支柱工事など建設現場で欠かせないが、倒産が過去最多ペースだ。有効求人倍率は7.94倍と深刻な人材難の鳶業界にあって採用難と高い技能、経験が若者の育成に足かせになっている。鳶工事業の倒産を分析した

2

  • TSRデータインサイト

「渋谷区」が倒産最多、2年連続も視野 ~ 倒産企業の半数が業歴10年超、新設法人は伸び鈍化 ~

街の主役は若者から大人へ。再開発で変貌を遂げる「シブヤ」に異変が生じている。 渋谷区に本社を構える企業倒産(1-8月)は、全国の市区郡別で最多の123件に達した。昨年(2025年1-12月)は161件で2007年以来、18年ぶり全国ワーストだった

3

  • TSRデータインサイト

2025年度の書店の利益、前年度の4.6倍に拡大 黒字企業が7割も、「増収増益」は13.4%

「本離れ」が言われて久しいが、書店経営が回復に転じた。全国の主な書店304社の2025年度の売上高合計は、6,121億4,000万円(前年度比1.6%増)、利益合計は40億2,600万円(同365.4%増)で、売上高は微増だったが、利益は前年度の4.6倍に急回復した。

4

  • TSRデータインサイト

翻訳業が苦境、利益は3年で7割減 ~ AIと競合で破産したケースも ~

AIが翻訳業界にドラスティックな変化を迫っている。日進月歩で精度が向上するなか、言語間の壁が低くなっている。この余波が翻訳業界に広がり、業績は3期連続で減収減益に追い込まれた。

5

  • TSRデータインサイト

「畳製造業」 伝統産業に忍び寄る市場変化と後継問題 売上は3年連続で低迷、業歴100年超の老舗が2割超

9月24日は「畳の日」。全国畳産業振興会が4月29日と9月24日の年2回定めている。日本の住文化の伝統を引き継ぐ畳のすばらしさをアピールすることが目的だが、畳製造業が長期低迷に陥っている。 全国の主な「畳製造業」256社の2025年度の売上高合計は402億7,700万円(前年度比1.3%減)だった

TOPへ