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信用金庫258金庫 2019年3月期決算「総資金利ざや」調査

 全国の信用金庫、258金庫の2019年3月期決算の「総資金利ざや(中央値)」は0.09%で、前年同期(0.09%)と同水準だった。運用収益力を示す「資金運用利回り(中央値)」は1.10%(前年同期1.12%)で、前年同期を0.02ポイント下回った。「資金調達原価率(中央値)」が1.00%(同1.04%)と前年同期より0.04ポイント低下したことで、総資金利ざやは前年同期と同水準を維持した。なお、銀行111行の2019年3月期の「総資金利ざや(中央値)」は0.14%(同0.15%)で、信用金庫より0.05ポイント高かった。
「資金調達」が「資金運用」を上回る、いわゆる「逆ざや」は、24金庫(前年同期38金庫)で、14金庫減少した。このうち、2年連続で「逆ざや」になった信用金庫は20金庫(構成比83.3%)で、8割を超えた。2019年3月期に「逆ざや」に転落したのは4金庫、前年同期の「逆ざや」から2019年3月期に「逆ざや」を脱却したのは18金庫だった。
「総資金利ざや」は、資金の運用利回りと調達利回りとの差を示す。日本銀行が2016年2月にマイナス金利を導入以降、金融機関の低金利競争は厳しさを増し、貸出利回りは低調に推移している。このため、信用金庫のなかには他の金融機関との過度な金利競争と一線を画して、貸出先リスクに応じた金利設定の動きも出始めている。当面、貸出金利の大幅アップが見込めないだけに、金利収入以外での新たな収益源の確保が急務になっている。

  • 本調査は信用金庫259金庫のうち、非公開の1金庫を除く258金庫の2019年3月期決算の「総資金利ざや」を調査。
  • 「総資金利ざや」とは、「資金運用利回り」-「資金調達原価率」で算出した。
  • 2017年3月期以前は主要152金庫の数値を参考までに記載。

「総資金利ざや」の中央値は前年同期と同水準の0.09%

 258金庫の2019年3月期の「総資金利ざや(中央値)」は、前年同期と同水準の0.09%だった。258金庫のうち、「総資金利ざや」が前年同期を下回ったのは91金庫(構成比35.2%)。一方、上昇は140金庫(同54.2%)、同水準は27金庫だった。
「総資金利ざや」が前年同期より上昇した信用金庫が半数以上を占め、金融機関を席巻した低金利競争に一定の歯止めが掛かってきたようにみえる。しかし、上昇した140金庫のうち、約6割の82金庫(同58.5%)は貸出金などでの運用収益を表す「資金運用利回り」が前年同期を下回っており、依然として資金運用の厳しさが続く状況に変わりはない。

3月期 総資金利ざや 中央値推移

「総資金利ざや」トップは大阪厚生信用金庫の0.90%

 258金庫の2019年3月期の「総資金利ざや」の分布状況は、「0.0%以上0.1%未満」が110金庫(構成比42.6%)で最も多かった。以下、「0.1%以上0.2%未満」が67金庫(同25.9%)、「0.2%以上0.3%未満」が32金庫(同12.4%)、「0.0%未満(逆ざや)」が24金庫、「0.3%以上0.4%未満」が13金庫の順。
「1.0%以上」は前年同期が新庄信用金庫(山形県、1.06→0.43%)だけだったが、2019年3月期はゼロとなった。
「総資金利ざや」の最高は、大阪厚生信用金庫(大阪府)の0.90%。前年同期(0.89%)より0.01ポイント上昇。次いで、西武信用金庫(東京都)の0.61%(前年同期0.55%)、高知信用金庫(高知県)の0.52%(同0.43%)、観音寺信用金庫(香川県)の0.50%(同0.53%)、長浜信用金庫(滋賀県)の0.48%(同0.57%)の順。

「逆ざや」は24金庫、前年同期より3割減

 258金庫の2019年3月期の「総資金利ざや」がマイナスになった「逆ざや」は24金庫(構成比9.3%)だった。前年同期の38金庫から14金庫(前年同期比36.8%減)減少した。
「逆ざや」の24金庫のうち、2年連続は20金庫(同83.3%)で8割を超えた。このうち、8金庫は「逆ざや」が拡大、同水準は3金庫だった。競争力に課題を残す一部の信用金庫は、厳しい資金運用からなかなか脱却できない実態が浮き彫りになった。縮小したのは9金庫。
前年同期は「逆ざや」ではなかったが、2019年3月期に「逆ざや」へ転落したのは4金庫。一方、前年同期は「逆ざや」だったが、2019年3月期は「逆ざや」から抜け出したのは18金庫。

7割の信用金庫で「資金運用利回り」が低下

 258金庫の2019年3月期の「資金運用利回り(中央値)」は1.10%で、前年同期(1.12%)より0.02ポイント低下した。
258金庫のうち、「資金運用利回り」の上昇は47金庫(構成比18.2%)にとどまり、2割に満たなかった。一方、低下は190金庫(同73.6%)で7割を占めた。同水準は21金庫だった。
「資金運用利回り」の分布状況は、最多は「0.9%以上1.0%未満」の53金庫(同20.5%)。次いで、「1.0%以上1.1%未満」の52金庫(同20.1%)、「1.1%以上1.2%未満」の51金庫(同19.7%)、「1.2%以上1.3%未満」の26金庫、「1.3%以上1.4%未満」の20金庫と続く。
「1.0%以上」が184金庫(前年同期202金庫)に減少する一方、「1.0%未満」は74金庫(同56金庫)へ増加し、信用金庫の資金運用の深刻さを物語っている。

 信用金庫258金庫の2019年3月期の「総資金利ざや(中央値)」は、前年同期と同水準の0.09%で大きな動きはなかった。ただ、貸出金や余裕資金など運用収益力を表す「資金運用利回り」は190金庫が前年同期を下回り、マイナス金利で本業の収益環境の苦戦が続いている。
営業地域が限定される信用金庫は、地元の中小・零細企業と密接な関係を築いている。「資金運用利回り」は低迷するが、細かい顧客ニーズへの対応や小回りの利いた営業を活かし、3地区で銀行を上回る利回りを確保した。地域により金融競争の状況は異なるが、顧客満足度を高めながら、一方で新たな収益源のビジネスモデルを見出すことが急がれる。

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