• TSRデータインサイト

「おでんも恵方巻きもやらない。それがセコマの矜持」「セコマ」丸谷智保社長 独占インタビュー(中)

-できたてのメニューを店頭で販売する“ホットシェフ”は丼メニューの他にポテトやおにぎりも作る。運用は?

 コスト軽減がポイントだ。いくら人件費をかけて、何食作れば利益が出るのかと考える。そのために何キロお米を炊くと、おにぎりが何個、かつ丼が何個作れ、それを何時間で処理すれば、人件費+αの儲けを出すことができるのか、自ずと決まる。店舗ごとに製造計画を先に練り、その計画通りに作る。実践のためのトレーニングも行う。人の生産クオリティを極大化していく。

-設備面では?

 マニュアル策定のほか、調理器具(スチームコンベクションオーブン、ロータリーシェフ、フライヤーなど)を揃える。この初期投資を我々がやる。機械を購入し、店舗にはレンタルして長期で回収する形だ。飲食店の厨房並みの設備を揃える。スチームオーブンは、(1店舗)平均で2台導入する。このオーブンはプロの調理人も使うもので、なんでも調理できる。

-作業スピードが人によって違うのでは?

 作業の早い人は通常の2倍作る。この早い人の生産効率が高い。例えば、ホットシェフだけで1日30万円売り上げる店があったら、その作業の早い人が、かつ丼ばかり作る。逆に1日5万円規模の店は、1人がかつ丼、豚丼、親子丼も作る。そこで、丼なら何杯、おにぎりなら何個、フライドチキンなら何個作るかを決めて収益が出る構成にする。作る人の生産性の上昇と効率アップ、これを我々がマネージする。現在、約920店舗でホットシェフを展開しているが、これだけの店舗数をマネージできているのは、飲食でもなかなかないだろう。

-作業に手間がかかりそうだが、ホットシェフは加盟店にとって魅力的なコンテンツか?

 1つには、ホットシェフそのもので儲かる。もう1点、ホットシェフはセイコーマートの特徴であるため、導入する加盟店は多い。ホットシェフを食べようと思ったら、セイコーマートに行かなくてはならない。他店を越えてわざわざ足を運ぶ必要がある。また、8割の人はホットシェフと一緒に飲料水も買う。つまり、客を呼び込むカテゴリーでもある。その意味でも他社と差別できる“特徴商品”だ。

-他にも特徴商品はあるか?

 惣菜類、豊富牛乳、ワインも「安くておいしいから買いに行こう」と大変好評いただいている。ワインは年間400万本を販売する。1店舗当たり競合他社のおよそ10倍以上だ。カテゴリーとして、わざわざ足を運んで買おうと思っていただける“集客力の強い商品”をいくつ持てるかが肝になる。
 買う側にとってコンビニは、基本、どこでもいい。気が付いたらローソンやセブン-イレブンにいた、ということもあるだろう。基本、自宅から一番近いところによく行くはずだ。
 でも、セイコーマートに関しては、多くの人が「ちょっとセコマ行ってくる」となる。「コンビニに行く」ではない。「ホットシェフの豚丼を買いに行く」となる。だから、特徴のある商品をどれだけ持てるかということ。
 そういう強みがないと、今頃どこか大手の傘下に入っていたかもしれない。北海道で一番として君臨しているのは、“大手にないところ”、“大手でやらないこと”をやっているから。大手のやることはやらない。

おにぎりや丼商品が並ぶホットシェフ売場(セコマ提供)

‌おにぎりや丼商品が並ぶホットシェフ売場(セコマ提供)

-“やらないこと”の具体例は?

 例えば、おでんはやらない。おでんは特徴商品にならない。「どうしてやらないの?」とお客様から言われることがある。だが、極論を言えばおでんをやったら、よそと“同じコンビニ”になってしまう。それが我々の矜持。だから、恵方巻きもやらない。商品部からは「2月だから恵方巻きやろう」と言われる。だが、恵方巻きはだめだが、太巻きならいい」と返す。人気のある中華まんすら、全店には置いていない。それぐらいの矜持を持ってやる、ということ。

-昨年秋に電子マネー「ペコマ」を導入した

 ペコマは自分で入金・チャージした範囲でしか使えない。もちろんアプリ化はしているが、基本的には現金からチャージする。5万円が上限だ。利便性が高い割にリスクは最小限に抑えられている。セキュリティ上、会員情報と「ペコマ」は別のサーバーで管理している。侵入しようしてもセキュリティが別々なので、安全性が確保できる。非現金決済が増えることは歓迎だ。つり銭のやり取りがないのは大きい。

-セキュリティ問題で、セブンペイの廃止が話題になった

 問題なのは、セキュリティが十分ではないうちに、クレジットカードからチャージできるようにした。侵入されると、個人データはもとよりパスワードを解明された場合、クレジットも紐付いており登録したカードからお金を引き出せてしまう。外には銀行系の決済も他のキャリア系もある。各キャリアをうまく活用し、そこのセキュリティも使う。すべて自分のところでやろうとすると失敗する可能性も高くなるのではないか。我々は10社程度のキャリアを使えるようにしている。

-それほどクレジットカードからのチャージはリスクが大きい

 基本的に、金融系も充実しているのに自前ですべてをやる必要がどこにあるのだろうかと思う。一方で、電子マネーは生産性が上がるので歓迎だ。キャッシュレスは、扱う現金が少なくなって大変ありがたい。お客様としても現金を使わないから、つり銭で煩わせることもなく、つり銭を受け渡す手間を軽減できる。計算すると、1人のお客様当たり40~50秒当たりのレジ作業短縮につながっている。これを我々の約1,200店に積み上げると、結構な時間のセーブになっている。
 「ペコマ」は男女とも意外と50代、60代の利用が多い。この50~60代の人たちがあと5年したら60代、70代になる。継続して使ってもらえることを踏まえると、利用者層は今後広がっていくだろう。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年10月23日号掲載「Weekly Topics」を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「社長の出身大学」 日本大学が15年連続トップ 40歳未満の若手社長は、慶応義塾大学がトップ

2025年の社長の出身大学は、日本大学が1万9,587人で、15年連続トップを守った。しかし、2年連続で2万人を下回り、勢いに陰りが見え始めた。2位は慶応義塾大学、3位は早稲田大学と続き、上位15校まで前年と順位の変動はなかった。

2

  • TSRデータインサイト

内装工事業の倒産増加 ~ 小口の元請、規制強化で伸びる工期 ~

内装工事業の倒産が増加している。業界動向を東京商工リサーチの企業データ分析すると、コロナ禍で落ち込んだ業績(売上高、最終利益)は復調している。だが、好調な受注とは裏腹に、小・零細規模を中心に倒産が増加。今年は2013年以来の水準になる見込みだ。

3

  • TSRデータインサイト

文房具メーカー業績好調、止まらない進化と海外ファン増加 ~ デジタル時代でも高品質の文房具に熱視線 ~

東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースによると、文房具メーカー150社の2024年度 の売上高は6,858億2,300万円、最終利益は640億7,000万円と増収増益だった。18年度以降で、売上高、利益とも最高を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

ゴルフ練習場の倒産が過去最多 ~ 「屋外打ちっぱなし」と「インドア」の熾烈な競争 ~

東京商工リサーチは屋外、インドア含めたゴルフ練習場を主に運営する企業の倒産(負債1,000万円以上)を集計した。コロナ禍の2021年は1件、2022年はゼロで、2023年は1件、2024年は2件と落ち着いていた。 ところが、2025年に入り増勢に転じ、10月までの累計ですでに6件発生している。

5

  • TSRデータインサイト

解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~

各地で再開発が活発だが、解体工事を支える解体業者に深刻な問題が降りかかっている。 2025年1-10月の解体工事業の倒産は、同期間では過去20年間で最多の53件(前年同期比20.4%増)に達した。このペースで推移すると、20年間で年間最多だった2024年の59件を抜いて、過去最多を更新する勢いだ。

TOPへ