• TSRデータインサイト

2018年「一般社団法人」の新設法人調査

 2018年(1-12月)に設立された「一般社団法人」は5,982社(前年比6.3%減)で、2008年に調査を開始以来、初めて前年を割り込んだ。新設法人の法人格では、「株式会社」、「合同会社」に次いで3番目に多かった。相続税対策を意図した「一般社団法人」の設立も少なくなかったが、2018年度の税制改正で相続税などが見直され、メリットが薄まったことも影響したようだ。
 2008年12月、公益性が必須だった「社団法人」は、「一般社団法人および一般財団法人に関する法律」の施行で、公益性が必須ではなくなった。このため、任意団体などが法人化しやすくなり、「一般社団法人」の設立が増加していた。
 さらに、株主のいない「一般社団法人」の利便性を活用した相続税逃れともとれるスキームが横行した。株式などの出資がなく、個人資産を移した「一般社団法人」を設立することで、代表を変更だけで事実上、資産を継承することが可能だった。
 2018年度の税制改正により、同族の「一般社団法人」にも相続税などが課されることになった。相続税逃れとも受け取られかねないスキーム活用の「一般社団法人」の新設も、ブームの終焉を迎えたのかどうか、今後の展開が注目される。


  • 本調査は、東京商工リサーチ(TSR)の企業データベース(345万社)から、2018年(1-12月)に新しく設立された法人データから「一般社団法人」を抽出し、分析した。

一般社団法人 新設法人年間推移

前年比推移は年々下落

 2018年に全国で設立された法人のうち、「一般社団法人」は5,982社(前年比6.3%減)で前年から405社減少した。前年との比較では、2014年の17.2%増から増加率は毎年縮小し続け、2018年はマイナスに転じた。また、「一般社団法人」の構成比は4.65%で、2018年は前年比0.18ポイントダウン、2016年(構成比4.69%)の水準にとどまった。

主な法人格の前年比・構成比推移

産業別 7産業が減少

 「一般社団法人」の産業別では、2018年は10産業のうち、農・林・漁・鉱業と卸売業、小売業の3産業を除く7産業で減少した。
 社数は、サービス業他が4,772社(構成比79.7%)で圧倒的なトップ。次いで、情報通信業が429社(同7.1%)、金融・保険業が363社(同6.0%)、不動産業が202社(同3.3%)の順。
 増加率トップは、農・林・漁・鉱業が前年比48.6%増。下落率は建設業の同41.4%減が最大だった。

産業別 一般社団法人 新設法人

業種別 業界団体などの「他のサービス業」が最多

 業種別では、社会貢献や業界団体などを含む「他のサービス業」が2,288社(構成比38.2%)が最多だった。「学術研究,専門・技術サービス業」の1,395社(同23.3%)、医療,福祉事業の733社(同12.2%)など。
 「一般社団法人」は、各種団体や研究機関など「株式会社」とは違った特殊な活用がみられる。一方で、「金融,保険業」や「不動産業」など資産の管理会社に近い業種は、前年から大幅に減少。法改正が影響したとみられる。

都道府県別 新設法人数は東京が4割を占める

 都道府県別では、東京都の2,349社(前年比1.2%増、構成比39.2%)で最多だった。次いで、大阪府が462社(同11.5%減、同7.7%)、神奈川県が298社(同6.0%減、同4.9%)と続く。
 増加率では、和歌山県が43社で前年比48.3%増でトップ。島根県の前年比42.9%増、福井県の38.1%増の順。
 減少は、青森県が15社で前年比50.0%減でトップ。次いで、高知県の46.2%減、大分県の33.3%減だった。


 従来、「社団法人」は監督官庁の認定が必要で、公益性の高い事業と認識されていた。2008年12月の公益法人の法改正で、「一般社団法人」は公益性が必要でなくなり、誰でも、どのような事業でも、設立が可能になった。
 これに伴い、法人格のなかった任意団体や業界団体、研究機関などが「一般社団法人」を選択して法人数は着実に増加していた。
 さらに、「株式会社」のように株式や不動産を相続したり、贈与する時に課税される税金が、「一般社団法人」では代表の変更だけで事実上、資産を引き継ぐことが可能になった。こうした節税を意図した設立もあり、「一般社団法人」は右肩上がりで新設法人数が増えていた。
 だが、不公平な税制を是正するため、「一般社団法人」に同族役員が半数を超える場合などを規定し、2018年に相続税を課税する税制改正が施行された。この結果、任意団体などの法人化は相変わらず伸びているとみられるが、節税目的の設立は減少したようだ。
 このため、2018年度の「一般社団法人」の設立は、調査を開始以来、初めて前年を下回った。
 公益法人の制度改革で設立要件が緩和された「一般社団法人」の意義に反し、想定外の活用で新設法人数が伸びた側面もあるようだ。ただ、今後も公益性のイメージを悪用した動きにも目が離せない。「一般社団法人」の健全な活用と、認知度の上昇がこれからの課題になっている。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

建材販売業の倒産 コロナ禍の2倍のハイペース コスト増や在庫の高値掴みで小規模企業に集中

木材や鉄鋼製品などの建材販売業の倒産が、ジワリと増えてきた。2025年1-7月の倒産は93件で、前年同期(75件)から2割(24.0%)増加した。2年連続の増加で、コロナ禍の資金繰り支援策で倒産が抑制された2021-2023年同期に比べると約2倍のハイペースをたどっている。

2

  • TSRデータインサイト

「転勤」で従業員退職、大企業の38.0%が経験 柔軟な転勤制度の導入 全企業の約1割止まり

異動や出向などに伴う「転勤」を理由にした退職を、直近3年で企業の30.1%が経験していることがわかった。大企業では38.0%と異動範囲が全国に及ぶほど高くなっている。

3

  • TSRデータインサイト

女性初の地銀頭取、高知銀行・河合祐子頭取インタビュー ~「外国人材の活用」、「海外販路開拓支援」でアジア諸国との連携を強化~

ことし6月、高知銀行(本店・高知市)の新しい頭取に河合祐子氏が就任した。全国の地方銀行で女性の頭取就任は初めてで、大きな話題となった。 異色のキャリアを経て、高知銀行頭取に就任した河合頭取にインタビューした。

4

  • TSRデータインサイト

ダイヤモンドグループ、複数先への債務不履行~蔑ろにされた「地域イベントの想い」 ~

ライブやフェスティバルなどの企画やチケット販売を手掛けるダイヤモンドグループ(株)(TSRコード:298291827、東京都、以下ダイヤモンドG)の周辺が騒がしい。

5

  • TSRデータインサイト

2025年1-8月の「人手不足」倒産が237件 8月は“賃上げ疲れ“で、「人件費高騰」が2.7倍増

2025年8月の「人手不足」が一因の倒産は22件(前年同月比37.5%増)で、8月では初めて20件台に乗せた。1-8月累計は237件(前年同期比21.5%増)に達し、2024年(1-12月)の292件を上回り、年間で初めて300件台に乗せる勢いで推移している。

TOPへ