• TSRデータインサイト

米中貿易摩擦で懸念増す 中国系企業が抱える親会社の破綻リスク

 中国系企業やファンドによる日本企業の買収が増え、株主が中国系になった企業は多い。ところが、中国経済の冷え込みや米中貿易摩擦の余波で親会社が失速し、日本企業が影響を受ける事例が目立ってきた。
産業機械製造の(株)シノハラジャパン(TSR企業コード:432102698、静岡県島田市)は、中国のスポンサー企業の破綻で連鎖的に行き詰まり、6月11日破産開始決定を受けた。
同社は2011年1月に東京地裁に民事再生法の適用を申請した印刷機械製造の(株)シノハラ(TSR企業コード:430008910、静岡市葵区、負債総額96億円)の第二会社。民事再生手続きで中国資本の企業が事業を継承し、新会社として設立された。従業員も引き継いで事業を継続し、レーザダイカット機の開発・製造販売など事業を拡大していたが、親会社の中国企業が破産し連鎖倒産した。

 自動車部品などを生産する国内の老舗メーカーA社も、数年前に傘下入りした中国の企業グループの再生手続き入りで対応に追われている。
日本の民事再生法と同等とされる「破産重整申請」を提出したのは中国浙江省を拠点とする銀億集団有限公司(DUNS:530322163、寧波市)と寧波銀億控股有限公司(DUNS:421272561、同市)の2社。6月14日に寧波市中級裁判所に申請した。銀億グループは中国国内で不動産業を手がけるほか、海外の自動車部品メーカーを傘下に収めていた。
だが、中国不動産市場の低迷と、米中間の貿易摩擦を発端とした車載製品ビジネスの業況が悪化し、債務返済が困難になった。

A社は、自動車向けスイッチ部品の国内専業メーカー。アジアなど海外にも現地法人を展開し、2018年12月期の売上高は約67億円をあげていた。2016年に会社分割を実施し、新設された当社や海外現地法人を銀億グループが買収し、傘下に収めた。現在、社長と監査役以外の役員には、銀億グループ幹部が非常勤取締役として名を連ねている。だが、今回の事態にA社には金融機関や取引先などから問い合わせが相次ぎ、担当者は独自に事実関係を情報収集し、取引先などに説明したという。
A社の買収には銀億グループのほか、中国の銀行系ファンドなど他の資本も関わり、再生手続きを申請した2社の直接的な支配を受けているわけではない。「商取引もわずかで運転資金も国内の金融機関から調達し、直接的な影響はない」と話す。


◇ ◇ ◇

中国による「爆買い」対象は日本製品や不動産にとどまらず、その矛先は日本の「企業」まで及んでいる。マスコミを賑わせるのは国内大手メーカーや事業部門の売却など、大型M&Aが中心だ。だが、中堅以下の規模にも静かに中国資本の触手は伸びている。
日本国内に資金の出し手がないため、不振企業の「駆け込み寺」になっている。という事情も見え隠れするが、日本企業の技術力や営業基盤、何より「日本ブランド」に魅力を感じ、抱負な資金力を背景に中国企業の「日本買い」が席巻している。父娘の対立が表面化し、業績悪化が続く(株)大塚家具(TSR企業コード:291542085、江東区)も、中国企業が事実上のスポンサーとなった。今後は巨大な中国市場への進出を足がかりに業績回復を目指す。

もはや取引関係だけにとどまらず、密接な繋がりを持つ日本企業と中国経済。何といっても注目を集めるのは米中貿易摩擦の行方だ。燻(くすぶ)り続ける多様なリスクが、思わぬかたちで日本企業を巻き込む可能性が今後も高まっている。

破産した(株)シノハラジャパンの事業所(TSR撮影)

破産した(株)シノハラジャパンの事業所(TSR撮影)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

【破綻の構図】マツオインターナショナル~膨らんだ債務と抜本再生への移行~

婦人服ブランド「ヴィヴィアン タム」「慈雨(じう)」「t.b2」などを展開し、ピーク時には国内外で約400店を構えていたマツオインターナショナル(株)(TSRコード:292635265、以下マツオ)が12月11日、大阪地裁に会社更生法の適用を申請した。

2

  • TSRデータインサイト

交響楽団の収益悪化、来場者戻らずコスト上昇 ~ 綱渡りの自助経営、草の根のムーブメントへの期待 ~

交響楽団が存立の危機に立たされている。多くの交響楽団で収入が落ち込んでおり、赤字が目立つ。会場費や団員などの人件費、楽器の輸送コストなどが上昇のうえ、寄附金や補助金による収入は頭打ちで綱渡りの運営だ。東京商工リサーチは、3期連続で業績が比較できる20団体を調査した。

3

  • TSRデータインサイト

地場スーパー倒産 前年同期の1.5倍に大幅増 地域密着型も値上げやコスト上昇に勝てず

2025年1-11月の「地場スーパー」の倒産が22件(前年同期比46.6%増)と、前年同期の約1.5倍で、すでに前年の年間件数(18件)を超えた。

4

  • TSRデータインサイト

長渕剛さん側、イベント会社の破産申立に続き代表を刑事告訴 ~長渕さん「徹底追求」、イベント会社代表「横領でない」と反論~

歌手の長渕剛さんが代表を務める個人事務所の(株)オフィスレン(渋谷区)が、イベント運営を委託していたダイヤモンドグループ(株)(東京都中央区)の代表を業務上横領罪で刑事告訴したことがわかった。東京商工リサーチの取材で長渕さん側が明らかにした。

5

  • TSRデータインサイト

「ペット・ペット用品小売業」倒産が過去2番目の14件 実質賃金の低迷と物価高がペットの世界にも影響

2025年11月の「ペット・ペット用品小売」の倒産は、1件(前年同月ゼロ)にとどまったが、1-11月累計は14件(前年同期比27.2%増)に達した。

TOPへ