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「シニアのキャリア、セーフティネット確立が急務」パソナグループ南部代表 独占インタビュー(前編)

 人材サービスが改めて脚光を浴びている。人手不足を背景にした旺盛な人材ニーズに加え、労働契約法、派遣法の改正による有期社員の「無期転換ルール」が始まったことで、派遣労働者の派遣先への直接雇用が進み、紹介手数料の増加で各社は軒並み好業績の見通しだ。一方、派遣登録人材の確保に向けた競争は激しさを増している。
 東京商工リサーチ(TSR)は、シニア雇用や外国籍人材定着支援サービスなど、積極的な取り組みを打ち出す人材サービス大手の(株)パソナグループ(TSR企業コード:297229699、東証1部)の南部靖之・代表取締役に、景況感や業界の課題、今後の展望を聞いた。

-最近の景況感は?
 全体の景気は良いという印象だ。当社の業績は伸びており、非常に好調だ。色々な事業計画もある。求人の数は増えているが、ただ求職者の数が足りない。需給ミスマッチがある状況だ。

-五輪後の景気と雇用は?
 五輪後というよりも、今年9月から景気が下降するという声も聞かれる。今は堅調な中国からの旅行者数も今秋以降は不透明だ。日本国内でも中国向けの商品、サービスを手がける企業も多く、ここに世界不況が重なると大変な事態になるだろう。現地のサプライチェーンで上流工程を担っている日本企業はすぐに引き上げることもできない。米中間の貿易問題も今後、状況によっては影響がさらに広がるだろう。

-雇用に関しては?
 少子化の影響が出てくる。例えば予備校が廃校を推し進め、規模を縮小している。それだけ少子化が進んでいるということだ。人手不足は今後も進み、それを原因とした不況が起きるかもしれない。労働力不足は、待ったなしの問題。しかし、将来的にひとたび不況になれば、人が余ってくるかもしれない。

-シニアの再雇用を促す「エルダーシャイン制度」を2019年4月にスタートした
 「エルダーシャイン制度」は、定年を迎えたシニア層をパソナのグループ各社で契約社員として雇用する。契約は1年ごと。昨今、定年延長はよくあるが、「エルダーシャイン制度」は、これまで手がけてきた分野とまったく違う分野に挑戦するような再就職の取り組みだ。珍しい事例とあり、メディアでもシニアの再就職がフォーカスされる機会になった。

-シニア向けに注力した背景は?
 定年自体なくそうというのが私の考え。米国のように“定年のない社会”をつくるべきだ。必ずしも社会全体が「60歳、65歳以上だからゆっくり生活する」ことを望んでいるわけではないと思う。65歳以上でも働きたい人もいる。望めば、70、75、80歳が働ける場を創ることも必要と思っている。昨今、企業で「若返り」が叫ばれる風潮もあるが、意識を変えないといけない。色々な経験を積んだ人材がいてこそ、会社が成り立つという考え方を大切にしてほしい。
 例えば、お茶の「三煎」という飲み方。1煎目はぬるま湯でお茶の甘味を味わう。2煎目はタンニンの渋みを味わう。3煎目はカフェインの苦味を味わう。会社での働き方も同様だ。20代は突っ走って「イケイケどんどん」。40、50代は「渋みがあり判断力のある経験者」。そして、苦味も知る60代以上。彼らは年齢を重ねたからこそ前向きに引っ張って行ってくれる世代だ。若者、中堅、ベテランのバランスを取って連携しないと企業も回らない。

エルダーシャイン入社式で熱弁をふるう南部代表 (パソナグループ提供)

エルダーシャイン入社式で熱弁をふるう南部代表 (パソナグループ提供)


-代表自身が「エルダーシャイン制度」志望者と意見交換の場を持った
 「エルダーシャイン制度」のエントリーを見てまず驚いたのは、キャリアチェンジをしたい人が多くいたこと。財務、経理をやっていた人、金融機関で営業をやっていた人が、農業を選択したり、バーテンダーをやりたいという人もいた。大学教授や副市長など、多彩な経歴を持つ人がエントリーしてくれた。
 彼らの多くから「社会参加したい」という声を聞いた。「お金が欲しい」、「年金では食べていけない」という理由が大半かと思っていたが、「社会とのつながり」を望んでいた。つながりを求める声は想像以上で、これはキャリアチェンジしたい人が多いという現れかもしれない。「エルダーシャイン制度」には全国から1,000人以上の問合せがあった。

-雇用形態については?
 正社員にこだわる方はほとんどいなかった。あくまで目的は「社会とつながっていたい」ということ。後は、正社員ほどあくせく働きたくないという思いもあるだろう。正社員になったら、若い人と同じペースで働かなくてはならない。体力的な面もあるだろうし、自分なりのライフスタイルに合わせ「働きたいように働きたい」と思う人も少なくない。

-シニア世代のキャリアチェンジは今後、広がっていく?
 現状で大きな壁が2つあり、キャリアチェンジできる人は限定的だろう。1つは政府のセーフティネットが確立していないこと。65歳以上からの失業手当や年金に代わる保険などのセーフティネットが不足している。
 もう1つは民間企業での人材育成の問題だ。会社ごとに育成の方針も異なり、キャリアチェンジを困難にしている。「日本株式会社 人事部」という共通の枠組みで、人材教育も考えていかないとならない。

-具体的には?
 例えば、経理といってもメーカー、商社、サービス業では業務の中身が全然違う。企業の求めるニーズも違えば、キャリア形成における希望者のニーズも異なる。双方のニーズをマッチングしなければならない。営業でも大企業で身につけたスキルが中小企業でまったく生かすことができない場合だってある。基準や何かしらの査定方法はあるべきだろう。スキルの基準を示せる“労働市場”を民間レベルで作ることは、雇用問題の解消への近道となる。決して人材紹介を拡充するだけではなく、ミスマッチをなくすための企業の枠組みを超えたシステムが必要だ。


(次号へ続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年6月4日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

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