• TSRデータインサイト

金融庁、西武信金に業務改善命令 審査や管理態勢の不備が明らかに

 5月24日、金融庁は西武信用金庫(TSR企業コード:299013413)に対し、業務改善命令を出した。昨年11月から今年4月の立ち入り検査などで、西武信金が業績を優先し管理態勢を怠っていたことや、反社会的勢力との関係が疑われる企業と個人への融資などが判明した。
 金融庁は同日の会見で、「西武信金の職員が(業者による)融資審査の書類の偽造を看過したことや、監事(監査)から反社会的勢力等の関係を指摘されたが十分に確認しなかった」ことなどを処分理由にあげた。
 金融庁が公表した西武信金に対する業務改善命令は、1)責任の所在の明確化、2)信用リスク管理態勢の強化、2)反社会的勢力等の排除に向けた管理態勢の抜本的な見直しの3点。改善計画を6月28日までに提出を求めた。行政処分を受け西武信金は、落合寛司理事長ら代表理事2名と常勤理事1名が辞任したことを発表した。


偽造された融資資料を見過ごす
 金融庁は、投資用不動産向けの融資に当たり、「融資資料の偽装や改ざんの疑いのあったのは127件。実際に偽装や改ざんがあったのは73件。偽造に(西武信金の)職員が関与した事実は認められない」と説明した。
 投資目的の賃貸用不動産向け融資では、耐用年数を検証する外部専門家に対して「職員が耐用年数などの調整を指示したのは258件だった。単純計算で全体の1割程度」(金融庁)と高い割合で不動産鑑定士などに耐用年数などの調整を指示していた。

反社会的勢力等と取引の疑い
 反社会的勢力等の取引排除に向けた管理態勢について、金融庁は「反社会的勢力の取引排除などの担当は1人」と述べ、組織的な対応が不十分だったとの見解を示した。
  また、「一部支店長が準暴力団の幹部といわれる親族と取引があったが、反社会的勢力等の管理区分が限定的に運用されていた」と指摘。さらに、監事から反社会的勢力等の関係が疑われるなどの情報提供を受けたが、落合理事長は調査の要請を拒否するなど、内部統制が機能していなかった。
 金融庁は、西武信金だけでなく各金融機関に「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」への適合状況の確認、検査を進めている。国際的にFATF(金融活動作業部会Financial Action Task Force)の勧告の中心的な項目で、管理態勢の強化が一段と求められている。


 西武信金は責任の所在の明確化として、落合理事長らの辞任を公表。また、業務改善委員会の設置など内部統制の強化、審査担当人員の増加などリスク管理態勢の強化、反社会的勢力等の管理区分の細分化などの対策も合わせて公表した。
 西武信金は、今年3月末時点で全取引先を調査し、「暴力団排除条項」に該当する勢力の融資がなかったという。ただ、監事から情報提供を受けた取引は、「(警察に確認したところ)暴力団員としての属性がないと回答を受けたため暴力団排除条項に該当しないと判断した」としている。


行政処分を受けた西武信金

行政処分を受けた西武信金

 TSR情報とは

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

私立大学の経営、売上トップは(学)順天堂 赤字企業率5割に迫る、損益は地域格差が鮮明に

私立大学を経営する全国の543法人のうち、約半数の253法人が2024年決算で赤字だった。赤字企業率は46.5%にのぼり、前期(40.8%)から5.7ポイント上昇し、5割に迫った。

2

  • TSRデータインサイト

企業倒産、破産の割合が9割超で過去最大 ~ 背景に「手形減少」と「準則型私的整理」 ~

企業倒産のうち、破産の構成比が90.3%に達し、過去最大を記録した。民事再生法はわずか2.2%にとどまる。破産は、売上不振や財務内容が悪化し、再建が見通せない企業が選択する。なぜ今、破産の構成比が高まっているのか――。

3

  • TSRデータインサイト

2025年上半期 20床以上の病院倒産が急増 「病院・クリニック」倒産21件、5年連続で前年同期を上回る

病床20床以上の病院の経営が厳しさを増している。2025年上半期(1-6月)の病院・クリニックの倒産は21件(前年同期比16.6%増)だった。上半期では、コロナ禍の2020年を底に、2021年から5年連続で前年同期を上回り、1989年以降で最多の2009年同期の26件に次ぐ、2番目となった。

4

  • TSRデータインサイト

リフォーム・塗装工事の倒産が急増 ~ 点検商法などのトラブル多発 ~

リフォーム・塗装工事の倒産が急増している。2025年上半期(1-6月)の倒産は119件に達し、過去20年で最多だったリーマン・ショック後の2009年同期の111件を上回った。

5

  • TSRデータインサイト

ホテル業界 止まらない客室単価の値上げ インバウンド需要で高稼働・高単価が続く

インバウンド(訪日旅行客)需要に支えられ、ホテル業界は好調が続いている。ホテル運営の上場13社(15ブランド)の2025年3月期の客室単価は、インバウンド需要の高い都心や地方都市を中心に前年同期を上回り、稼働率も前年同期並で高水準を維持している。

TOPへ