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「加速する企業の移転、生産性をあげようと動いている証」森トラスト、伊達美和子社長 独占インタビュー(前編)

 都心部のオフィス市場が好調だ。2019年2月の都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の空室率は1.78%(三鬼商事調べ)と、過去最低だ。大量供給が危惧された新規物件や既存物件も、順調にテナントが決まり、東京五輪やインバウンド効果を背景にしたホテル開発、商業施設なども活発に動いている。
 東京商工リサーチ(TSR)は、オフィスビルやホテル開発で攻勢を続ける総合デベロッパー、森トラスト(株)(TSR企業コード:291302319、東京都港区)の伊達美和子社長に不動産市況や業界の課題、自社の今後の展望を聞いた。

-首都圏のオフィス事業の近況は?
 2019年1月の都心部のオフィス空室率は1.78%で、過去最低と言えるほど低い。一方で、18~20年は大量に大規模な開発が計画され、順次竣工した。その中で供給過剰ではないかと言われていたが、19年までの段階で空室率は低く、19年竣工のものはほぼ埋まってきている。20年は我々のリーシングは非常に好調な状態で、他の20年の案件についても動きがそれなりにあるのではないかと思っている。そういう意味ではメディアが報じる通り、この瞬間は好調な状態だ。

-他方で今後を不安視する声も聞かれるが
 次に何が起きるかというと、企業の移転が起きる。企業がなぜ新しいビルに移転するか。分散していたものを集約するというニーズがあるからだ。この数年、そのニーズに対応できるオフィスビルが供給されたので積極的な移転が起きている。加速する企業の移転は、「追加投資をしてでも会社の環境を良くし、生産性をあげよう」と動いている証と言える。その移転タイミングとうまく合ったので、新規の需要が強い。ただし、移転後には、空き室ビルが出てくる。少し古かったり、大規模でなかったり、駅から少し離れている、といったビルが人気を落とすだろう。テナント移転が一段落したとき、空き室率が多少目立ってくる局面もあるだろう。ただ、過去のトレンドを見ても、建物を所有する側に体力があって、投資した物件の価値を高められることができれば、数年かけて必ず埋まっている。現状に関しては、どこも長引かず埋まっていくと感じている。

伊達社長 TSR撮影

伊達社長 TSR撮影

-二極化という側面は今後出てくるのか?
 新しいビルを供給している立場からすると、企業が求める“働きやすい環境”を作りやすいビルにしたい。プレートが大きい、クリエイティブな世界観を持っている、社員が「会社に行こう」と思える、といったオフィスが望まれる。さらに、何かユニークであるとか、そこにいることがクールであるとか、そうしたこともオフィス需要を喚起する欠かせない要素。その意味で、今のニーズにあった付加価値を提供するところは残る。そうでないところは残りにくい。テナントが抜けていったビルも、リノベーションして付加価値を上げれば良い。立地が悪ければ、さらに付加価値をどうつけるか、場合によっては“ホテル”や“住宅”への転換という考え方も。
 不動産としての価値はアイデア次第で継続されると思っている。ただし、投資が必要。時代に合わせた新規投資が求められる。投資をしないと良い商品でなくなり、需要は落ちていく。テナントが抜けることで、そのビルは投資が必要な状況になるが、投資が実行可能であるとその後も残る。投資する体力がないと土地が売られ、別に現れたプレーヤーがその土地を改良していく。人が集まる場所であれば、地域は変わっていく―という循環が起きる。東京都心は数年に1回大規模な投資がされるので、その都度移転が起き、どこかが空いて、またそこが変わっていく。東京はある種のエコシティで循環都市、稀有な街と思っている。

-一方で地方でのサイクルは?
 地方都市では、土地が限られているのでデベロッパーによる新たな投資が起きにくい。受け皿がないので移転も起きず、玉突きで次の移転も起きない流れに陥っている。今必要とされているスペックの新商品がないので賃料単価の上昇が起きない。賃料単価水準が一定以下の場所では、建築費も考えると新規投資は難しい。例えば、デベロッパーへのインセンティブなど、何らかの方法論を行政も含めて考えないといけない。いい建物があって適正なスペックのところに、適正な予算で入る企業が現れると、循環が起き全体が変わる構図になる。国の未来投資戦略のなかで、ホテル用地ができるための制度はできているが、オフィスは整備されていない印象だ。

-森トラストが手掛けるオフィスへのテナント誘致の基準は?
 「どういう企業を対象にしたい」という発想ではやっていない。我々の商品を色々なテナントが使いたいと思うものを作ること。そして、戦略として大規模なプレートを用意すること。同じフロアで各部署が一体となって仕事をできた方が、効率が良く生産性は高くなる。また、今の企業のニーズにあったスペックであり、インテリアテイストであることも重要だ。より豊かで滞在したいと思う空間を作ることを目指している。会社はオフィスを置く場所を、立地やビル自体の存在、ステータス、従業員のモチベーションに重きを置いて決定する。そのため競争力が高いものを作るのが先で、その結果、タイミングや経済条件などを調整し、入居テナントを決定する。

-今後のオフィスビルに関する戦略は?
 基本は、昔から「選択と集中」。都心部を中心に、交通アクセスの良い利便性の高い場所に作っていくこと。そして、大規模なものを作っていく。そこに複合開発としてホテルや住宅を入れ、使いやすいプレートを用意する。今後は、虎ノ門のあとに赤坂、田町でオフィス計画を持っている。

-海外でのオフィス投資、展開は?
 国内の開発活動が活発なため、海外は既存物件のなかで、収益物件をポートフォリオに入れていくことを重視している。もう少し国内の投資が落ち着いたら、開発型のものに参画できればと思っている。不動産市況が過熱しているときに出て行っても価値がない。
-株式上場の意向は?
 現状は特にない。上場のメリットは資金調達だと思うが、今のところ投資計画と調達のバランスが取れている。

(次回に続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年4月16日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

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