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「日系企業の英国進出状況」調査

 欧州連合(EU)離脱を巡り英国が揺れている。2016年6月に実施された国民投票での「離脱支持」の結果を受け、17年3月にメイ首相はトゥスクEU大統領に離脱を通告。リスボン条約に基づき、19年3月末でEU法が適用されなくなるが、その期日を目前にしても離脱案をまとめきれておらず、EUは英国議会での離脱案承認を条件に5月22日まで離脱延期を認める方針を示している。
国内企業は、一部の証券会社や金融機関がドイツやオランダで証券業の免許を取得したり、日系自動車メーカーが英国生産の見直しに動くなど、EU離脱が日系企業の事業展開にも影響を及ぼし始めている。生産撤退や事業見直しの動きが加速した場合、大手メーカーと事業展開に合わせて英国進出した日系サプライヤーの業績に暗い影を落とす可能性がある。
東京商工リサーチ(TSR)は保有する国内企業データベースとDun & Bradstreet(ダンアンドブラッドストリート、本社・米国)の世界最大級の海外企業データベースを活用し、日系企業の英国進出状況を調査した。この結果、英国に707社の日系企業が進出し、5,485カ所の拠点を展開していることがわかった。業種は、輸送に付帯するサービス業や一般機械器具製造業、卸売業など多岐にわたり、英国のEU離脱の動きは日系企業にも大きな影響を及ぼすことになる。

  • Dun & Bradstreetの「WorldBase」とTSRが保有する企業データベースを活用。「WorldBase」より英国の事業拠点(以下、拠点)を抽出し、拠点を管轄する企業の支配権(議決権・所有権)を50%超有している企業を特定した。特定された企業がグループの頂点企業でない場合、同様の方法でグループ最上位企業を特定。特定されたグループ最上位企業が日本に所在する場合、日系企業とした。このため、支配権が50%以下の場合は集計対象外となる。
  • 業種分類は、SICコード(Standard Industrial Classification Code)の1987年版を採用した。

産業別 製造業は753拠点

 英国の日系企業5,485拠点のうち、産業別の最多は運輸業の1,408拠点(構成比25.6%)だった。2017年には国内大手の駐車場運営業者が英国で駐車場事業を展開する企業を連結子会社化する動きもあった。
次いで、小売業の1,207拠点(同22.0%)、サービス業の1,010拠点(同18.4%)、製造業の753拠点(同13.7%)と続く。

「英国進出」日系企業 産業別拠点構成比

業種別 持株会社、投資業などがランクイン

 産業を細分化した業種別では、最多は輸送に付帯するサービスの1,252拠点(構成比22.8%)。
次いで、自動車小売業(関連用品含む)、ガソリンスタンドの942拠点(同17.1%)。国内大手商社は、2011年に英国などでタイヤ小売などを展開する企業を買収している。
情報処理サービスや広告代理業などの事業関連サービス業は545拠点(同9.9%)だった。

「英国進出」日系企業 業種別拠点構成数ランキング

支配権最上位企業の本社 東京都がトップ

 5,485拠点の支配権最上位企業は707社だった。支配権最上位企業の本社は東京都が最も多く404社(構成比57.1%)。次いで、大阪府の81社(同11.4%)だった。

英国進出の日系企業は707社で、5,485拠点を構えていることがわかった。現地拠点の産業は、運輸業が1,408拠点(構成比25.6%)と最も多く、次いで小売業の1,207拠点(同22.0%)やサービス業の1,010拠点(同18.4%)など多岐にわたっている。
英国のEU離脱に伴い、これまでEU域内取引で発生しなかった関税が発生し、通関手続きに混乱が生じる可能性もある。これはすべての幅広い産業で影響を受ける見込みだが、とりわけ日系企業が753拠点を展開する製造業の生産体制への影響は小さくないだろう。自動車メーカーを中心に、英国での生産見直しの動きも加速し、今後は自動車以外の業界にも広がる可能性が出ている。
また、日系企業が532拠点を構える金融・保険業は、「単一パスポート」の適用失効による事業継続リスクの回避に向けた動きが活発化している。一部の証券会社や金融機関はドイツなど英国以外のEU加盟国で証券業の免許を取得している。世界有数の金融都市、シティーの相対的な地盤沈下は避けられそうにない。また、EU離脱でポンドやドルの調達コストが上昇した場合、進出企業の収益にも影響する。
大手メーカーや金融機関と取引する日系企業の事業展開にも影響を及ぼす可能性がある。特に、日系メーカーの現地拠点に部材納入を目的で英国に進出した企業は、生産計画の見直しが現実になると進出メリットが喪失し、拠点での業績が悪化することも危惧される。これが中小企業だとなおさら深刻だ。日本国内より海外での売上高比率が高いケースでは、事業戦略の根本的な見直しも必要になる。日本を巻き込む英国のEU離脱の行方に注目が集まっている。

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