• TSRデータインサイト

金融庁、「貸付条件の変更実施状況」の報告を休止へ

 金融庁は、リーマン・ショック後の中小企業金融円滑化法の施行に伴い金融機関に求めていた「貸付条件の変更実施状況」の報告を2019年3月期で休止する。
報告が始まって10年目を迎え、条件変更の実行率(実行件数/申込件数)も97%程度(中小企業者向け)で定着し、金融機関に条件変更や円滑な資金供給への姿勢が浸透したと判断した。ただ、報告休止に伴う金融機関の姿勢変化や経済状況の急変による資金供給の円滑化の必要性は引き続き注視していく。

金融円滑化法終了後も続いた「任意協力」

 「貸付条件の変更実施状況」の報告は、2009年12月の中小企業金融円滑化法の施行に伴いスタートした。金融円滑化法は、中小企業者の条件変更の要請に原則応じるよう求め、実施状況の報告も義務化された。2013年3月に金融円滑化法は終了したが、その後も金融庁は任意報告を金融機関に要請していた。
金融庁は、2018年度から報告頻度を年2回から1回へ縮小するなど、報告作業の簡素化を進めていた。ただ、金融機関の担当者からは「本店への報告を毎月しないといけない」など、営業店での作業軽減には必ずしも繋がっていないとの声が上がっていた。このため、全国銀行協会は内閣府が所管する「規制改革ホットライン」に、「貸付条件の変更実施状況」の報告廃止を提案。これを受け金融庁は、「変更条件等の取り組みは金融機関に定着してきた」として、報告制度を再検討していた。
ただ、金融機関の取り組み姿勢の変化の見極めや、経済情勢の急変で円滑化が必要な局面も否定できないため、「廃止」ではなく「休止」とした。

報告が倒産増加の抑止力に

 東京商工リサーチの倒産集計では、リーマン・ショックから金融円滑化法の施行までの件数は月間1,321件(平均)だったが、金融円滑化法の施行後は1,052件に減少。金融円滑化法の終了後は増加が懸念されたが、逆に748件とさらに減少が進んだ。 倒産の減少について、「事実上、強制力のある任意報告の体制が続いたため」(金融機関担当者)との見方もある。このため今後、金融機関の条件変更への取り組み姿勢次第では倒産が増勢に転じることが危惧されている。これについて金融庁の担当者は、「取り組み姿勢に変化が生じた場合、報告の復活ではなく、まずは個別対応になる」と話す。金融庁の担当者は、「引き続き金融機関は貸付条件の変更や円滑な資金供給に努めるべき」との認識を示している。

倒産件数推移


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年3月4日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

 TSR情報とは

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

ハンバーガー店の倒産、最多更新 ~ 材料高騰、大手と高級店の狭間で模索 ~

年齢を問わず人気のハンバーガー店が苦境だ。2024年は1件だった倒産が、2025年は8月までに7件に達し、過去最多の2014年の年間6件を上回った。

2

  • TSRデータインサイト

2025年「全国のメインバンク」調査 ~GMOあおぞらネット銀行 メイン社数の増加率2年連続トップ~

「2025年全国企業のメインバンク調査」で、GMOあおぞらネット銀行が取引先のメインバンク社数の増加率(対象:500社以上)が2年連続でトップとなった。

3

  • TSRデータインサイト

タクシー業界 売上増でも3割が赤字 人件費・燃料費の高騰で二極化鮮明

コロナ禍を経て、タクシー業界が活況を取り戻している。全国の主なタクシー会社680社の2024年度業績は、売上高3,589億5,400万円(前期比10.6%増) 、利益83億3,700万円(同11.1%増)で、増収増益をたどっている。

4

  • TSRデータインサイト

「葬儀業」は老舗ブランドと新興勢力で二極化 家族葬など新たな潮流を契機に、群雄割拠

全国の主な葬儀会社505社は、ブランド力の高い老舗企業を中心に、売上高を堅調に伸ばしていることがわかった。 ただ、新たに設立された法人数が、休廃業・解散や倒産を上回り、市場は厳しい競争が繰り広げられている。

5

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

TOPへ