• TSRデータインサイト

【破綻の構図】(株)天牛堺書店~なぜ私的整理は頓挫したのか~

 大阪府堺市を中心に12カ所の書店を展開していた(株)天牛堺書店(TSR企業コード: 630132046、堺市南区、藤吉信彦社長)が1月28日、大阪地裁堺支部に破産を申請した。負債総額は17億4,144万円だった。
大阪府内では高い知名度を誇っただけに、SNSでは「驚いた」、「ショック!!」などのつぶやきが相次いだ。倒産しても店舗シャッターには閉店を惜しむ声や感謝のメッセージが綴られた紙が多数貼られている。愛された書店の倒産に地元では様々な反応がみられた。

天牛堺書店は、1963年12月に藤吉信夫氏が創業し、1968年7月に法人化した。書籍・雑誌などの新刊書のほか、古書販売にも力を注いでいた。特に、古書は高価買い取りで売れ筋商品を取りそろえ、販売実績を伸ばしていた。順調に事業拡大をたどり、南海電鉄沿線の駅構内や駅前などに次々に出店、立地の良さもあって通勤通学のサラリーマンや学生などを中心に、来客数を伸ばした。

出版不況が直撃

ピーク時は25店の出店に加え、学習塾も2教室経営し、1999年5月期の売上高は約29億900万円を計上した。だが、若者の活字離れやインターネットの普及、電子書籍の登場などで、出版不況と呼ばれる厳しい状況に直面。書籍販売を中心にしていた経営が一気に苦境に陥った。
業績回復に向け、音楽用コンパクトディスク(CD)やトレーディングカードなどの書籍以外の商品も扱うようになった。だが、想定通りの成果は上がらず、次第に不採算店舗が増加。そこにのしかかるように1998年2月に購入した本社不動産への投資も重荷になっていった。

取引先に支援を仰ぐ

不採算店は順次閉鎖したが、収支とキャッシュフローは好転せず、2016年中旬になると最大の仕入先である書籍取次大手(株)トーハン(TSR企業コード:291105009、新宿区)への支払いに支障をきたすようになった。
トーハンには所有権留保が付いた在庫商品の返品で対応した。また、商品の継続供給を目的に2018年5月期に入るとトーハンから役員を受け入れ、新体制で改革を目指した。
不採算店の閉鎖を進めた結果、12店舗まで縮小し、経費の大幅削減に一定の成果をみせた。だが、採算を確保できていた店舗は「天下茶屋店」と「粉浜店」のみ。規模縮小だけでは深刻な経営改善には結びつかなかった。

金融機関にリスケ要請

2017年8月、金融機関に借入金の返済条件の変更(リスケ)の交渉に入り、同年9月の返済分から元金返済を停止した。
2018年8月には再生支援協議会に私的整理を相談していた。支援には全取引金融機関の同意を条件とされたため、バンクミーティングを開催するなど、同意の取り付けに奔走した。
こうして一部の金融機関からはプロパーと保証協会分をあわせた融資については、2019年4月1日まで元本返済の猶予に応じる回答を得ることができた。だが、他の金融機関からは提示した私的整理案に賛同を得ることができなかった。
金融機関が私的整理案に難色を示したのは、決算処理への根強い不信が背景にあった。

1. 2014年5月期から2017年5月期にかけて受けた役員借入金の債務免除(合計約2億6,200万円)を売上に計上していた
2. 2015年5月期に店舗の耐震工事に係る売上補償(約1,200万円)を売上に計上していた。また、同期は店舗の耐震工事負担金(約2,000万円)を地代家賃と相殺処理していた
3. 2016年5月期に退職年金収益(約1,100万円)を売上に計上していた。また、同期の書籍等の仕入を過少申告(約8,000万円)していた
4. 当社代表者が別途経営する企業へ貸付などの金融支援を行っていた

2018年5月期は、売上高が16億8,062万円、営業損失が2億6,511万円、経常損失が2億8,808万円、純損失が5億1,741万円と厳しい決算になっていた。同期末で2億4,256万円の債務超過に転落したが、その後の財務デューディリジェンスで債務超過額は6億1,637万円に達していたことがわかった。
業績改善も見込めず、金融機関から新規の資金調達もできないまま、1月17日に一部の金融機関が預金差押を実行。ついに事業継続を断念し、破産を申請した。

書店経営は苦境に陥って久しい。大阪では、「紀伊国屋書店」、「MARUZEN&ジュンク堂書店」、「蔦屋書店」など、梅田を中心に大型店舗が多数出店している。だが、これらは関西以外の資本だ。
東京商工リサーチ関西支社の調べでは、大阪府に本社を置く主要書店22社のうち、17社が減収、5社が直近決算で赤字であることがわかった。倒産という最悪の事態でなくても、後継者問題も抱えて廃業する店舗は少なくない。
出版不況でも本を好きな人は多い。だが、多様化する書籍の下では、市場縮小に歯止めをかけるのは困難だ。書店は地域文化の拠点の一つではあるが、それだけで生き残れない。書店もビジネスとして生き残り策を求められる時代に入ったことを自覚すべきだろう。

閉店した北野田店に張り付けられた利用者の付箋

閉店した北野田店に張り付けられた利用者の付箋

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年2月19日号掲載「破綻の構図」を再編集)

 TSR情報とは

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月の「人手不足」倒産が過去最多 「従業員退職」が前年の1.6倍増、初の年間300件超へ

2025年9月に「人手不足」が一因となった倒産は、調査を開始した2013年以降では月間最多の46件(前年同月比109.0%増)を記録した。また、2025年1-9月累計も、過去最多の285件(前年同期比31.3%増)に達し、人手不足はより深刻さを増していることがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

ケーキや和菓子は「高値の花」に、スイーツ店が苦境 倒産は過去20年で最多ペース、競合商品も台頭

街のスイーツ店が苦境に陥っている。材料コストの上昇、酷暑、人手不足が重なり、商品値上げによる高級化も購入機会の減少につながったようだ。2025年1-9月の菓子製造小売の倒産は、過去20年で最多の37件に達した。

3

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月「後継者難」倒産が過去2番目 332件 高齢化が加速、事業承継の支援が急務

代表の高齢化が進み、後継者が不在のため事業に行き詰まる企業が高止まりしている。2025年1-9月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は332件(前年同期比4.5%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。だが、2025年は過去最多だった前年同期の348件に次ぐ、過去2番目の高水準だった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

5

  • TSRデータインサイト

2025年度上半期の「円安」倒産30件 仕入コスト上昇が卸売業を直撃

2025年度上半期(4-9月)の「円安」関連倒産は、30件(前年同期比31.8%減)だった。上半期では、2022年度以降の円安では前年度の44件に次いで、2番目の高水準になった。

TOPへ