• TSRデータインサイト

ジャパンディスプレイ、減り続ける現預金

 2月14日、経営再建中の(株)ジャパンディスプレイ(TSR企業コード:294505385、東証1部、以下JDI)は2019年3月期第3四半期決算を公表した。累計業績(連結)は、売上高4,653億3,100万円(前年同期比17.7%減)、営業利益は▲106億2,600万円(前年同期は▲388億9,700万円)、最終利益は▲108億6,100万円(同▲1,006億1,100万円)だった。
通期の業績予想も下方修正した。当初、売上高は前年度比5~15%の増加、営業利益率は1~2%を見込んでいたが、それぞれ前年度比10%の減収、200億円超の営業赤字へ大幅に引き下げた。

追加の構造改革も

14日17時よりJDIは都内でアナリスト向け説明会を開いた。説明会には月﨑義幸・代表取締役社長、大島隆宣・常務執行役員が出席した。
第3四半期累計(4-12月)の売上高の大幅な減少について、大島常務は「スマートフォン向けのフルアクティブの想像を超える需要減が生じた」と説明。JDIは米アップルの「iPhoneXR」向けに「フルアクティブ」と呼ばれる液晶を供給しているが、iPhoneの世界的な販売鈍化が直撃した。利益は、2018年3月期に実施した構造改革が一定の成果を見せたが、営業利益以下で黒字に転換できなかった。
通期でも営業赤字が避けられない見通しを受け、第4四半期以降に構造改革の検討に入ることを明らかにした。
JDIは2018年3月期に構造改革費用として工場資産等の減損1,038億円を含め1,423億円を計上している。ただ、モバイル向けディスプレイを製造する白山工場は減損しておらず、構造改革の対象となる可能性がある。この場合、2019年3月期(通期)の最終利益は、営業利益見通しの▲200億円よりさらに下振れの可能性がある。また、月﨑社長は「前回(の構造改革)は固定費の削減が主眼だったが、今回は製品ポートフォリオを変えることに視点を置く。スマホ一本足打法からの脱却スピードを速くする」と語り、モバイル向けディスプレイ以外の売上拡大に注力する方針を示した。

減り続ける現預金

今回開示された決算数値では、いくつかの不安要素が見えてくる。1つは、前期減損したにも関わらず低下する総利益率(粗利率)だ。2018年3月期第3四半期に1.2%にとどまっていた粗利率は減損効果などで2019年3月期第2四半期は6.6%まで改善した。しかし、「競争激化」(大島常務)から第3四半期は6.1%に0.5ポイント下落した。売上規模が大きいだけに粗利率の低下は致命傷になりかねない。
もう1つの不安は、四半期毎の現預金残高の目減りだ。2018年3月末で809億円あった現預金は9月末に622億円にまで減り、12月末は544億円に減少した。通期で200億円超の営業赤字を見込み、第4四半期の営業キャッシュローもマイナスが続く可能性があり、本業でのキャッシュ創出力は当面期待できない。

INCJ(旧・産業革新機構)との関係は

このため、今後も外部資金に頼った資金繰りが続く見通しだ。JDIは筆頭株主である(株)INCJ(TSR企業コード:033865507)から債務保証を受けている。これを基にJDIは銀行団と総額1,070億円のコミットメントライン契約を締結している。契約期間は1年で、次の期日は2019年8月7日だ。
赤字が続くJDIに担保や保証なしで金融機関が資金を貸し出すのは難しい。債務保証の更改は資金繰り維持に欠かせず、場合によっては追加支援も必要な局面も予想される。
この点について大島常務は、「コミットメントラインの更改やINCJが保有する株式や債権への引き続きの支援を頂けると認識している」とコメント。「追加支援は我々(JDI)がコメントする立場にない」と語るにとどめた。INCJが保有する「債権」について、JDIの広報担当者は東京商工リサーチの取材に、「INCJからの短期借入金や債務保証が該当する」と語った。

グローバル企業とのパートナーシップは

JDIはこれまでグローバル企業とのパートナーシップ構築を掲げ、中国や台湾企業と出資交渉を進めている。2月12日、こうした企業連合がJDIに数百億円規模で出資する見通しと報じられたが、JDIは「現時点で決定している事項はない」とリリースしている。
合意に至っていないが、交渉は進捗しているとの見方がある。だが、INCJのJDIの議決権等保有割合が20%以下となった場合、もしくは第三者の保有割合が20%超となった場合、債務保証を解除できる旨の契約がなされている。JDIの取引先は出資交渉の進展に期待をつなぐが、債務保証との兼ね合いも懸念している。今回、懸念は和らいだとはいえ、グローバル企業とのパートナーシップの結論は出ておらず、年度末に向けて目が離せない状況が続く。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年2月18日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

 TSR情報とは

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

建材販売業の倒産 コロナ禍の2倍のハイペース コスト増や在庫の高値掴みで小規模企業に集中

木材や鉄鋼製品などの建材販売業の倒産が、ジワリと増えてきた。2025年1-7月の倒産は93件で、前年同期(75件)から2割(24.0%)増加した。2年連続の増加で、コロナ禍の資金繰り支援策で倒産が抑制された2021-2023年同期に比べると約2倍のハイペースをたどっている。

2

  • TSRデータインサイト

「転勤」で従業員退職、大企業の38.0%が経験 柔軟な転勤制度の導入 全企業の約1割止まり

異動や出向などに伴う「転勤」を理由にした退職を、直近3年で企業の30.1%が経験していることがわかった。大企業では38.0%と異動範囲が全国に及ぶほど高くなっている。

3

  • TSRデータインサイト

女性初の地銀頭取、高知銀行・河合祐子頭取インタビュー ~「外国人材の活用」、「海外販路開拓支援」でアジア諸国との連携を強化~

ことし6月、高知銀行(本店・高知市)の新しい頭取に河合祐子氏が就任した。全国の地方銀行で女性の頭取就任は初めてで、大きな話題となった。 異色のキャリアを経て、高知銀行頭取に就任した河合頭取にインタビューした。

4

  • TSRデータインサイト

ダイヤモンドグループ、複数先への債務不履行~蔑ろにされた「地域イベントの想い」 ~

ライブやフェスティバルなどの企画やチケット販売を手掛けるダイヤモンドグループ(株)(TSRコード:298291827、東京都、以下ダイヤモンドG)の周辺が騒がしい。

5

  • TSRデータインサイト

2025年1-8月の「人手不足」倒産が237件 8月は“賃上げ疲れ“で、「人件費高騰」が2.7倍増

2025年8月の「人手不足」が一因の倒産は22件(前年同月比37.5%増)で、8月では初めて20件台に乗せた。1-8月累計は237件(前年同期比21.5%増)に達し、2024年(1-12月)の292件を上回り、年間で初めて300件台に乗せる勢いで推移している。

TOPへ