• TSRデータインサイト

ある再生コンサルの逮捕劇から見える事業再生の現場

事業再生コンサルとして知られるA氏は、東京商工リサーチ(TSR)のデータベースで100社を超える企業の代表に就いている。代表を務める企業は北海道から九州まで全国にまたがる。だが、再生どころか事業停止や倒産した企業もかなりあることがわかった。
そのA氏が今年1月18日、国税徴収法違反の容疑で札幌地検に逮捕された。
経営不振に陥った企業の代表取締役にA氏が就任すると、その企業は資金ショートや他地域への本社移転が目立つ。取引先には、「お金がないので取立に来ても支払いできません。破産を申し立てたければ勝手に申し立ててください」旨の開き直った通知を出す。
逮捕前にTSR情報部はA氏に取材を申し込んだが、「回答しない」と取材拒否の姿勢をとり続けていた。

A氏のある事件の代理人は、「(A氏逮捕の)詳細を把握していない」とコメント。そこでA氏が代表を務める都内の雑居ビルに入居する会社を訪問したが、実態はなかった。
A氏が過去代表を務めた一般社団法人の現在の関係者は、「(一般社団法人は)登記しただけで事業はしていなかった」と赤裸々に話した。A氏の関与については、「ここにいる人は誰もわからない」と、A氏の存在を消し去りたいような口ぶりだった。

A氏が代表に就任した企業のトラブル

A氏などを相手取り損害賠償を請求した企業の訴訟記録や関係者への取材で、訴訟の争点が「会社の財産隠蔽」であることが浮かび上がってくる。原告側は、「A氏は代表に就任後、全金融機関に今後一切返済しないと支払停止を宣言した。一方、会社の預金を隠匿する不法行為に及んだ」と話す。預金を別の口座に移したとも指摘する。
A氏ら被告側は「預金の移動指示はしていないし、移動したことも知らない」と容疑を否定。棄却を求めて現在も裁判は継続中だ。
このような中、札幌地検特別刑事部が1月18日、A氏ら4名を逮捕した。
北海道に本社を構えていたY社。A氏は2017年7月に代表に就任したが、7カ月後の2018年2月、Y社は札幌市から千葉県に本社移転した。
札幌地検の逮捕容疑は、Y社は「消費税等を滞納」していたが、A氏らが虚偽の債権譲渡通知を取引先に郵送し、Y社の売掛金を別会社に振り込ませて消費税等の滞納処分の執行を免れたことだという。

A氏が役員に就任した企業が本社を移転する理由について「税務当局や債権者のかく乱が狙い」と指摘する人がいる。他地区への本社移転は事実把握が難しくなるためだ。
中小企業の事業再生は社会的意義が大きく、A氏の手腕に期待する人はいる。これに対し、回収不能が生じた債権者の多くは悔しさを込めてA氏を「整理屋」と断罪する。
事業再生は、再生後の事業発展のために金融機関や債権者の信頼と協力が欠かせない。A氏を受け入れる企業の多さは、事業再生を望む企業に核となる人材や支援者が少ないことの反映でもある。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年2月12日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

 TSR情報とは

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

【破綻の構図】マツオインターナショナル~膨らんだ債務と抜本再生への移行~

婦人服ブランド「ヴィヴィアン タム」「慈雨(じう)」「t.b2」などを展開し、ピーク時には国内外で約400店を構えていたマツオインターナショナル(株)(TSRコード:292635265、以下マツオ)が12月11日、大阪地裁に会社更生法の適用を申請した。

2

  • TSRデータインサイト

交響楽団の収益悪化、来場者戻らずコスト上昇 ~ 綱渡りの自助経営、草の根のムーブメントへの期待 ~

交響楽団が存立の危機に立たされている。多くの交響楽団で収入が落ち込んでおり、赤字が目立つ。会場費や団員などの人件費、楽器の輸送コストなどが上昇のうえ、寄附金や補助金による収入は頭打ちで綱渡りの運営だ。東京商工リサーチは、3期連続で業績が比較できる20団体を調査した。

3

  • TSRデータインサイト

地場スーパー倒産 前年同期の1.5倍に大幅増 地域密着型も値上げやコスト上昇に勝てず

2025年1-11月の「地場スーパー」の倒産が22件(前年同期比46.6%増)と、前年同期の約1.5倍で、すでに前年の年間件数(18件)を超えた。

4

  • TSRデータインサイト

長渕剛さん側、イベント会社の破産申立に続き代表を刑事告訴 ~長渕さん「徹底追求」、イベント会社代表「横領でない」と反論~

歌手の長渕剛さんが代表を務める個人事務所の(株)オフィスレン(渋谷区)が、イベント運営を委託していたダイヤモンドグループ(株)(東京都中央区)の代表を業務上横領罪で刑事告訴したことがわかった。東京商工リサーチの取材で長渕さん側が明らかにした。

5

  • TSRデータインサイト

「ペット・ペット用品小売業」倒産が過去2番目の14件 実質賃金の低迷と物価高がペットの世界にも影響

2025年11月の「ペット・ペット用品小売」の倒産は、1件(前年同月ゼロ)にとどまったが、1-11月累計は14件(前年同期比27.2%増)に達した。

TOPへ