• TSRデータインサイト

「待ったなしのマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策」第4回(全4回)

金融庁 総合政策局 マネーローンダリング・テロ資金供与対策企画室
室長補佐 宮田 穣

5.一般企業への影響

 前回までの3回の連載で、FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)審査の概要、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(以下、「ガイドライン」)、及び金融庁の取組み等を紹介した。最終回である本稿では、金融機関等による対応が金融機関等と取引のある一般企業へ及ぼす影響について述べる。

(1)継続的な顧客管理
金融機関等は、リスクに応じた程度で、継続的に顧客管理を行うことが求められる。これはFATF勧告に明記されており、ガイドラインにおいても、「取引類型や顧客類型に着目し、これらに係る自らのリスク評価や取引モニタリングの結果も踏まえながら、調査の対象及び頻度を含む継続的な顧客管理の方針を決定し、実施すること」と記載されている。金融機関等と取引している商品・サービス、取引形態、国・地域、及び顧客属性等に応じて、取引開始後の顧客管理の深度や頻度を決定することが求められているのである。
例えば、海外送金を頻繁に行っている顧客と、給与振込や日常生活の決済にのみ口座を利用している顧客では、マネロン・テロ資金供与リスクの程度が異なる。また、同じ海外送金でも、リスクの高い国・地域との取引がある顧客は、よりリスクが高いと判断され得る。金融機関等は、こうしたリスクに応じて、顧客の本人確認や、取引目的、職業・事業の内容、及び資産や収入等の確認を実施する必要がある。法人顧客に対しては、実質的支配者(株式会社等の資本多数法人の場合、総数の4分の1を超える議決権を有している自然人等)に関する情報の確認も必要となる。一般企業においては、こうした取引時確認のプロセスに応じた書面提出等の対応が求められる。

加えて、金融機関等においては、顧客の「定点観測」が求められる。これは、口座開設後の取引の有無や、システム等による監視を通じた発見事項の有無に関わらず、ある一定期間毎に顧客の実態把握をするということである。例えば、一般企業の顧客について、金融機関等に届け出た住所で実際に営業しているかどうかや、実質的支配者の変異がないかを定期的に確認する。電子メールや資料の郵送により実施したり、リスクが高いと判断した企業については金融機関等の職員が営業場所を訪問することもあり得る。
金融機関等からの借入があり、金融機関等が与信管理をしている顧客の中には、現状でも営業担当者が定期的にコミュニケーションをとっている先もあるはずである。そのような定期的なコミュニケーションにより金融機関等が顧客の商流や送金先、取引先、及び資本関係等を十分に把握している場合には、マネロン・テロ資金供与対策に必要な情報・資料の定期的・継続的な収集について、企業側の追加的負担はそれほど増えないことも考えられる。しかし、金融機関等には、上記のような定期的なコミュニケーションをとっていない先も含む全ての顧客に対し、リスクに応じて定期的に実態を把握することが求められており、目下金融機関等では、その実施のための態勢整備に取り組んでいる。今後、一般企業に対して、金融機関等から届出住所や事業内容等が変更されていないかの確認がなされることがある点をご理解いただきたい。

(2)貿易金融への対応
貿易金融は、貿易書類に虚偽の内容を記載すること等により、軍事転用物資や違法薬物の取引、及び人身売買等に利用される危険があり、金融機関等が提供する輸出入取引の決済サービスを利用することにより、マネロン・テロ資金供与の手口の1つにもなり得る。
この点については、国家公安委員会が公表している犯罪収益移転危険度調査書においても、危険度の高い取引として「外国との取引」が挙げられ、その中で「貿易取引を仮装することにより、容易に送金を正当化できるほか、実際の取引価格に金額を上乗せして支払うなどして犯罪による収益を移転することが可能となる」と言及されている。
マネロン・テロ資金供与対策における国際的な要求水準を踏まえると、貿易金融を取り扱う金融機関等においては、貿易金融に係るリスクへの対応として、取引に係る国・地域のリスクだけでなく、取引対象となる商品・サービス、契約条件、輸送経路(船積地、経由地、荷卸地、最終目的地等)、船舶名、港湾管理者、最終受取人等の情報を取得したうえで、それらに係るリスクを分析・勘案することが求められる。また、取扱いを制限する商品・サービスの類型や顧客の類型についての独自リストを作成することを通じて、リスクの高い取引を未然かつ的確に検知することも必要である。
金融機関等による上記の対応に伴い、貿易取引を扱う企業は、利用している金融機関等の商品・サービスや相手方の所在地、貿易取引の対象となっている商品・サービス等を踏まえて金融機関等が評価したリスクの程度に応じて、商流や実質支配者等を把握するための継続的な確認や資料の提出等を金融機関等から求められることになる。

6.おわりに

 ガイドラインでは、金融機関等に対し、自らが直面しているリスクを適時・適切に特定・評価し、リスクに見合った低減措置を実施することを求めているため、金融機関等に求められる対応は、業態や規模、ビジネスモデルによって異なる。ただし、基本的なリスク評価や管理の枠組みは本連載で述べたとおりのもので、各金融機関等で共通している。その枠組みのもとで実施される対応は、リスクが低いと評価された商品・サービスや顧客については簡素な対応が可能であるものの、総じて以前より厳格化していくと思われる。金融機関等の顧客である一般企業においても、従前は求められなかった質問への回答や追加資料の提出などにより、マネロン・テロ資金供与対策への協力を求められる場合があることにご理解いただきたい。

金融庁は、官民一体となって、FATF第四次対日相互審査への対応を進めながら、より中長期的に持続可能で実効性のあるマネロン・テロ資金供与対策の強化を進めていく。より一層のご理解・ご協力をよろしくお願いしたい。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年1月31日号より転載)

 TSR情報とは

記事の引用・リンクについて

記事の引用および記事ページへのリンクは、当サイトからの出典である旨を明示することで行うことができます。

(記載例) 東京商工リサーチ TSRデータインサイト ※当社名の短縮表記はできません。
詳しくはサイトポリシーをご確認ください。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

政策金利引き上げ 「1年は現状維持」が59.6% すでに「上昇」が52.0%、借入金利は上昇局面に

企業の59.6%が、これ以上の政策金利の引き上げに「待った!」を希望していることがわかった。今後の望ましい政策金利の引き上げ時期は、「向こう1年は現状維持」が59.6%で最多だった。「引き下げ」も23.6%あり、企業経営の観点では利上げを望む声は少数(16.6%)にとどまった。

2

  • TSRデータインサイト

中小企業の12.2%が事業資金を個人名義で調達 保証債務に上乗せ負担、債務整理や廃業を複雑に

事業資金を代表者名義で調達したことのある中小企業は12.2%に達することがわかった。政府や金融界は「経営者保証ガイドライン」(適用開始2014年2月)や「事業再生ガイドライン」(同2022年4月)などを通じ、企業が抱える債務を整理する際に個人保証が足かせにならないよう取り組んでいる。

3

  • TSRデータインサイト

2025年「早期・希望退職募集」は 1万7,875人 、リーマン・ショック以降で3番目の高水準に

2025年の「早期・希望退職募集」が判明した上場企業は43社(前年57社)で、募集人数は1万7,875人(同78.5%増)に達したことがわかった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年7-9月の客室単価 1万6,975円 稼働率80%超え 人手不足の解消が課題

ホテル運営の上場12社(13ブランド)の2025年7-9月期の平均客室単価は、1万6,975円(前年同期比8.9%増)で前年同期を上回った。7-9月期で、13ブランドの平均が前年を上回るのは3年連続。平均稼働率は83.9%で前年同期を2.9ポイント上回り、 稼働率も3年連続で上昇している。

5

  • TSRデータインサイト

【最新決算】 私立大学、半数以上が赤字に転落 売上高トップは順天堂、利益トップは帝京大学

全国の私立大学を経営する545法人のうち、半数を超える287法人が直近の2025年3月期決算で赤字だったことがわかった。  

TOPへ