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2018年1-10月「通信販売・訪問販売小売業」の倒産件数は56件、年次ベースで過去最多に迫る勢い

 ネット通販市場は拡大しているが、2018年1-10月の通信販売・訪問販売小売業の倒産は56件にのぼり、すでに10月集計時点で3年ぶりに前年を上回った。
 内訳では、衣食住に亘る各種商品を扱う企業の倒産が目立ち、「多品種」の商品展開も曲がり角を迎えていることを窺わせた。負債額別では、負債5千万円未満が全体の約8割を占め、業界内で事業者間の格差が広がっていること浮き彫りにした。


2018年1-10月の倒産、前年同期比3割増

 2018年1-10月の通信販売・訪問販売小売業の倒産は56件(前年同期比33.3%増、前年同期42件)だった。調査を開始した2009年以降では、年次ベースで過去最多の2015年(77件)に迫る勢いで推移している。
 また、負債総額は1,033億2,700万円(前年同期27億3,000万円)と大きく膨らんだ。これは食品通信販売の(株)ケフィア事業振興会(東京、負債1,001億9,400万円)の大型倒産が影響した。
 全体では、負債5千万円未満が44件(前年同期比51.7%増、前年同期29件)で、約8割(構成比78.5%)を占め、基幹商品を持たない小規模企業の脱落が進んでいるとみられる。

通信販売・訪問販売小売業の倒産 年次推移

業種別倒産、「各種商品小売」が最多

 2018年1-10月の通信販売・訪問販売小売業の倒産の内訳では、衣食住に亘る各種商品を扱う「各種商品小売」が最多の19件(前年同期比46.1%増、前年同期13件)だった。次いで、インテリア用品や美術工芸品などの「その他」が前年同期同数の15件、アパレル関連などの「衣服・身の回り品小売」が14件(前年同期比133.3%増、前年同期6件)、家電などの「機械器具小売」が前年同期同数の2件だった。

原因別、販売不振が約7割

 形態別では、企業の解体・消滅である破産が55件(前年同期比34.1%増、前年同期41件)で、全体の9割(構成比98.2%)を占めた。これに対し、再建型の民事再生法は1件だけで、業績不振に陥った企業の事業再建が難しいことを反映した。
 原因別では、販売不振が39件(前年同期比39.2%増、構成比69.6%)。次いで、事業上の失敗7件(前年同期比40.0%増)、他社倒産の余波5件(同25.0%増)、運転資金の欠乏3件の順。

設立5年以内が約3割を占める

 従業員数別では、5人未満が51件(前年同期比45.7%増、前年同期35件)になり、小規模事業者の倒産が全体の9割(構成比91.0%)を占めた。また、2013年以降に設立された事業者は15件(構成比26.7%)で、設立から日が浅い5年以内の新規事業者が約3割を占めた。

 通販事業は、参入障壁が低く、個人でも事業の立ち上げが可能だ。スマートフォンやパソコンを経由した取引の拡大で、地方や小規模企業でも十分に成長できる市場ともいえる。
 だが、その反面で競争相手が多く、消費者の嗜好変化や評判にも左右されがちだ。さらに、同業他社に対する差別化の「強み」がなければ、市場から淘汰され易く、そのスピードが速くなっている。ブームに乗っただけでは生き残ることが難しい市場だけに、経営に慎重な舵取りが求められている。
 2018年1-10月の通信販売・訪問販売小売業の倒産増加の要因には、相次ぐ中小企業のネット通販への参入が過当競争に拍車をかけていることが挙げられる。こうしたなか、来年10月には消費税率の引き上げが予定され、個人消費の節約志向が一層強まることが予想される。成長を続ける通販市場だが、今後の小規模企業の脱落増加が危惧される。

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