【破綻の構図】民事再生のヤバネスポーツ~事業環境の悪化に取引条件変更がとどめ~
1924年(大正13年)創業の老舗スポーツ用品卸、ヤバネスポーツ(株)(TSR企業コード:291015131、台東区、村川泰光社長)が7月12日、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。負債総額は15億1,925万円だった。
約200社のスポーツメーカー用品を取扱い、全国のスポーツ店などに販路を築いていた。業界でも知られた存在だったが、最近は消費構造の変化で業績は振るわず、業容を縮小して我慢の経営が続いていた。ところが、今年4月に大手スポーツメーカーから取引条件の変更を申し入れられて事態が急変した。取引銀行からの支援も得られず、法的手続きによる再建を決断した。
ヤバネスポーツの「ヤバネ」は当社のロゴマーク、矢羽印に由来する。
1924年に「アサヒヤ運動具店」として創業した当社は一時期、野球用品の生産も手がけていた。1970年代には当社製「矢羽印」のバットやグローブをプロ野球巨人軍の選手が契約していたこともあって知名度が浸透した。往年の野球ファンや愛好家は「ヤバネ」の名前にピンとくる人も多いだろう。
その後、野球用品の製造から撤退するが、国内スポーツメーカーの代理店として大手問屋の地位を確立。ピークの1985年7月期には売上高も137億2,000万円をあげていた。
当時、スポーツ用品の販売を担ったのは「街のスポーツ店」だった。メーカーが商品を作り、問屋が仕入れ、全国のスポーツ店へと供給した。スポーツ店は個人経営や地元密着型の小規模経営が多かったが、ボール1個から部活動で使う道具、学校の体育着に至るまで取り揃え、なくてはならない存在だった。
販路縮小で売上はピーク時の4分の1に
その後、業界を取り巻く環境は大きく変わった。ショッピングモールの出現とともに、品揃えで勝る全国チェーンの大型店が席巻し、都市部ではスポーツメーカー自らが次々に直営店舗を出した。また、オンライン販売なども普及する一方で、少子化の影響で学校向け需要は減少した。
商店街が廃れていくのと似た構造で街のスポーツ店が次々に消えていった。当社が主力販売先としたのは東日本の小規模スポーツ店が中心だった。販路の縮小には抗えず、売上減少が続いた。
もちろんこの厳しい状況に、手をこまねいていただけではなかった。フットサルの市場性にいち早く目を付け、当時あまり知られていなかったヨーロッパのメーカーとの販売契約を結んだ。また、野球用品の分野でもアメリカの専門メーカーと販売契約を結んでいた。
だが、こうした経営努力をはるかに上回るペースで販路は縮小した。直近の2017年7月期の売上高は31億7,733万円。ピークの4分の1以下にとどまった。
突然の与信取引縮小、銀行支援も得られず
今年4月、経営を左右する決定的な事が起こった。当社が販売代理店をつとめるスポーツメーカーから与信取引の縮小を求められたのだ。債権者説明会や民事再生申立書によると、従来の取引は、当社がメーカーに2億3,000万円の保証金を差し入れた上で商品を調達、メーカーは当社の商品在庫に譲渡担保を設定し、8億円の枠内での与信取引を行うというものだった。だが、当社の脆弱な財務に懸念があるとして将来的に与信枠を保証金2億3,000万円の範囲内にとどめることを決めた。事実上の与信取引の縮小だ。
これを受け、当社は取引銀行に仕入資金の追加融資を依頼したが、返事は色よいものではなかった。そればかりか毎年通例となっている8月の短期資金の融資すら難しいと回答された。取引銀行からは融資実行の条件として、2018年7月期決算が黒字見込みで、かつメーカーが今回の取引条件変更を撤回することが付された。当社はメーカーに従来通りの取引条件の維持を要請したが、「時間的な相談には乗るが、方針の変更は一切受け入れられない」という強い態度だった。(民事再生申立書)
状況は万事休す。資金繰りは限界に達し7月12日、民事再生法の適用を申請した。
件(くだん)のスポーツメーカーと当社との関係は戦前までさかのぼる。かつて20社ほど存在したメーカーの販売代理店のなかで当社は一時、最大規模を誇った。だが、「二人三脚」の蜜月に事実上の終止符を突き付けられ、当社の命運は決した。
一方で、追加融資を拒み、厳しい対応を決断した金融機関の姿勢も注目される。金融機関は将来的な企業価値を判断する「事業性評価」が求められている。主要取引先のメーカーとの取引減少で、当社のビジネスモデルが限界を迎えたと映ったのだろうか。
オリンピックやアスレジャー(スポーツウェアを組み合わせたファッションスタイル)のトレンドなどを背景に、スポーツ関連市場は盛り上がりを見せる。だが、当社は消費性向や業界の構造変化をキャッチアップできず自力再建を断念した。
ただ、債権者説明会では複数の企業がスポンサー候補として興味を示し、これまで取引のなかった金融機関が億単位のDIPファイナンス(つなぎ融資)を前向きに検討している事も明らかになった。当社の実績や将来性を評価する関係者も存在する。
100年の歴史を持つ老舗問屋がどのような再建の道筋を描くのか。街のスポーツ店を支え続けてきた当社の、新たなビジネスモデルが問われている。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2018年7月26日号掲載予定「破綻の構図」を再編集)