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【破綻の構図】花園万頭、高価格帯戦略の行方

 東京・新宿の「花園神社」に商品を奉納していることでも知られる老舗の菓子店(株)花園万頭(TSR企業コード:290958687、新宿区、石川一弥社長)が5月31日、東京地裁に自己破産を申請し同日、破産開始決定を受けた。負債は24億4,124万円だった。
同社は、1個378円(税込)の看板商品「花園万頭」など「日本一高い 日本一うまい」のキャッチコピーで知られる。1834(天保5)年に加賀前田家の城下、金沢で創業の「石川屋本舗」が起源だ。創業180年以上の歴史を誇る老舗の破綻は、事業承継の難しさを改めて垣間見せた。

花園万頭は銘菓「花園万頭」のほか、60年以上前から根強いファンを持つ「ぬれ甘なつと」、手頃な価格で人気の「春日山」など、知る人ぞ知る商品を揃えている。日本橋三越や日本橋髙島屋、大丸東京店、伊勢丹新宿店など有力百貨店内にも出店。今年5月現在で首都圏や大阪府に24店舗を展開していた。新宿本店は喫茶店「花園茶寮あんと」も併設し、“100年以上続く老舗菓子店”とメディアにもよく取りあげられた。
だが、伝統と格式高いイメージに反し、会社の体力は年々削がれていった。

バブル期の設備投資が重荷に

 発端はバブル期の不動産の高値掴みに遡る。バブル末期の1992年、小平工場の増改築を計画し、隣接地を約20億円で購入した。資金は金融機関からの借入金を充てたが、この土地がバブル崩壊で暴落した。
 また、2008年に土浦市の新工場建設に際し、小平工場を売却したが、売却価格は購入時の3分の2以下に落ちていた。この不動産の売却資金の大半は借入金の返済に充てたため、土浦新工場の建設費用はほとんどを新たな借入金で調達することが必要になった。

花園万頭本店ビル(新宿区新宿)

花園万頭本店ビル(新宿区新宿)

不運が重なり売上減少

 それでも高いブランド力、顧客の支持を背景に2008年までは売上も約30億円を維持できていた。ところが、東日本大震災を機に消費低迷が広がり、売上げが一気に落ち込んだ。さらに2012年と2014年に東京駅構内に出店した稼ぎ頭の2店舗が、テナントオーナーの変更などを理由に撤退を余儀なくされた。2店舗の撤退もあって2015年6月期の売上高は20億1800万円にまで落ち込んだ。
 最近はスイーツ商材、手土産・贈答用菓子の多様化が進み、新たなヒット商品にも恵まれなかった。「日本一高い」まんじゅうを標榜するだけに高品質の維持は避けられず、原材料費の高騰もあって顧客離れが進み、業績は下降の一途をたどった。

本社ビル売却、給与遅配

 2014年6月期で年商を超える約33億円の有利子負債を抱え、すでに資金繰りは綱渡り状態だった。このため2015年5月に新宿区の本社ビル売却に踏み切った。売却益で有利子負債は半分に減らせたが、売上減少に歯止めはかからなかった。2017年6月期の売上高は19億円まで落ち込み、百貨店や駅ナカ施設のテナント店では一部滞納が生じるようになった。同年秋には管理職の給与遅配も生じ、困窮度合いも末期症状をみせていた。だが、経営陣は自力でスポンサー探しに奔走し、伝統ある饅頭店の破綻を避けようとしていた。

でも「税金は待ってくれない」

 だが、すでに機は失していた。経営改善できないまま、2018年5月31日に破産申請に追い込まれた。
 破産申請した翌日の6月1日、開店直後に取材に訪れた東京商工リサーチ(TSR)に対し、保全管理人事務所の弁護士は開口一番こう答えた。 
「税金だけはどうしても待ってくれないのですよ」

花園万頭 売上高・利益推移

花園万頭 売上高・利益推移

 破産申立書によると、滞納していた消費税、厚生年金保険金は2017年4月~2018年4月末で約1億5000万円に膨れ上がっていた。破産を申請しない限り、売上はすべて滞納分の消費税、保険料として差し押さえられる。工場の稼働も6月1日でストップする。
 「金融機関だけなら、まだどうにかなったかも知れない。しかし、これ以上は無理なんです」(前出の弁護士)

 破産の第一報が報じられた6月1日以降、各店舗には製造停止を惜しむ顧客らが通常の2倍以上訪れ、想定を上回る売上げに店舗の従業員は驚きを隠さない。「花園万頭」や高価格の「ぬれ甘なつと」も翌々営業日までに売り切れる店舗が相次いだ。実店舗だけでなく、ネットストアでも商品を確保できない状態が続いている。
 倒産の報道以来、保全管理人事務所にはスポンサーを検討する企業からの問い合わせが日に数件寄せられ、「(名乗りをあげる)企業が多すぎて、一部はお断りしている状態」(前出の弁護士)という。
 事業継続が報道された4日、店頭に立つ従業員はTSRの取材に安堵の表情を見せていた。だが、この熱気は「倒産」への同情や郷愁から生まれた一過性かも知れない。
 事業計画を見直す機会はこれまで何度もあったはずだ。だが、実際は甘い資金計画など、倒産に至るまでの経緯を紐解けば経営陣の責任は重いと指摘されても仕方ない。
 1つのターミナル駅に高価格商品を扱う店舗を複数出店していることも、再検討の余地を残している。不採算店舗の思い切った撤退など、間もなく決まる新スポンサー企業は大胆な施策を採るだろう。180年以上続く伝統を受け継ぐには多くの課題が山積している。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2018年6月15日号掲載予定「破綻の構図」を再編集)

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