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東芝 東芝メモリの売却後は取引先の見直しやグループ再編に着手へ

 5月17日、(株)東芝(TSR企業コード:350323097、東証2部)は、連結子会社で半導体メモリ事業を担う東芝メモリ(株)(TSR企業コード:023477687)を6月1日に売却すると発表した。売却益は約1兆円を見込む。ただ、半導体メモリ事業は2018年3月期の連結営業利益の約9割を占める。稼ぎ頭を失う東芝は取引先の見直しやグループ会社の再編に着手する方針で、今後、収益力を高められるか注目される。

 半導体メモリ事業の2018年3月末時点の資産総額は1兆5,818億円、負債総額は6,374億円で、単純計算の資産価値は9,444億円(純資産)となる。投資ファンドのべインキャピタルを中心に組成される買収目的会社の(株)Pangea(TSR企業コード:024937533)へ、6月1日に東芝が保有する東芝メモリ株が譲渡される。べインキャピタルの杉本勇次氏(日本における代表者)は2017年10月の会見で、買収スキームを「総額2兆円」と公表している。東芝の売却益は、メモリ事業の資産価値と買収総額の差額である約1兆円となる。
 東芝はPangeaの株式を40%程度保有する方針で、3,505億円程度の出資額となる予定だ。このため、売却に関わるフィーなどを勘案すると、東芝が一連の半導体メモリ事業の売却で得るキャッシュは約1兆5,000億円前後になるもようだ。
 売却により自己資本は大幅に増強され、2016年12月にウエスチングハウスの巨額損失が発覚して以降、くすぶっていた信用不安はほぼ払しょくされることになる。ただ、2018年3月期の連結業績で、半導体メモリ事業を加味した営業利益5,295億円に対し、同事業を除くと641億円にとどまる。半導体メモリ事業が営業利益の9割を稼ぎ出していただけに、売却後の収益は大幅な低下が予想される。

 この点について、車谷暢昭・代表執行役CEOは5月15日の会見で、「今年度は総収益力強化への着手、全社的な事業構造改革を決定していく」と述べている。具体的には、「グローバルの競合と比べて売上原価率に問題がある。調達、設計、製造、販売にフォーカスし、バリューチェーンを見直す。見直しには、全てのリミッター、制約を外す」という。さらに、「グループ会社の数も非常に多い。聖域を設けず全社的な見直しを行いたい」(車谷CEO)と語っており、外注先や協力会社との取引量や条件の見直しを進めると同時に、グループ会社の統廃合にも踏み込む可能性を示唆した。
 中長期的には、東芝メモリ売却で得た資金を社会インフラ事業への投資やM&Aに充てる方針だが、収益力の改善次第では取引先やグループ会社にも影響が出る可能性もある。

会見する車谷CEO(5月15日)

会見する車谷CEO(5月15日)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2018年5月21日号掲載予定「Weekly Topics情報」を再編集)


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