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2017年1-10月「飲食業」の倒産状況

 今年2月から、個人消費喚起を向上させるキャンペーンとして鳴り物入りで、プレミアムフライデーが実施されたが、それを尻目に2017年1-10月の「飲食業」の倒産は634件に達した。前年同期より2割増で推移し、3年ぶりに年間750件を超える勢いをみせている。
 負債総額は、負債1億円以上5億円未満の企業倒産が4割増と負債を押し上げ、10月までですでに前年を上回った。ただし、全体では負債1億円未満の小・零細規模が89.1%を占めた。
 飲食業倒産の増加は、仕入や人手不足による人件費増加などのコストアップが影響しているとみられる。さらに、景気実感の乏しさを背景とした個人消費の鈍さが倒産増加に拍車をかけているとみられる。


  • 調査対象の「飲食業」は、食堂,レストラン、専門料理店、居酒屋などの酒場,ビヤホール、喫茶店、宅配飲食サービス業、持ち帰り飲食サービス業などを含む。

2017年1-10月の「飲食業」倒産、前年同期比19.8%増

 2017年1-10月の「飲食業」倒産は、634件(前年同期529件)で、全体の倒産件数が低水準で推移するなかで、前年同期より2割増のハイペースで推移している。
 このままの状況で推移すると、年間(1-12月)ベースでは、2014年(768件)以来、3年ぶりに750件を上回る可能性が出てきた。

飲食業の倒産 年次推移

負債1億円未満が約9割

 2017年1-10月の負債総額は359億1,500万円(前年同期比22.5%増)で、10月の集計時点で既に前年(1-12月)の負債総額(336億8,100万円)を上回った。
 負債10億円以上の大型倒産は前年同期同数の4件だった一方で、負債1億円以上5億円未満が58件(前年同期比41.4%増、前年同期41件)と大幅に増加したことが影響した。
 ただし、全体では負債1億円未満が565件(構成比89.1%)と約9割を占め、小規模企業倒産がほとんどを占めている。

業種別、居酒屋など「酒場,ビヤホール」が約4割増

 業種別では、最多が「食堂,レストラン」の168件(前年同期比38.8%増、前年同期121件)だった。次いで、日本料理・中華料理・フランス料理店などを含む「専門料理店」が164件(同7.8%増、同152件)、居酒屋などを含む「酒場,ビヤホール」が98件(同38.0%増、同71件)、「喫茶店」が52件(同40.5%増、同37件)とそれぞれ増加が目立った。
 このほか、宅配ピザ店などを含む「宅配飲食サービス」が37件(同8.8%増、同34件)、持ち帰り弁当店などの「持ち帰り飲食サービス業」が18件(同50.0%増、同12件)など。

主な倒産事例、急激な店舗展開が裏目に出たケースが目立つ

 (1)ステーキ店「KENNEDY」を都内中心に27店舗展開していた(株)ステークス(東京、負債13億8,000万円)は、客寄せのための過度な値引きキャンペーンで利益率低下を招き、経営悪化から破産を申請した。
 (2)ピザ専門店「NAPOLI」などを展開していた(株)遠藤商事・Holdings.(東京・負債12億7,000万円)は、500円前後の低価格帯ピザの提供で人気を博し、ピーク時には直営25店舗にFC店を含めて約80店舗を運営していた。しかし、業容拡大の一方で出店費用や人件費、広告費などが嵩んで経営を圧迫、借入金返済も重荷になり破産を申請した。
 (3)宅配ピザ店「10・4(テン・フォー)」を展開していた(株)オーディンフーズ(北海道、負債7億円)は、ピーク時には直営店とFC店で合計200店舗以上を経営していた。しかし、東日本大震災による店舗被害で売上高が減少。その後も同業者や他飲食業者との競合により減収を余儀なくされていた。過去の出店資金が重荷になるなかで民事再生法を申請した。
 (4)(有)grasp diner service(福岡・負債6億円)は、料亭風居酒屋、しゃぶしゃぶ店、イタリア料理店などを約20店舗まで展開し、4億円だった売上高を平成27年には10億円に伸ばすなど急成長していた。しかし、業容拡大の一方で低収益な経営が続き、出店費用が嵩んだほか、人件費や広告費の増加により赤字経営に陥っていた。資金繰りの急激な悪化から破産を申請した。

原因別、販売不振が8割

 原因別では、最多が販売不振の509件(前年同期比15.4%増、前年同期441件)で、全体の8割(構成比80.2%)を占めた。次いで、事業上の失敗が35件(前年同期比66.6%増、前年同期21件)、既往のシワ寄せ(赤字累積)が28件(同9.6%減、同31件)の順。
 形態別では、事業消滅型の破産が589件(前年同期比20.4%増、前年同期489件)と全体の9割(構成比92.9%)を占め、厳しい経営環境を反映した。また、再建型の民事再生法は19件(前年同期17件)、取引停止処分が15件、特別清算が9件と続く。

地区別件数、9地区のうち7地区で増加

 地区別件数では、9地区のうち7地区で前年同期を上回った。増加率は、北海道の214.2%増(7→22件)を筆頭にして、四国33.3%増(6→8件)、近畿27.2%増(154→196件)、関東23.1%増(177→218件)、中国15.3%増(26→30件)、中部6.3%増(79→84件)、九州2.6%増(38→39件)の順。一方、減少は東北20.0%減(15→12件)と北陸7.4%減(27→25件)の2地区だった。


 飲食業は「参入は容易だが、生き残ることが難しい業界」と言われる。さらに、顧客の飽きが早く、次々にブームは起きても冷めやすく、一つのメニューやビジネスモデルが持続する期間が長続きしにくいとの指摘もある。
 2017年1-10月の飲食業の倒産は、前年同期比で2割増で推移して厳しい経営環境を反映したが、東京商工リサーチ調べの飲食業の休廃業・解散企業数でも、2013年の574件以降は、2014年617件、2015年622件、2016年724件と3年連続で増加している。これは、仕入価格や人手不足による人件費の増加などのコストアップが影響しているとみられる。
 さらに、各種経済指標が改善をみせても、消費者の景気上昇の実感に乏しいことも、外食や飲酒など飲食関連に向ける個人消費の伸び悩みの背景として考えられる。いずれにしても年末に向けて、飲食業倒産の増勢が危惧される。

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