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全国「明治創業企業」調査

 2018年(平成30年)は、明治改元の1868年から起算して満150年。政府は「明治150年」に向け資料収集や整理、記念事業などの各種取組みを後押しするため、内閣官房に「明治150年」関連施策推進室を設置した。8月31日には全国から公募した「明治150年関連施策推進ロゴマーク」も決定、明治150年を迎える機運が高まっている。
 東京商工リサーチ(TSR)は、保有する企業データベース(約310万社)から「明治」創業の企業を抽出、分析した。「明治創業企業」は全国で2万1,799社で、全体の1%に満たなかった。
 地区別では、関東が6,679社(構成比30.6%)で最も多く、大都市圏の近畿、中部が上位に並んだ。ただ、明治創業率では北陸(1.3%)がトップで、東北(1.1%)、四国(1.0%)までが1%を上回った。県別では、明治期以降に製糸業が発達した山形県(1.9%)がトップだった。
 明治創業企業の売上高トップは日本生命保険。トップ10に保険会社が3社ランクインしたほか、石油精製、総合商社、製鉄会社などが入った。近代国家の幕開けに創業し、明治、大正、昭和、平成と4世代にわたり日本の産業界をけん引してきた業界大手が多い。


  • 本調査は東京商工リサーチが保有する倒産や休廃業・解散を除く企業データ約310万社から、1868年(明治元年)から1912年(明治45年)の「明治」に創業した企業を対象に抽出し、分析した。

明治創業企業 大都市圏で6割

 明治期に創業された企業は全国で2万1,799社。地区別では、関東が最多の6,679社(構成比30.6%)で、次いで近畿3,703社(同16.9%)、中部3,387社(同15.5%)と続く。東京圏のほか、大阪、名古屋など大都市圏を抱える地区が上位を占め、3地区で約6割を占めた。

明治創業率トップは北陸、地場産業の定着が奏功

 企業数に占める「明治創業率」は、TSRが保有する企業データベース数310万8,091社を母数とした比率では0.7%で、全体の1%未満にとどまった。地区別では北陸が1.3%で最も高かった。
 北陸は、福井県鯖江市のように寒冷期での安定収入を目的に明治期に始まった眼鏡枠製造業が世界有数のシェアを獲得するまでに成長、地場産業として根付いた地域が多いことも背景にある。以下、東北(1.1%)、四国(1.0%)と続いた。
 逆に明治創業率が低い地区は、北海道(8位、0.53%)、関東(9位、0.50%)など。北海道は明治政府の政策で開拓・移住が進められたが、起業や産業発展が他地区に比べ遅れたことが一つの要因として考えられる。関東は戦後の経済成長に伴って創業した企業数が他地区より多く、相対的に明治創業の比率を押し下げたようだ。

地区別 明治創業企業

明治創業企業 都道府県別では「東京都」が最多で約1割

 都道府県別の明治創業企業数は、最多は「東京都」の2,494社(構成比11.4%)だった。2位の「大阪府」の約2倍で、明治期の産業発生は東京が中心だったことを示す。江戸時代から引き続き、明治政府の成立以降も文明開化による西洋化・近代化の中心的役割を果たし、政府主導による殖産興業の推進で多くの企業が創業した。
 次いで、西日本の経済・文化の中心でもあった「大阪府」1,285社(同5.8%)、中部の中心地「愛知県」1,146社(同5.2%)と続く。
 4位は国内有数の米どころで酒造業などが栄えた「新潟県」856社(同3.9%)、5位はかつて都が置かれ、上方文化を担った「京都府」820社(同3.7%)、6位は「明治」と同時に諸外国の文化、産業交流の窓口となった貿易港・神戸を持つ「兵庫県」785社(同3.6%)が入った。

都道府県別の明治創業率トップは「山形県」

 明治創業率が最も高かったのは「山形県」の1.9%で全国平均(0.7%)を大きく上回った。山形県は鋳物や家具など伝統的な地場産業に加え、明治期にヨーロッパから近代的な製糸技術を取り入れ繊維工業が発達した。
 2位は社数で全国4位だった「新潟県」(1.8%)、3位には「島根県」(1.5%)が続いた。
 全体の企業数が多い県ほど相対的に明治創業率は低くなる傾向にある。43位の「千葉県」、44位の「埼玉県」、45位の「東京都」、46位の「神奈川県」と、東京中心の首都圏は40位台の下位に並んだ。最も低かったのは明治創業企業が14社(47位)の「沖縄県」の0.04%だった。
 明治期に創業された都道府県の企業数や創業率は、北海道や沖縄県など各地の歴史的な背景を顕著に示している。

産業別 「製造業」「卸売業」「小売業」で7割

 産業別では、「製造業」が5,456社(構成比25.0%)と最も多かった。次いで、「小売業」5,172社(同23.7%)、「卸売業」4,828社(同22.1%)と続く。上位3産業で全体の7割(同70.9%)を占めた。
 明治期は産業の黎明期でもあった。1872年(明治5年)に日本初の鉄道路線(新橋~横浜間)が開業、国策事業として富岡製糸場(群馬県)も創業した。生糸の生産、海外貿易は順調に伸び、1882年(明治15年)には輸出が輸入を上回り、貿易立国としての礎となった。これに呼応するように製造業の創業が増え、近代化で豊かになった人々の暮らしは劇的に変化した。この流れは産業界でも、卸売業・小売業など内需型の消費関連産業の発達にもつながった。
 一方、最少は「情報通信業」と「金融・保険業」が同数の129社(同0.5%)だった。金融・保険制度が整備され、明治期に創業された金融・保険業は多い。ただ、平成のバブル崩壊後の金融再編などで統合・再編も進み、企業数自体が減少している。

  • 産業、業種分類は現在の主力事業に基づくもので、創業当時の事業とは必ずしも一致しない。

産業別 明治創業企業

業種別 酒関連、建設関連の創業が目立つ

 業種別では、「酒小売業」が462社(構成比2.1%)で最多。「酒」関連では6位に清酒製造業363社、11位に酒類卸売業268社と、上位20位までに3業種(合計1,093社、構成比5.0%)がランクインした。酒の消費は明治以前から人々の生活に密着していたが、近代化で「家業」から「企業」に発展し、生産から流通、販売システムが体系化されたことがうかがえる。
 2位は「貸事務所業」の460社(構成比2.1%)。従来から手がけていた事業の縮小、廃業後の遊休不動産の活用などで現在も不動産事業を継続する企業も多い。3位は建築工事業413社(同1.8%)で、建設関連は8位に土木工事業321社、14位に木材・竹材卸売240社、15位に木造建築工事業231社がランクインしている。
 建設関連の増加は役所施設や一般住宅などの建設需要の盛り上がりが背景にある。上位20位までをみると「衣・食・住」直結の業種が多く、創業にも社会の大きな変化がみてとれる。

明治創業企業 業種ランキング

売上高別 「5億円未満」が約7割

 売上高別は、最多が「1千万円以上1億円未満」の7,144社(構成比32.7%)だった。次いで、「1億円以上5億円未満」が6,532社(同29.9%)、「10億円以上50億円未満」が2,613社(同11.9%)と続く。売上高5億円未満の小規模企業が1万4,679社(同67.3%)と、約7割を占めた。
 売上高トップは日本生命保険(明治22年創業、大阪府)で、6兆4,526億円。以下、JXTGエネルギー(明治21年、東京都)が6兆223億円、住友生命保険(明治40年、大阪府)が4兆1,532億円で続く。
 売上高トップ10に生命保険業が3社、石油精製業が2社ランクインした。また、総合商社の三井物産、製鉄業の新日鐵住金など、近代国家の黎明期から経済大国へと至る日本の経済成長を産業面から支えてきた錚々たる業界大手企業が並んだ。

売上高別 明治創業企業

 明治創業企業は日本の企業数の1%未満に過ぎない。だが、明治政府が「富国」を標榜し、近代的な経済システム導入を進めるなかで生まれた明治創業企業は、歴史の生き証人にとどまらず現在でも大きな影響力を築いている。
 業歴100年を超える企業は、長年にわたり確立した「信用」、顧客や社会からの「信頼」、事業継続に対する「信念」のもとで成り立っている。これらの老舗企業に不可欠な要素は過去の成功体験や固定観念にこだわらず、時代の変遷に対応した事業転換や柔軟な経営方針なのかもしれない。
 国家を揺るがす戦争や景気の浮き沈み、大規模な自然災害を経てもなお事業を承継してきた明治創業企業には、規模の大小を問わず学ぶべき部分が大きい。

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