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ジャパンディスプレイ、2018年3月期は1,700億円の特別損失計上へ

 8月9日、経営再建中の(株)ジャパンディスプレイ(TSR企業コード:294505385、東京都港区、以下JDI)は、3種類の資料を公表した。1つ目は、2018年3月期第1四半期(4-6月)の連結決算。2つ目は、コミットメントライン契約の締結に関するお知らせ。3つ目は、構造改革に関するもの。
同日開催された会見とあわせ東京商工リサーチの独自取材からJDIの現状を追った。

300億円超の最終赤字

 2018年3月期第1四半期の売上高は1,885億円(前年同期比8.2%増)だった。中国向け販売が落ち込んだが、ヨーロッパ向けが好調に推移した。損益は、2016年12月に本格稼働した白山工場(石川県白山市)の減価償却が膨らんだほか、有機ELディスプレイ(OLED)の研究開発費が嵩み、営業利益は144億円の赤字(前年同期は34億円の赤字)となった。
また、事業構造改善費26億円を特別損失で計上し、繰延税金資産75億円を取り崩したため最終利益(親会社株主に帰属する四半期純利益)は314億円の赤字(同117億円の赤字)となった。
このため2017年3月末で35.5%だった自己資本比率は32.8%(純資産額2,967億円)へ低下した。また、第2四半期以降の出荷を見越した在庫積み増しで、在庫保有回転日数は2017年3月期の38日から50日に長期化。現預金残高も822億円から609億円に目減りした。

フリーキャッシュフローが大幅悪化

 2018年3月期第1四半期のフリーキャッシュフロー(C/F)はマイナス216億円で、前年同期のマイナス85億円から大幅に悪化した。また、投資C/Fは240億円改善したが、営業C/Fは前年同期にあった大手スマートフォンメーカーからの前受金がなくなり大幅に悪化した。

JDIのキャッシュフロー(要旨)

JDIのキャッシュフロー(要旨)

1,070億円のコミットメントラインを締結

 JDIはこれまで、みずほ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行と600億円のコミットメントラインを締結していた。だが、2017年6月末で期限が切れ、資金繰りへの影響が注目されていた。
資料によると、8月9日付でみずほ銀行と三井住友銀行をアレンジャー(幹事行)、三井住友信託銀行をコ・アレンジャー(副幹事行)とする1,070億円のコミットメントラインを改めて締結している。
今回のコミットメントラインは無担保だが、産業革新機構(INCJ)が連帯保証している。JDIは、すでにINCJから調達している劣後特約付借入(元本総額300億円)分を含め、INCJに担保を提供している。

構造改革で2018年3月期は特損1,700億円

 構造改革について、過剰な生産能力の処理やOLEDへの投資加速などで、能美工場(石川県能美郡)のスマートフォン用液晶ディスプレイ第5.5世代ラインを2017年12月に停止する。同ラインは、今後、子会社化する予定の(株)JOLED(TSR企業コード:300600798、東京都千代田区)での活用を検討する。
また、国内で240名の希望退職(50歳以上の社員、募集期間:2017年11月6日~2018年1月12日)を募り、海外でも約3,500名を削減し海外製造子会社の統廃合を進める。
これに伴い、2018年3月期(通期)は、事業構造改善費用などで1,700億円程度の損失が発生する見込み。第1四半期では26億円程度しか計上されていないため、第2四半期以降、損失幅が拡大することになる。ただ、JDIは損失計上の具体的な時期は明らかにしていない。
こうした構造改革で年間固定費のうち500億円程度が削減され、損益分岐点売上高は6,500億円程度への低減を見込んでいる。

構造改革の内容を説明する東入來CEO

構造改革の内容を説明する東入來CEO

東入來CEO「選択と捨象を断行する」

 8月9日、午後3時からJDIの東入來信博代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)、大島隆宣執行役員最高財務責任者(CFO)らが都内で会見した。
東入來CEOは、「JDIにとって最後のチャンス。選択と捨象(しゃしょう)による構造改革を断行する」と再生に向けた決意を述べた。そのうえで、車載向けやディスプレイソリューションビジネスなどノンモバイル向けを拡大することで、売上高の約8割を占めるスマートフォンやタブレット端末などモバイル向け販売比率を2022年3月期までに55%程度に引き下げる方針を示した。

2018年3月期の業績予想、資金繰り

 JDI は2018年3月期(通期)の業績予想について、不確定要素が多いとして適示開示を見送っている。
会見で、大島CFOは「前年度より(売上高が)15-25%程度減少する可能性がある」と言及した。前年度(2017年3月期)の連結売上高は8,844億円だったが、6,633億円~7,517億円へ落ち込む見通しだ。この場合、2017年第1四半期の純資産2,967億円の大半が毀損し、財務体質の改善が急務になる。
資金繰りでは、構造改革で2018年3月期に計上予定の1,700億円程度の特別損失のうち、約300億円は現金支出が伴う。
今回、1,070億円のコミットメントラインを締結したが、2017年6月末の期限切れ分より枠が470億円拡大されている。INCJが連帯保証し、INCJはJDIから担保提供を受けて枠を拡大したとの見方もある。担保内容について、大島CFOは「担保は動産や不動産、株式」と述べた。関係筋によると、すでに担保は提供されているという。コミットメントラインの使途は「運転資金」としているが、関係筋では「構造改革による支出への対応も加味されている」と語る。

グローバル企業とのパートナーシップ

 東入來CEOは会見で、FA-OLED(アスペクト比18:9のフルスクリーン有機EL)の量産は、2021年になることを明らかにした。それまでは従来のLCD(液晶ディスプレイ)やFA-LCD(フルスクリーン液晶ディスプレイ)で対応する方針だ。だが、市場関係者からは「市場環境を考えると楽観的過ぎる」との声が上がっている。
また、「グローバル企業とのパートナーシップ構築」も掲げている。パートナーシップは、資本注入を含めた幅広い提携を模索しており、2018年3月期中に決定、2019年3月期以降に実行する方針だ。ただ、会見で東入來CEOは「パートナーはまだ何も決まっていない。まずはPDCAを高速回転させ、構造改革を断行する」と述べるにとどめ、アナリストが「もう少し具体案を示してもいいのではないか」とただす場面もあった。


 JDI は2018年3月期に巨額の最終赤字が避けられず、財務内容が大幅に劣化する。だが、OLEDの競争力維持に持続的な研究開発と設備投資は避けられない。今回のシンジケートローン枠の1,070億円は、あくまで「緊急避難」に過ぎず、抜本的な打開策には外部からの資本注入も選択肢として視野に入ってくる。
だが、今回のコミットメントライン契約では、INCJのJDIに対する株式等保有割合が20%以下、もしくは第三者のJDIに対する株式等保有割合が20%以上となった場合(支配権変動事由)、JDIがINCJより調達している750億円(新株予約権付社債450億円、劣後特約付借入300億円)の期限利益を喪失することをJDIとINCJで合意している。
これはグローバル企業とパートナーシップを締結し、JDI株式の20%以上を相手が保有した場合、INCJに750億円の返済を求められる可能性があることを意味する。資本提供側からすると、注入金額のうち750億円が「流出」することになる。パートナー選定に高いハードルになる可能性がある。

また、INCJや経済産業省との距離感も注目される。東入來CEOは、「(JDIに経営者として)入る時に1つ約束があった。ガバナンスと執行はきっちりと分けてくれと頼んだ。ガバナンスと称して執行に入られては困ると言った。ただ、ファンドとしては何が起きて、どんなことが進捗しているのかを把握したいと思うので、きちんと説明すると伝えた」と語った。

東入來CEOの構造改革への決意は固いものがある。だが、コミットメントラインやグローバル企業とのパートナーシップ戦略など、INCJやステークホルダーの意向に翻弄されている側面も見え隠れする。
日本の威信をかけた「日の丸ディスプレイ」が復活できるか、まだ紆余曲折の日々が続く。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」8月15日号掲載「WeekyTopics」を再編集)

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