• TSRデータインサイト

東芝のフリー・キャッシュフローが500億円のマイナスに

 5月15日午前、(株)東芝(TSR企業コード:350323097、東証1部)は2017年3月期の業績見通しを適時開示で公表した。PwCあらた有限責任監査法人と海外原子力事業での損失の認識時期に関して調整が続いているため、決算短信でなく東芝の見解に基づく異例の数値公表となった。

準備が進む会見場(5月15日午後撮影)

準備が進む会見場(5月15日午後撮影)

2017年3月期のフリー・キャッシュフローはマイナス500億円

 同日、14時から東芝本社で綱川社長と平田専務が出席し記者会見が行われた。会見の冒頭、綱川社長が「ステークホルダーにご心配をおかけし、深くお詫びする」と述べた。会見が終了した15時過ぎから、綱川社長が退席してアナリスト向け説明会が開催された。
 3月29日(アメリカ現地時間)に、原子力子会社のウェスチングハウス(アメリカ、以下WH)と東芝原子力エナジーホールディングス(イギリス)が連邦破産法第11章(以下チャプター11)を申請したため、過去の決算を含めてこのグループを非連結化した業績数値として説明がなされた。
 2017年3月期の連結売上高は4兆8,700億円(前期5兆1,548億円)で、5.5%の減収となった。構造改革によるパソコン、テレビ事業の縮小や円高が響いた。損益面は、営業利益ベースで2,700億円の黒字(同4,830億円の赤字)を計上したが、WHなどの海外原子力子会社のチャプター11申請に伴う損失計上などで、当期純利益は9,500億円の赤字(同4,600億円の赤字)になった。これに伴い期末時点の株主資本はマイナス5,400億円、純資産はマイナス2,600億円で、債務超過に転落した。期末時点の為替レート(ドル円)は112円で換算。
 フリー・キャッシュフロー(以下FCF)は500億円のマイナスだった。2月14日に東芝は2017年3月期のFCFがほぼゼロになる可能性を示唆していたが、500億円悪化したことになる。これについて平田専務は、「WH独自の資金調達に東芝が現金を差し入れていた。(チャプター11の申請により)WHが連結除外となり、東芝からみると現金がなくなったことになる」と説明した。
 出席者から、一連の巨額損失で東芝の信用力が低下し取引先からキャッシュの差入や早期の回収を迫られたのではないか、との質問が出された。これに対し、平田専務は「若干そういう面もあるが、サプライヤーや販売先に状況を説明し、(キャッシュフローに)大きな影響を起こさずに済んでいる」と答えた。

東芝が入居するビル

東芝が入居するビル

2018年3月期のフリー・キャッシュフローはマイナス6,700億円

 東芝は現在、半導体子会社の東芝メモリ(株)(TSR企業コード:023477687、東芝の議決権保有割合100%)の過半売却、スマートメーター製造のランディス・ギア(スイス、同60%)の売却を検討している。だが、まだ不確定要素が多く、2018年3月期の業績見通しはこれらを連結対象として公表した。
 それによると、売上高は4兆7,000億円、営業利益は2,000億円の黒字を見込んでいる。想定為替レートは100円に設定した関係で、売上高で2,000億円、営業利益で700億円の悪化要因が生じる。
 FCFは、WHのチャプター11申請による親会社保証の一部履行や半導体メモリ事業での設備投資から、マイナス6,700億円の見通しを立てている。こうした対応について平田専務は、「メイン、準メインの3行に4,000億円、その他7行に2,800億円の借入枠を取っている。また、東芝メモリの売却をスムーズに行う」とコメントした。

東芝メモリ売却の行方

 東芝は、債務超過の解消と資金繰り安定化に向け、東芝メモリを早期に売却する意向だ。
 ただ、5月14日に半導体メモリ事業の協業先であるウエスタンデジタル(アメリカ、以下WD)が、国際仲裁裁判所に売却の差し止めを申し立て、事態は混迷を深めている。
 東芝は、4月1日付で東芝メモリを設立し、半導体メモリ事業の子会社持分の移管を進めてきた。大半の移管は進んでいるものの、Flash Forward合同会社(TSR企業コード:522143881、三重県)の移管は完了していない。合同会社は、業務執行社員が出資者となる。Flash Forwardの業務執行社員は、東芝とサンディスクフラッシュ・ビーヴィで、持分はそれぞれ50.1%、49.9%だ。
 5月10日に東京商工リサーチの取材に対して東芝担当者は、「登記上の(移管)手続きは完了していないが、オペレーションの移管は順調に進んでいる。登記上の移管手続きがいつ完了するかはコメントできない」と回答していた。5月16日午前10時現在、登記変更は完了していない。

Flash_Forwardの商業登記(一部加工)

Flash_Forwardの商業登記(一部加工)

 東芝メモリの2次入札は5月19日に締め切られる予定だ。5月15日の会見で綱川社長は、締め切り日について「変更の予定はない」と述べている。ただ、WDとの対立混迷が入札に影響を与える可能性も排除できず、当面は流動的な状況が続きそうだ。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報 全国版」2017年5月17日号掲載の「Weekly Topics」より再編加工)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2024年度「人手不足倒産予備軍」  ~ 今後は「人材採用力」の強化が事業継続のカギ ~

賃上げ圧力も増すなか他社との待遇格差で十分な人材確保ができなかった企業、価格転嫁が賃上げに追い付かず、資金繰りが限界に達した企業が事業断念に追い込まれている。  こうした状況下で「人手不足」で倒産リスクが高まった企業を東京商工リサーチと日本経済新聞が共同で分析した。

2

  • TSRデータインサイト

2025年1-11月の「人手不足」倒産 359件 サービス業他を主体に、年間400件に迫る

深刻さを増す人手不足が、倒産のトリガーになりつつある。2025年11月の「人手不足」倒産は34件(前年同月比70.0%増)と大幅に上昇、6カ月連続で前年同月を上回った。1-11月累計は359件(前年同期比34.4%増)と過去最多を更新し、400件も視野に入ってきた。

3

  • TSRデータインサイト

【社長が事業をやめる時】 ~消えるクリーニング店、コスト高で途絶えた白い蒸気~

厚生労働省によると、全国のクリーニング店は2023年度で7万670店、2004年度以降の20年間で5割以上減少した。 この現実を突きつけられるようなクリーニング店の倒産を聞きつけ、現地へ向かった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年1-11月の「税金滞納」倒産は147件 資本金1千万円未満の小・零細企業が約6割

2025年11月の「税金(社会保険料を含む)滞納」倒産は10件(前年同月比9.0%減)で、3カ月連続で前年同月を下回った。1-11月累計は147件(前年同期比11.9%減)で、この10年間では2024年の167件に次ぐ2番目の高水準で推移している。

5

  • TSRデータインサイト

地場スーパー倒産 前年同期の1.5倍に大幅増 地域密着型も値上げやコスト上昇に勝てず

2025年1-11月の「地場スーパー」の倒産が22件(前年同期比46.6%増)と、前年同期の約1.5倍で、すでに前年の年間件数(18件)を超えた。

TOPへ