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農薬・肥料メーカー264社の動向調査

 9月26日、安倍首相は所信表明演説で「生産から加工・流通まであらゆる面で農業改革を進める」と述べた。環太平洋経済連携協定(TPP)の承認と関連法案の成立、早期発効を見据え「攻めの農林水産業」への姿勢を打ち出した。これに先立ち、9月13日に開催された規制改革推進会議では農業の「生産資材価格形成の仕組みの見直し」を重要課題に掲げている。
 国内で流通する農薬や肥料、トラクターなどの生産資材は、諸外国と比べ割高で農業の国際競争力を削いでいるとの指摘もある。こうした裏側ではTPP参加に向け、生産資材の価格を引き下げ、農作物の価格競争力を向上させたい政府の意向も見え隠れしている。
 東京商工リサーチでは農薬・肥料メーカー264社の業績動向を調査した。2015年度の売上高合計は6,389億5,000万円で2期連続で減少し、利益合計は236億8,100万円だった。
 資本金別では、1億円以上の35社(構成比13.2%)の売上高合計が4,989億3,000万円で全体の78.0%を占めた。また、業歴5年未満の企業はなく、5~10年未満も3社(同1.1%)にとどまり、大手と地域密着の中堅企業が共存する独特の市場が形成されていることがわかった。


  • 本調査は東京商工リサーチ(TSR)の309万社の企業データベースから、主業種を「農薬製造業」、「化学肥料製造業」、「有機質肥料製造業」とする企業で、業績が3期連続で比較可能な264社を抽出し、分析した。
  • 2015年度は2015年4月~2016年3月の決算期。利益は原則として当期純利益を示す。

「増収」企業は31社減少

 2015年度の売上高合計は、6,389億5,000万円(前期比0.4%減)で、前期から31億2,000万円減少した。
 2014年4月の消費税増税の駆け込み需要の反動から減収を強いられ2014年度の売上高合計は大幅に減少。2015年度は復調が期待されたが、国内農家向けの販売が苦戦し、2期連続の減収となった。
 増減収別では、2015年度の「増収」企業は111社(構成比42.0%)で2014年度の142社(同53.7%)から31社減少した。
 「増収」企業の減少と「減収」企業の増加が全体の売上高の減少につながったとみられる。

農薬・肥料メーカーの業績

「黒字」企業は8割超

 2015年度の「黒字」企業は221社(構成比83.7%)で、「赤字」は43社(同16.2%)だった。黒字企業の構成比は2014年度の85.6%、2013年度の84.8%、と80%台の推移が続いている。
 利益を売上高で除した当期純利益率は、2015年度が3.7%、2014年度は3.5%、2013年度は3.7%と、ほぼ横ばいで推移している。

売上高別分布 10億円未満が7割超

 売上高別分布をみると、1~5億円未満が87社(構成比32.9%)で最多だった。次いで、1億円未満75社(同28.4%)、10~50億円未満42社(同15.9%)の順。売上高10億円未満が198社(同75.0%)と全体の7割を中堅以下の企業が占めた。

資本金別 1億円以上が1割超

 資本金別では、1~5千万円未満が最多の149社(構成比56.4%)を占めた。1億円以上の企業は35社(同13.2%)にとどまったが、売上高合計は4,989億3,000万円で全企業の売上高合計の78.0%に及んでいる。

農薬・肥料メーカー 資本金別

業歴別 5年未満の企業はゼロ

 業歴別では、10~50年未満が最も多く138社(構成比52.2%)と半数を占めた。次いで、50~100年未満の80社(同30.3%)が続き、100年以上は7社(同2.6%)に過ぎなかった。
 一方、5年未満の新規参入企業はゼロ、5~10年未満が3社(同1.1%)で、新規参入が極端に少ない業界構造となっている。

農薬・肥料メーカー 業歴別

全農系のクミアイ化学工業(株)がトップ

 売上高のトップは、農薬メーカーのクミアイ化学工業(株)(東京都)の536億9,300万円だった。同社は1928年創業の柑橘同業組合(静岡県)の流れを汲み、1949年に法人化。以降、全国農業協同組合連合会(全農)との連携を強化し、2015年度も前期比9.7%の増収となった。売上高上位10社のうち、全農系の企業はクミアイ化学工業(株)と6位のホクレン肥料(株)(北海道)の2社。

農薬・肥料業界の企業倒産 2013年度以降は毎年5社未満

 2015年度(4-3月)の農薬・肥料メーカーの倒産は4社、負債総額は35億7,000万円だった。2013年度以降は5件未満で推移し、倒産は小康状態にある。


 2015年度の農薬・肥料メーカーの売上高合計は、6,389億5,000万円(前期比0.4%減)と2期連続で減少した。海外向け販売は好調を維持したが、国内は天候不順に加え、2015年末に発覚した有機肥料の成分偽装表示による信頼性の低下もあり、販売が落ち込んだ。
 日本農業法人協会の調査によると、日本の肥料価格は韓国より平均約2倍、農薬は同3倍高いという。原材料や品質に違いがあるため単純比較は難しいが、流通銘柄の多さや日本独特の流通慣習が価格を押し上げている可能性もある。
 また、農薬・肥料メーカー264社のうち、業歴5年未満がゼロ、10年未満も3社と、新規参入が少ない市場背景の検証も必要だろう。新規参入が少なく既存市場が固定化することで、競争原理が失われ、新陳代謝の起こりにくい構造が既存業界の変化をより遅らせるスパイラルに陥っているかもしれない。
 2015年度の農林水産物の輸出額は7,451億円(財務省貿易統計)で、3年連続で前年を上回り、政府は2019年度までに1兆円へ引き上げる方針を示している。そのためには、安全性や高い品質の確保によるブランド力の向上、価格競争力の強化がカギとなる。
 現在、世界的にみて高品質とされる日本ブランドの農産物は、きめ細かい消費者ニーズに対応した生産者の熱意と技術革新、そして多様な農業資材に支えられている。日本の肥料銘柄は多品種少量生産で高価格という命題を抱えている。世界に誇る安全性と高い技術力を活かした多品種な「ガラパゴス肥料」は、新興国の農業支援の大きな力になりうる。外需の取り込みにより生産量を上げて低価格化に取り組むことも検討すべきだ。
 農業改革は流通価格だけでなく、農業資材メーカー再編によるスケールメリットの追求、農薬や肥料など農業資材の輸出拡大による生産コスト削減など、あらゆる方面からの議論が必要な時期を迎えている。

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