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2015年「電力事業者」の新設法人調査

 2015年(1-12月)に全国で新しく設立された法人 (新設法人)12万4,996社のうち、電力事業者は前年比33.4%減の2,189社だった。調査を始めた2009年以降、初めて電力事業者の新設数が前年を下回った。これは再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)の固定価格買取制度(FIT)のうち、太陽光の買取価格が段階的に引き下げられ市場拡大が鈍い中で投資の費用対効果を見出せず新たなビジネスモデルとして厳しいとの見方が広がったことが影響したとみられる。


  • 本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象309万社)から、2009-2015年に新しく設立された法人データのうち、日本標準産業分類に基づく中分類「電気業」を抽出し、分析した。

2015年の新設法人数は前年比33.4%減

 2015年(1-12月)に全国で新設された電力事業者は2,189社(前年比33.4%減、前年3,288社)だった。調査を始めた2009年以降、新設法人数は東日本大震災で原発事故が発生した2011年は70社にとどまったが、FITが導入された2012年から増加ペースが急伸。2014年は最多の3,288社を記録した。しかし、太陽光発電の固定買取価格の段階的な引き下げや市場への参入企業の過剰感から2015年は一転、大幅な減少に転じた。

電力事業者 新設法人年間推移

利用エネルギー別 太陽光関連が前年比42.5%減少

 2015年に新設された電力事業者2,189社のうち、営業目的を利用エネルギー別に分類すると、主な事業内容が「太陽光」、「ソーラー」(以下、太陽光)とする新設法人は1,461社(前年比42.5%減)で前年より4割減少した。

電力事業者 新設法人利用エネルギー別

資本金別 「1百万円未満」が5割を占める

 資本金別では、「1百万円未満」が1,152社(構成比52.6%)と5割を占め、小規模資本での参入が大半であることがわかった。「1千万円以上」は179社(同8.1%)にとどまった。

地区別 北陸を除く全ての地区で減少

 本社所在地の地区別では、関東が1,190社(構成比54.3%)、近畿が229社(同10.4%)、九州が211社(同9.6%)と続き、上位3地区で7割を超えた。
 増減率では、2014年に大幅に増加した反動で、近畿が前年比60.9%減と大幅に減少した。また、九州は日照条件の良さと遊休地に恵まれメガソーラー(大規模太陽光発電所)事業が集積するが、太陽光ブームの陰りを受けて同51.3%減と半減した。

都道府県別 40都道府県で前年比減少

 都道府県別では、東京都が776社(構成比35.4%)で突出している。次いで、大阪府の98社(同4.4%)、千葉県の83社(同3.7%)栃木県の82社(同3.7%)と続いた。栃木県は、太陽光発電所の設置を目的とした合同会社の設立が相次ぎ、新設数は前年比74.4%増と急増した。
 前年より新設数が増加したのは、青森県、栃木県、富山県、石川県、京都府、奈良県、鳥取県の7府県にとどまり、40都道府県は減少した。

都道府県別 電力事業者 新設法人

法人格別 「合同会社」が5割を超える

 法人格別では「合同会社」が1,201社(構成比54.8%)で最多だった。
 合同会社は株式会社よりも設立コストが安く、決算公告が不要で、株主総会を開催する義務等がなく意思決定が速いメリットがあり、近年増えている。
 電力事業者の場合、個別発電所の事業運営を目的としたSPC(特定目的会社)が多く、メガソーラー関連の企業が発電設備ごとに同一住所地に複数の合同会社を設立するケースもある。


 2011年の東日本大震災を受けて2012年7月に導入された再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)を契機に、電力事業を目的とする新設法人が一気に増えた。多くは「太陽光」や「ソーラー」を利用エネルギーとする企業が占めている。電力事業者の新設数は、2010年までは年間30社前後で推移していたが、2013年は1,793社と急激に増加し、2014年は前年比1.8倍増の3,288社に達した。
 だが、太陽光の買取価格は他の電源よりも高く、電気料金の値上げに繋がる側面が指摘され、買取価格は段階的に引き下げられた。また、2014年には電力会社が再生可能エネルギーの買い取りを一時的に見合わせ、業界に混乱も広がった。
 電力供給の落ち着きや新設法人数の急増で電力市場は参入過剰感もあり、2015年の電力事業者の新設数は2,189社と前年よりも33.4%減少した。特に、一時は電力業界の花形のように扱われた「太陽光」や「ソーラー」を利用エネルギーとする新設法人は1,461社(前年比42.5%減、前年2,545社)とほぼ半減。大きな転換点に差し掛かっている。
 2016年5月、事業計画の認定制度や買取価格の設定方法を抜本的に見直す改正再生エネルギー特別措置法が成立した。FIT導入以降、政策主導で形成された「太陽光バブル」は沈静化し、新設法人数はさらに減少する可能性がある。
 同時に、関連事業者の淘汰も懸念される。東京商工リサーチの調査では「太陽光関連事業者(※下記参照)」の2016年1-7月累計の倒産件数は37件で、調査を開始した2000年以降では最多を記録した2015年(1-12月)の54件を上回るペースで推移している。
 開業ラッシュをみせた再生可能エネルギービジネスだが、太陽光発電を中心に閉塞感を漂わせている。今後は、太陽光から地熱やバイオマスなど、その他の再生可能エネルギーに主要市場が移行するとみられる。また、安易な事業計画で新規参入した企業や想定した業績に達せず過剰投資に陥った関連事業者は再編や淘汰の動きが加速する可能性があり、動向を注視する必要がある。

  • 太陽光、ソーラーシステム装置の製造、卸売、小売を手がける企業や、同システム設置工事、コンサルティング、太陽光発電による売買電事業等を展開する企業(主業・従業問わず)を「太陽光関連事業者」と定義。

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