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「スポーツ用品専門店2,887社の業績動向」調査

 8月5日、リオデジャネイロオリンピックが開幕する。4年に一度のスポーツの祭典に世界中の注目が集まり、オリンピックを一大商機とスポーツ関連企業の寄せる期待も大きい。
 東京商工リサーチは、リオオリンピックを前にスポーツ用品専門店を運営する全国2,887社を対象に、業績動向を調査した。これによると最新決算の売上高合計は1兆38億9,000万円(前期比2.3%増)で、2期連続で増加した。ランニング、フィットネス、アウトドアなどのブームを背景に大手が売上高を伸ばし、業界全体を牽引した。ただ、最新決算の利益合計は72億8,900万円(同37.4%減)と、価格競争の激化などで2期連続で減益だった。
 売上高トップはアルペン(名古屋市中区)の2,165億円で単体ベースでは断トツ。2位のゼビオ(郡山市)のグループ売上高は2,000億円を超え、業界の2強を形成している。一方、売上高が1億円未満の企業が7割、個人企業が3割を占めるなど、小・零細企業が大多数を占める業界構造も鮮明になり、大手チェーンの市場寡占化がより強まっていることが浮き彫りになった。


  • 本調査はTSR企業データベース(309万社)から、主業種が「スポーツ用品小売業」のうち、業績が3期連続で比較可能な2,887社を抽出し、分析した。 売上高、利益金は2015年度を最新決算としている。

売上高合計は増加も「増収」企業は105社減

 2,887社の売上高合計は、最新期で1兆38億9,000万円(前期比2.3%増)で、前期から229億8,000万円増加した。前々期から前期は219億1,600万円(同2.2%増)増加しており、ほぼ同ペースでの増収幅となった。
 一方で、最新期の「増収」は680社(構成比23.5%)と2割にとどまり、前期(785社、構成比27.1%)から105社減少した。
 また、前期より「減収」は44社減少し、「横ばい」が149社増加した。「減収」と「横ばい」の合計は2,207社(構成比76.4%)で、4分の1の業績好調な「増収」企業が牽引して業界全体の売上高を押し上げた格好だ。
 利益が3期連続で判明した953社の最新期の最終利益の合計は72億8,900万円(前期比37.4%減)だった。前期(116億5,800万円)より43億6,900万円減少し、前々期(150億400万円)からは半減した。ネット通販の台頭などで価格競争が激化し、売上増の一方で利益率は低下の一途をたどっている。

スポーツ用品小売業 業績動向

「黒字」企業は8割超

 最新決算(判明1,216社)が「黒字」は1,042社(構成比85.6%)で、「赤字」は174社(同14.4%)だった。黒字企業の構成比は前期(同84.7%)、前々期(同84.4%)と、ほぼ変わらない。また1,216社のうち、3期連続で黒字は719社(構成比59.1%)で、収益基盤が安定した企業が6割を占めることもわかった。

売上高別分布 1億円未満が7割

 スポーツ専門店2,887社の最新決算のうち、売上高1億円未満は2,132社(構成比73.8%)と、約7割を占めた。1店舗から数店舗の運営にとどまる小・零細企業が圧倒的に多い。次いで、1~5億円未満(601社、同20.8%)が約2割と続き、5~10億円未満(77社、同2.6%)、10~50億円未満(55社、同1.9%)は数%にとどまる。
 売上高5億円未満が2,733社(構成比94.6%)と全体の9割以上を占め、小・零細規模が大多数を占める業界構造が特徴だ。
 売上高100億円以上は12社(同0.4%)にとどまった。全国展開している大手が中心だが、スポーツ全般を扱う総合店と、ゴルフ、アウトドアなど専門分野に特化して展開し一定のシェアを維持している企業に大別される。

アルペンとゼビオグループが業界2強

 売上高ランキングのトップはアルペン(名古屋市中区)で、売上高は2,165億3,100万円だった。スキー用品専門店からスタートし、総合スポーツ店「SPORTS DEPO」、ゴルフ専門店「GOLF5」など国内外に約440店舗を展開する。2位のゼビオ(郡山市)は695億1,200万円(持株会社体制への移行に伴う6カ月決算)。ただし、売上高5位のヴィクトリア(売上高339億6,500万円)、6位ゴルフパートナー(同226億100万円)などとゼビオホールディングス(東証1部)の子会社としてゼビオグループを形成、同グループの連結売上高は2,213億9,100万円(2016年3月期)となり、トップのアルペンの単体売上高を上回る。スポーツ用品小売業界ではアルペンとゼビオグループが売上高では圧倒的な2強時代に入っている。3位のメガスポーツは小売大手イオンの出資を受け、総合スポーツ店「スポーツオーソリティ」を展開している。
 トップ10のうち、上位は郊外型ショッピングモールに大型店舗を全国展開する大手企業が並んだ。一方、下位は全国展開でもゴルフ、釣り、アウトドアなど専門分野で存在感を発揮する企業が多い。
 トップ10社の最新決算の売上高合計は5,399億4,200万円で、全体(1兆38億9,000万円)の約5割(53.7%)を占めた。知名度や集客力、スケールメリットによる価格競争力に勝る大手企業の市場占有率は高い。また、持株会社体制への移行で売上高の前期比較ができないゼビオを除く上位20社の売上高合計は、前期比2.7%増で、全体(前期比2.3%増)を0.4ポイント上回った。大手企業の業績好調が業界の売上拡大を牽引しているが、反面、大手による市場の寡占化が進んでいる結果と捉えることもできる。

資本金別 1,000万円未満と個人企業で約7割

 資本金別の内訳では、1百~1千万円未満が1,098社(構成比38.0%)で約4割を占めた。以下、個人企業他996社(同34.5%)、1~5千万円未満が736社(同25.4%)と続く。
 資本金1千万円未満と個人企業他で2,107社(同72.9%)と約7割を占めた。地域密着型のスポーツ用品店として個人商店規模で展開する企業が圧倒的で、広い売り場面積と豊富な商品力を誇る大手チェーンにどう対抗するかが課題になっている。

スポーツ用品小売業 資本金別

業歴別 前回東京五輪を契機に企業数は増加

 業歴別では、10~50年未満が1,999社(構成比69.2%)で約7割を占めた。次いで50~100年未満が680社(同23.5%)、5~10年未満が123社(同4.2%)と続く。
 設立年代別では1950年代が197社だったのに対し、1960年代(335社)、1970年代(656社)、1980年代(549社)と加速度的に設立企業数が増加した。高度経済成長で家庭のレジャー支出が上向いた社会情勢に加え、1964年開催の東京オリンピックを契機にスポーツ、レジャー産業の市場拡大を背景に、企業数も増加した。
 また、業歴100年以上の企業は52社(構成比1.8%)だったが、多くは呉服店として創業し、スポーツ用品に扱い品を変更した企業、鉄砲店として創業して現在でも猟銃やスポーツライフルの専門店を経営している企業などが中心。


 スポーツ用品市場は、従来は学校用品需要に依存する側面が高く、少子高齢化の影響を受けて市場の伸び悩みが懸念されてきた。しかし、昨今のランニング、アウトドアブームなどで売上は拡大基調に推移、専門店の売上高は2期連続で増加した。一方、利益は2期連続で減少し、前々期から半減した。家電製品と同様、店舗で確認しネットで最安商品を購入する「ショールーム化」が進み、低価格競争による利益率の悪化を招いているとみられる。
 矢野経済研究所の調査によると2015年のスポーツ用品国内市場規模(メーカー出荷金額ベース)は前年比3.4%増の1兆3,964億5,000万円、2016年も前年比2.3%増を予測している。リオデジャネイロオリンピック後も2020年の東京オリンピック開催を控え、スポーツへの関心の盛り上がりやブームがますます高まりをみせ、市場拡大への期待は大きい。
 ただ、スポーツ用品専門店の7割が売上高1億円未満の小・零細企業で、売上高上位10社の合計が全体の5割を占めるなど、圧倒的な存在感を持つ大手による寡占化が進んでいる。地域密着型で学校用品需要に依存する小規模店も多く、こうした小規模店はネットモールへの出店など、販路拡大が鍵となっている。一方、多大な設備投資を要する大規模店はネットに顧客を奪われないための囲い込み策が課題で、オリンピックに湧く市場だが生き残りをかけた施策が求められている。

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