2015年「合同会社」の新設法人調査
2015年(1‐12月)に設立された「合同会社」は2万2,053社で、調査以来、初めて2万社を超えた。2015年に全国で新たに設立された法人(以下、新設法人)は、12万4,996社(前年比4.5%増)だった。このうち、合同会社が新設法人数に占める割合は17.6%(2014年16.5%)で、前年を1.1ポイント上回り、過去最高を更新した。新設法人のうち、「株式会社」は全体の約7割(71.8%)を占めるが、合同会社も2011年(8,990社)と比べ約2.5倍と急増し、新設法人の6社に1社が合同会社となった。
2006年5月1日施行の会社法で「有限会社」が廃止され、新たに「合同会社」が設けられた。「合同会社」は1円から出資や財産拠出ができ、設立時の登録免許税も株式会社に比べ半分以下でも可能だ。また、設立までの手続き期間が短く、設立後も株主総会の開催や取締役の設置、決算公告の必要がないなど制約が少なく、会社運営の自由度が高い。そのため幅広い業種に浸透し、新設法人数は増加をたどっている。
- ※本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象309万社)から、「合同会社」として2015年に新しく設立された法人データを抽出し、分析した。
新設法人の6社に1社が合同会社
2015年の新設法人のうち、合同会社は2万2,053社で、前年比11.2%(2,226社)増加した。ただし、増加率は2014年(前年比36.6%増)に比べ、25.4ポイントと大きく低下した。
新設法人に占める構成比では、合同会社は2011年の8.8%から2015年は17.6%に2倍増し、新設法人の6社に1社が合同会社となった。一方、株式会社は2011年の79.9%から年々減少をたどり、2015年は71.8%へ8.1ポイント低下した。
産業別 10産業のうち9産業が増加
10の産業に分けた産業別の前年比較では、金融・保険業を除く9産業で増加した。増加率が最も大きかったのは不動産業で42.2%増。次いで、卸売業の40.2%増、運輸業の35.9%増と続く。不動産業は低金利の中、需要増を見込んだ設立が増加したようだ。一方、金融・保険業は24.6%減で前年を下回り、2014年の急増(70.7%増)の反動が出た格好だ。
業種別 不動産業が2年で倍増
産業別をさらに細分化し45の業種に分けた業種別では、不動産業が3,766社(構成比17.0%)で最も多かった。2013年1,761社、2014年2,649社と急速に増加している。不動産業は将来の需要増を見込み、設立が容易で、維持費用も安い合同会社が選ばれているようだ。次いで、学術研究,専門・技術サービス業が2,747社(同12.4%)だった。
2014年に急増した電気・ガス・熱供給・水道業(前年比179.9%増)は、一転して33.9%の減少となった。2014年まで増加した背景には、2015年4月の再生可能エネルギーの買取価格の引き下げを前に、設備認定を受けるための申請の前段階として法人設立を急いだことがあげられる。しかし、買取価格の引き下げ後の2015年4月以降は設立ラッシュが一服した格好となった。
都道府県別 新設法人数は東京が最多
都道府県別では、最多は東京都の7,623社(前年比14.5%増、構成比34.5%)。次いで、神奈川県が1,662社(同24.0%増、同7.5%)、大阪府が1,353社(同10.3%増、同6.1%)、埼玉県が1,089社(同47.0%増、同4.9%)、千葉県1,012社(同11.6%増、同4.5%)の順。
東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県で新設された「合同会社」は1万1,386社(前年比18.0%増)で、全体の半数(構成比51.6%)を占めた。
一方、岩手県、福島県、秋田県、宮城県の東北4県は減少に転じ、復興需要の一巡を浮き彫りにした。また、兵庫県や島根県、佐賀県、大分県など西日本で減少が目立ち、合同会社の設立は東高西低となっている。
資本金別 1百万円未満が約5割
資本金別では、「1百万円未満」が1万1,221社(前年比0.2%増)と最も多く、「1百万円以上5百万円未満」が8,121社(同18.6%増)、「5百万円以上1千万円未満」が2,551社(同57.2%増)と続く。資本金5千万円以上はわずか16社(構成比0.07%)にとどまった。資本金500万円未満が87.7%(その他含む)を占め、合同会社は少額の資本金で設立されていることがわかった。
地区別 東北や近畿、中国は減少へ
地区別では、9地区のうち6地区で合同会社の新設が前年を上回った。増加率では、関東が前年比19.5%増(1万362→1万2,387社)で最も高く、山梨県や茨城県、埼玉県で増加が目立った。
一方、東北や近畿、中国地区は前年を下回った。減少率が最も大きい中国地区は島根県の減少が響いた。
合同会社の増加は、資産管理や副業、節税などを目的とした設立が背景にあるとみられる。設立までの手続き期間が短く、設立費用が少ないというメリットもある。また、合同会社は、会社の所有と経営が一体であるため、迅速な意思決定が特徴になっている。出資比率に関係なく、利益を配分することも可能で、研究関連やベンチャー企業などに適している。
新設法人全体の増加率は2011年に22.4%増加した以降、4年連続して1桁の増加率にとどまり、頭打ち感は否めない。合同会社の新設法人数は2桁の増加率を続けており、政府が掲げる開業率の上昇になくてはならない存在となっている。
合同会社は新しくできた法人格のため一般的に知名度は低いが、メリットの浸透とともに今後も新設法人の増加をけん引していくとみられる。ただ、簡単に設立できる合同会社の利点は逆に悪用されることがある。個人との契約でなく、個人が設立した合同会社と契約することで法人取引(BtoB)に見なされ、消費者保護を図る規制をかいくぐることも可能である。
起業家などのニーズに合っている合同会社だが、普及とともにメリットが悪用されることもある点は注意すべきだ。