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2015年度「不適切な会計・経理を開示した上場企業」調査

 2015年度(2015年4月‐2016年3月)に「不適切な会計・経理」を開示した上場企業は58社(58件)で、2007年4月の調査開始から年度ベースで最多を記録した。
 開示企業は、東証1部が29社で全体の半数を占めた。発生当事者別は、「子会社・関連会社」が26社(構成比44.8%)と、前年度(16社)から10社増加した。具体的な内容では、「誤り」など単純なミス以外に、「着服」、「業績や営業ノルマ達成を動機とする架空売上」、「循環取引」など、コンプライアンス意識の欠落や業績低迷を糊塗した要因が多かった。
 産業別では、前年度に続き製造業が最も多く、国内外に製造拠点や営業拠点を多く展開するメーカーに不適切会計が集中した格好となった。
 監査法人等による厳格な監査が進められるなか、(株)東芝(TSR企業コード:350323097、法人番号:2010401044997、港区)の不適切会計など、大手企業の不適切会計が相次いで発覚しており、企業のコンプライアンスが改めて問われている。


  • 本調査は、自社開示、金融庁、東京証券取引所などの公表資料を基に、「不適切な会計・経理」で過年度決算に影響が出た、あるいは今後影響の可能性があることを開示した上場企業、有価証券報告書提出企業を対象に集計した。
  • 開示企業を対象として社数をカウントし、同一企業が年度内に2回以上内容が異なって開示した場合は、「件数」も表示するが、2015年度は2回以上の開示企業はなかった。
  • 業種分類は、証券コード協議会の業種分類に基づく。上場区分は、東証1部、同2部、マザーズ、JASDAQ、名古屋1部、同2部、セントレックス、アンビシャス、福岡、Qボード。

年度別推移 2015年度は過去最多を更新

 2015年度に「不適切な会計・経理」を開示した上場企業は58社(58件)だった。2007年4月に調査を開始以来、2014年度の42件を抜いて過去最多を記録した。2013年度から3年連続で増加している。
 2015年5月、東芝が不適切会計と第三者委員会の設置を発表し、その後、大幅な希望退職募集などのリストラ、医療分野や白物家電などの事業譲渡など、不適切会計が経営に大きなインパクトを与えている。2015年9月、金融庁は監査に対する信頼性の維持・確保のため、「会計監査の在り方に関する懇談会」を設置、監査法人による監査業務の厳格化を求め、不適切会計を許さない環境作りの一環として、監査法人等のチェック機能も強化している。

不適切会計上場企業 年度推移

年度別3月の開示社数 2015年度は前年の2倍

 2013年度から2015年度までの3年間で各年度の3月中における開示社数は、2013年度が1社、2014年度は7社、2015年度は14社と2014年度に比べ2倍増と急増した。2015年度の58社のうち、3月に約4分の1(構成比 24.1%)が集中した。
 2016年3月、金融庁は会計監査の信頼性確保を提言し指導しており、こうした施策の効果が表れた格好だ。

内容別 「粉飾」が最多の22社

 不適切会計の内容(動機)は、「利益水増し」や「費用支払いの先送り」、「代理店への押込み販売」や「損失隠し」など、業績や営業ノルマ達成を目的とした事実上の『粉飾』が22社(構成比37.9%)で最多だった。
 次いで、経理ミスなどの『誤り』が20社(同34.4%)、会社資金の『着服』が14社(同24.1%)と続く。
 子会社が当事者のケースでは、親会社向けに業績や予算達成を偽装した不適切会計が多い。また、役員らが関与した「役員への不正な利益供与」や「元従業員による会社資金の着服横領」などコンプライアンス意識の欠落した事例もあった。不適切会計の動機は、多様化している。

発生当事者別 「子会社・関係会社」が26社でトップ

 発生当事者別では、「子会社・関係会社」が26社(構成比44.8%)で、前年度16社から10社増加した。子会社による売上原価の過小計上や在庫操作、さらには支払い費用の先送りなど、利益捻出を目的とした不正経理、子会社従業員による架空取引や着服横領なども少なくない。
 監査の目が行き届きにくい子会社・関係会社で、コンプライアンスが徹底されにくいケースが露呈したといえる。
 「会社」は20社(構成比34.4%)だったが、経理処理のミスを指摘されたものが大半だった。「従業員」は、8社(同13.7%)で、着服横領のほか、代理店に対する押込み販売など、営業成績のプレッシャーから架空取引に手を染めたケースがあった。過度の成績至上主義が動機となっているようだ。

市場別推移 東証1部が29社でトップ

 市場別では2013年度までは業歴が浅く財務基盤が比較的弱いマザーズ、ジャスダックなどの新興市場が目立ったが、2015年度は国内外に子会社や関連会社を多く抱える東証1部、2部の大手企業に不適切会計が多くみられた。大手企業の子会社で従業員による着服横領や、業績達成のため架空売上・損失隠ぺいなどが目立った。

産業別 製造業が21社で最多

 産業別では、製造業が21社(構成比36.2%)で最多となった。卸売業の11社(同18.9%)、小売業の9社(同15.5%)、サービス業の8社(同13.7%)と続いた。
 製造業では、インフラや半導体事業で利益水増しを行っていた東芝のほか、代理店に対して押込み販売で売上高を過大計上していた曙ブレーキ工業(株)(TSR企業コード:290001102、法人番号:8010001034724、埼玉県)など、メーカーの国際企業間競争が激化するなか、自社の利益を優先するための不正経理が行われていた。


 2015年度は、東芝の不適切会計が大きな話題となった。コンプライアンスを徹底しなかった代償として企業は国内外でダメージを受けるが、投資家や従業員、取引先など、あらゆるステークホルダーも大きな損失を被ることになる。
 金融庁や公認会計士協会も、会計不祥事が監査の信頼を揺るがすとして、監査法人等が適切に監査業務を実施できる体制整備に取り組んでいる。金融庁は、「会計監査の在り方に関する懇談会」を設置、監査の信頼性確保の取り組みについての議論を公表している。公認会計士協会も、2016年2月~3月にかけて全ての監査法人や監査事務所に監査体制の緊急調査を行った。こうした取り組みもあり、監査法人や監査を受ける企業側もコンプライアンス意識が否応なしに高まっている。
 2015年度の上場企業の不適切会計は58社で、3年前の2013年(38社)の約1.5倍となった。これはリーマン・ショック以降の景気低迷時の不適切な対応が、この時期になって発覚してきたケースや、厳密な監査を求める機運が高まり、不適切会計が炙り出されたケースなどがある。 経済のグローバル化で、上場企業が海外子会社等を通じて国外取引を行う機会も増えている。目の届きにくい海外子会社との取引は、不正取引が潜む温床ともなりやすい。2015年度の当事者別では、「子会社・関係会社」が26社(前年度16社)と急増している。不正取引を見逃さない監査体制の整備を推し進めると同時に、不適切な取引・会計を許さない社内システムの構築が課題になっている。
 不適切会計の開示は、企業側のコンプライアンス意識の徹底と、監査法人等の監査体制の強化バランスで成り立っている。2015年度の不適切会計は、2007年度以降で最多の58件を記録したが、東芝を含めて、国際的な競争のなかで業績至上主義が跋扈すると、営業現場には過大なプレッシャーがかかり、個人だけでなく、時には組織ぐるみで不適切会計や不正会計に走ることを示している。
 投資家は、自己資本利益率(ROE)など上場企業の「稼ぐ力」を一つの指標として投資判断を行う。また、企業側は新興国の台頭により国際競争力を確保するためには、今まで以上にスピード感のある判断と業績を求められる。
 「経営計画は必ず達成する」という命題を抱えて、現実逃避的な対応が時に不適切会計へと向かわせるのかも知れない。だが、企業が投資家の期待に応えるには、業績とともに、企業監査を含めたガバナンス体制の構築も最優先課題として浮上している。

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