• TSRデータインサイト

銀行112行 「地方公共団体・中小企業等向け貸出金残高」調査

 銀行112行の2015年9月中間期(4-9月期)の貸出金のうち、地方公共団体(以下、地公体)向け貸出金残高は27兆2,906億円(前年同期比3.2%増)で、65行(構成比58.0%)が前年同期を上回った。金利競争は激烈だが、低リスクの自治体向け貸出は順調に伸びていることがわかった。調査を開始した2010年3月期以降、9月中間期では5年連続の増加となった。
 中小企業等向け貸出金残高も287兆6,388億円(前年同期比2.9%増)と伸びを見せた。112行のうち、約9割の100行(構成比89.2%)が伸び、9月中間期では4年連続で増加した。
 112行の2015年9月中間期の総貸出金残高は422兆9,437億円で、地公体向け貸出金残高の比率は6.45%、中小企業等向け貸出比率は68.01%を占め、それぞれ前年同期比0.02ポイント上昇した。
 ここ数年、金融機関の中小企業向け貸出は不動産業や福祉・医療を中心に伸びている。しかし、2015年9月中間期の伸び率は中小企業等向け貸出よりリスクの低い地公体向けが大きく、貸出金に占める割合は9月中間期では5年間で最大となった。低金利競争の中で金融機関が貸倒リスクを回避した貸出姿勢を強めていることがうかがえる。


  • 本調査は、銀行112行の2015年9月中間期決算の「地方公共団体向け」および「中小企業等向け」貸出金残高を前年同期と比較し、分析した。(りそな銀行、沖縄銀行は信託勘定を含む)

地方公共団体向け貸出金 前年同期比3.2%増

 銀行112行の2015年9月中間期の地公体向け貸出金残高は27兆2,906億円で、前年同期(26兆4,393億円)より3.2%(8,513億円)増加した。112行のうち、前年同期を上回ったのは65行(構成比58.0%)で、内訳は大手1行、地銀40行、第二地銀24行だった。前年同期は85行(同75.8%、大手行1行、地銀52行、第二地銀32行)で、20行減少した。
 地公体向け貸出金残高トップは、北洋銀行の1兆3,691億円(前年同期比7.5%増)で、総貸出金残高の24.4%を占めた。次いで、みずほ銀行9,372億円(同8.7%減)、常陽銀行8,089億円(同1.7%増)の順。貸出金残高5,000億円以上は14行で、前年同期(13行)より1行増加した。
 総貸出残高に占める地公体向けの貸出比率は6.45%で、前年同期比0.02ポイント上昇した。
 9月中間期では、この5年間で貸出比率が最高を記録した。112行のうち、地公体向け貸出比率が前年同期を上回ったのは51行(構成比45.5%)で、前年同期(70行)より19行減少した。
 地公体向け貸出比率の最高は北都銀行の34.2%(前年同期34.1%)だった。次いで、青森銀行34.0%(同33.6%)、鳥取銀行26.4%(同22.3%)の順。地公体向け貸出比率の上位5行すべてで前年同期より貸出比率が上昇しており、リスク回避の傾向は依然として強い。

銀行112行 貸出比率推移

中小企業等向け貸出金 前年同期比2.9%増

 銀行112行の2015年9月中間期の中小企業等向け貸出金残高は287兆6,388億円(前年同期比2.9%増)だった。9月中間期では4年連続で前年同期を上回った。銀行112行のうち100行(構成比89.2%)が前年同期より貸出を伸ばした。
 中小企業等向け貸出金残高トップは、三菱東京UFJ銀行の33兆5,378億円(前年同期比0.5%増)。次いで、三井住友銀行33兆2,502億円(同0.9%増)、みずほ銀行30兆9,292億円(同2.6%増)、りそな銀行15兆1,669億円(同3.0%増)と大手行が占め、横浜銀行が7兆9,729億円(同2.1%増)で5位に入った。貸出金残高1兆円以上は64行(前年同期同数)。

地区別 貸出増加率が6地区で「地公体向け」が「中小企業等向け」を上回る

 本店所在地の地区別では、地公体向け貸出金は東京、北陸を除く8地区で増加した。増加率トップは中国9.1%増。次いで、近畿8.3%増、中部7.7%増と続く。貸出比率は、北海道が22.9%で最高。次いで、東北20.6%、北陸17.7%、中国13.1%、九州10.9%の順だった。
 中小企業等向け貸出金は10地区すべてで前年同期を上回った。増加率は、九州の6.1%増を最高に、中国と東北が各4.5%増、関東が4.2%増と続く。北海道、東北、関東、中部、近畿、中国の6地区では地公体向け貸出の増加率が中小企業等向け貸出を上回り、地区で温度差があるようだ。


 2016年1月29日、日銀政策決定会合でマイナス金利の導入が決定され、2月16日に適用を開始した。低金利の貸出競争が続く中、マイナス金利を導入後、年利0.5%のキャンペーンを実施している銀行もある。だが、他行貸出先への低金利借換えを促すだけで、業績改善が進まない貸倒リスクの高い中小企業向け貸出は消極的なのが実態だ。
 地方銀行は地公体向け、中小企業等向けの貸出比率が前年同期を上回った。だが、第二地銀は地公体向け貸出比率は前年同期を上回ったが、中小企業等向けは下回った。
 金融機関は財務重視のスコアリングによる審査を行っていたが、今後は企業の将来性や事業内容を重視した「事業性評価」に基づく貸出が求められている。これまで以上に金融機関はリスクテイクしながら、中小企業向け貸出を伸ばすことが問われている。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月の「人手不足」倒産が過去最多 「従業員退職」が前年の1.6倍増、初の年間300件超へ

2025年9月に「人手不足」が一因となった倒産は、調査を開始した2013年以降では月間最多の46件(前年同月比109.0%増)を記録した。また、2025年1-9月累計も、過去最多の285件(前年同期比31.3%増)に達し、人手不足はより深刻さを増していることがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

ケーキや和菓子は「高値の花」に、スイーツ店が苦境 倒産は過去20年で最多ペース、競合商品も台頭

街のスイーツ店が苦境に陥っている。材料コストの上昇、酷暑、人手不足が重なり、商品値上げによる高級化も購入機会の減少につながったようだ。2025年1-9月の菓子製造小売の倒産は、過去20年で最多の37件に達した。

3

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月「後継者難」倒産が過去2番目 332件 高齢化が加速、事業承継の支援が急務

代表の高齢化が進み、後継者が不在のため事業に行き詰まる企業が高止まりしている。2025年1-9月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は332件(前年同期比4.5%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。だが、2025年は過去最多だった前年同期の348件に次ぐ、過去2番目の高水準だった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

5

  • TSRデータインサイト

2025年度上半期の「円安」倒産30件 仕入コスト上昇が卸売業を直撃

2025年度上半期(4-9月)の「円安」関連倒産は、30件(前年同期比31.8%減)だった。上半期では、2022年度以降の円安では前年度の44件に次いで、2番目の高水準になった。

TOPへ