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「登録小売電気事業者」199社の経営調査

 2016年4月1日、電力の小売自由化が全面スタートする。これまで地域の電力会社10社が独占供給してきた一般家庭向け電力販売が一般企業にも解禁され、利用者はライフスタイルや価値観、価格に合わせ自由に販売会社や利用プランを選択できるようになる。
 経済産業省の電力取引監視等委員会の審査を経て、4月以降に一般家庭への電力販売が可能となる「登録小売電気事業者」(以下、登録事業者)は2月23日現在、199社にのぼる。東京商工リサーチでは登録事業者199社の経営調査、分析を行った。
 新設企業などを除き、直近決算が判明した登録事業者141社のうち、売上高100億円以上は66社(構成比46.8%)にのぼった。このうち、単体ベースの売上高1兆円超の大企業は12社(同8.5%)あった。また、上場企業は199社中24社(同12.0%)で、新たな有望市場へのビジネスチャンスとして電力の小売自由化に対する関心の高さを改めてうかがわせた。
 登録事業者の本業では、電気業は63社(構成比31.6%)と3割にとどまり、異業種からの参入が7割を占めた。異業種参入組では放送業29社(同14.5%)、ガス業17社(同8.5%)など、地域に知名度が浸透している企業が目立った。この背景には、新規事業で既存の事業基盤を活かして有利に顧客囲い込みを図る狙いがあると思われる。


  • 経済産業省・資源エネルギー庁が開示した「登録小売電気事業者」(2月23日時点)について、東京商工リサーチの企業データベースをもとに経営調査・分析を行った。

売上高別 売上100億円以上が約半数

 登録事業者199社のうち、直近決算が判明したのは141社だった。141社の売上規模をみると、売上高100億円以上が66社(構成比46.8%)で全体の半数近くを占めた。
 次いで、10~50億円未満が40社(同28.3%)、50~100億円未満が16社(同11.3%)と続き、1億円未満は9社(同6.3%)にとどまった。
 売上高10億円未満は19社(同13.4%)と約1割に過ぎず、新規参入組は中堅以上が目立った。特に、売上高50億円以上の中堅規模以上が82社(同58.1%)と半数を超えている。高い知名度や豊富な事業基盤を背景に、新規市場を有利に展開したい意図がうかがえる。
 なお、売上高が判明しない企業(58社)の大半は、電力小売事業のために新設された法人で、事業化に伴い本格的な営業活動を始めるとみられる。

登録小売電気事業者 売上高別

売上高ランキング 1兆円超えが12社

 直近決算が判明した登録事業者141社の売上高ランキングでは、トップが石油元売最大手のJXエネルギーの8兆1,565億3,200万円だった。ガソリンスタンド「ENEOS」を絡めた割引サービスなどを打ち出している。
 以下、丸紅、伊藤忠商事、三井物産の総合商社が続き、上位12社までが売上高1兆円以上だった。ランキング上位には入らないが総合商社の三菱商事は、コンビニ大手のローソンと提携して設立した共同事業会社、MCリテールエナジー(TSR企業コード:015740552、東京都港区)を通じて参入。また、住友商事も100%出資子会社のサミットエナジー(TSR企業コード:296054275、東京都中央区)がケーブルテレビ最大手のジェイコムグループと提携した。
 大々的な広告宣伝で通信料とのセット割を打ち出すソフトバンクグループは、東京電力と業務提携して販売活動を展開する。
 また、上場企業は199社中24社(構成比12.0%)で、このうち東証1部上場が21社を占めた。

資本金別 1億円以上が5割超

 登録事業者199社の資本金別では資本金1億円以上が113社(構成比56.7%)で、全体の半数以上を占めた。以下、1~5千万円未満が48社(同24.1%)、5千万円~1億円未満が26社(同13.0%)と続く。資本金別でみても豊富な資本背景を有する大企業中心の構図が裏付けられ、最も資本金が大きい登録事業者は総合商社の三井物産で、資本金額は3,414億8,164万円だった。

産業・業種分類別 7割が異業種からの参入

 登録事業者199社の本業の産業別内訳は、サービス業他が107社(構成比53.7%)で約半数にのぼった。サービス業他は、電気業(63社、構成比31.6%)とガス業(17社、同8.5%)が含まれ、この2業種の合計だけで107社中、80社を占めた。以下、情報通信業35社(同17.5%)、卸売業25社(同12.5%)、製造業13社(同6.5%)、小売業12社(同6.0%)と続き、農・林・漁・鉱業と金融・保険業からの参入はゼロだった。
 業種別上位では、電気業が63社(構成比31.6%)と最多だったが、全体の3割にとどまっており、全体の7割は異業種から電力小売事業に新規参入している。
 電気業の内訳をみると、これまで大口需要家向けに販売してきた「特定規模電気事業者(新電力)」や電力小売の全面自由化に備えて新設された企業が中心。また、放送業29社のうち、25社がケーブルテレビ最大手のジェイコムグループの地域会社が占める。このほか、エネルギー供給という面でノウハウを有し、従来業務とのセット契約の販売も見込めるガス会社など、消費者向けビジネスモデルに長けた業種からの参入が多いのが特徴となっている。

登録小売電気事業者 業種別上位

業歴別 2015年に設立された登録事業者が28社

 登録事業者199社のうち、業歴別で最も多かったのは業歴10~50年未満の83社(構成比41.7%)だった。次いで、5年未満の55社(同27.6%)、50~100年未満の35社(同17.5%)と続く。最も業歴が古かった登録事業者はガス大手の東京瓦斯(1885年設立)で、業歴130年を超える。
 また、業歴5年未満の登録事業者55社のうち、2015年に設立された登録事業者は28社(同14.0%)にのぼった。電力小売の全面自由化に合わせて新設された企業が中心で、今後の営業展開が注目される。

  • 法人設立日から現在までを業歴と定義した。

地区・都道府県別 本社所在地は東京に集中

 登録事業者199社の本社所在地を地区別でみると、関東が125社(構成比62.8%)と約6割を占め、以下、近畿26社(同13.0%)、九州19社(同9.5%)と続く。関東では東京都が90社にのぼり、199社の半数近く(同45.2%)を占めた。
 一方、北陸はゼロ、東北は2社(同1.0%)、四国は3社(同1.5%)と登録事業者が極端に少なく、地域差が大きかった。
 都道府県別の社数では、東京都が90社(同45.2%)でダントツのトップ。2位は大阪府16社(同8.0%)、埼玉県11社(同5.5%)、千葉県と福岡県が各9社(同4.5%)と大都市圏が上位に並ぶ。
 資源エネルギー庁の公開資料によると199社のうち、少なくとも10社以上は電力供給予定地を全国及び沖縄県を除く全国としているため、地区内に登録事業者がなくてもサービスを受けられる可能性はある。電力小売の全面自由化の特徴は、地域の電力会社以外(管轄外)からの電力購入や、逆に住んでいる自治体などが運営する登録事業者から購入する電力の「地産地消」も可能になる。ただ、現状では人口が集中する都市圏の選択肢が豊富なだけに、都市圏と地方との地域格差を抱えてスタートすることになりそうだ。


 経済産業省の認可団体「電力広域的運営推進機関」の集計によると、4月1日以降、電力の購入先の変更を申請した件数は全国で約23万4,000件にのぼる。このうち、東京電力管轄が16万4,000件、関西電力管轄は6万件と全体の95.7%を占める。今後、サービス地域が拡大し、地方への波及が進めばさらに申請件数は伸びる見込みだ。
 巨大な新規市場として有望視される電力の小売自由化だけに、大手企業を中心に異業種からの参入が相次ぎ、自社サービスとのセット割引やポイント付与などのメニューで顧客獲得競争が激化している。
 だが、50kw以上の大口需要家への電力販売が可能な「特定規模電気事業者(新電力、PPS)」5位の日本ロジテック協同組合(TSR企業コード:298943107、東京都中央区)が2月25日、登録を取り下げて電力小売事業から撤退した。自前の発電施設をもたず、電力の仕入価格に左右されることから利幅が薄く、急成長が慢性的な資金不足を招いた。
 一般家庭向けの電力小売事業も構造は同じだ。いかに安く電力を仕入れ、より多くの供給先に販売し、利益を確保できるかがポイントとなる。同時に、本格スタートで急増する売上高で膨らむ資金需要にどう対応するか、資金力も求められる。このため、スケールメリットを活かし、資金力や販売チャネルが豊富な大手企業に顧客が集中する可能性も高い。
 電力小売事業は参入バブルの様相もみせるが、新規市場の競争は厳しい。独自色を打ち出せず差別化できない登録事業者や、資本背景に乏しい中堅以下の登録事業者は過当競争に巻き込まれかねない。鳴り物入りでスタートする電力小売の全面自由化だが、競争原理が働くだけに、登録事業者の早々の撤退や廃業、倒産などを想定した対応も問われている。

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